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刺客達からデンジを守る仕事に対して名前はいつも以上に気合いが入っていた。


『デンジくんのことは名前が守るからね!』
「ええ〜…
あのマキマさん、名前ちゃんこの仕事から外してくださいよ〜…死ぬかもしれねぇ危ない仕事じゃないですかぁ…」
「名前ちゃんは公安の中じゃトップレベルで戦える子だからね。前線で戦ってもらって少しでも皆のこと守ってもらわないと」
『私が守るのはデンジくんだけですけどね!』
「それに、この仕事は名前ちゃん自ら立候補したんだよ。彼女の気持ちを大切にしてあげて」
「名前ちゃん…」
『デンジくん…』
「名前、いい空気のところ悪いがこうしてる間にもデンジが狙われてるかもしれねぇんだ。立候補したんなら気を張れ」
『はい!』
「…素直じゃねぇか」


岸辺は、いつもこうだったらいいのに…と思った。今度から組手演習の時はデンジの等身大パネルでも置いておこうかと考える。


「と、いうわけで当日は名前ちゃんは岸辺さん、コベニちゃん、暴力と一緒にクァンシとドイツのサンタクロースの討伐をお願いします」
『……、へ?
え、マキマさん、私デンジくんについて向かってくる敵の討伐をさせてくれるんじゃないんですか?』
「そこには対人のプロ達が付くから。名前ちゃんは特に危険視する刺客二人をお願い」
『そんなぁ……』
「クァンシとサンタクロースを討伐することはデンジくんを近くで守るより一番デンジくんを守ることになるよ」
『岸辺先生!なんとしてでもサンタクロース殺しましょうね!』
「あれ、クァンシは?」


名前は岸辺が昔クァンシと組んでいたことを知っているので岸辺をちらりと横目に、気まずい表情を浮かべた。マキマも意地悪なことを聞く。



「あ、そうだ。名前ちゃん、後で私の所に来て。別件でお話したいことがあるの」
『あ、はい』


ニコリと微笑むマキマによく分からず名前も釣られて微笑んだ。


『とにかく!頑張ります!大好きなデンジくんは私が守ります!!』


とにかく名前は気合十分だった。



「なぁ名前ちゃん、今日の仕事が終わったらデートしようぜ〜」
『うれしぃ〜!名前、ペットショップに行きたいなぁ』
「ペットショップ?」
『うん。わんちゃんの赤ちゃんが名前見たいのぉ』
「わんちゃんの、赤ちゃんが見たいのぉ?」
『うんっ』
「カ〜〜〜ワイイ〜〜!!」



若者は緊張感がない。
おじさん達は静かにため息を吐いた。





***



「俺はクァンシと話してくる。コベニ、暴力、お前らは柱に隠れてデンジとパワーが危ねぇ時に援護しろ。」
「「はい」」
「名前は遠方からでクァンシと魔人が逃げようとした時に仕留めろ」
『はい』



そして岸辺はクァンシと話し始めた。

クァンシの話をする時、岸辺は他の何を話す時よりも穏やかで優しい目をする。きっと岸辺にとってクァンシは大切な人なんだと名前は思った。


『(岸辺先生とクァンシさんが一緒に居るっていう選択肢は無かったのかな…)』


クァンシが同性愛者だということを知らない名前は平和ボケした考えをぼんやり浮かべていた。


その時、クァンシが動いた。

魔人達がデンジ、パワーから離れる。クァンシは岸辺の攻撃を華麗に避けた。


「あいつバケモンだ!逃げるぞビーム!」


そしてビームに助太刀されたデンジがこっちへ向かって走ってきた。


『デンジくん!』
「名前ちゃん!!
俺、チェーンソーになってた方がいいかなぁ!?」
「チェンソー様!血!節約!」
『ビームの言う通りだよ!ここは私とビームで戦うから!』


走って逃げているとビームが躓いて転んだ。


『ビーム!』
「おいドジっ子!」


立ち止まったその瞬間、デンジが「痛!」と声を上げる。左足で釘を踏んでしまった。しかも貫通。


「ひい〜〜釘踏んじゃった…」
『デンジくん!大丈夫?!痛そう…!』
「へーきへーき!このくら、」


い。
と言い終わる前にデンジの身体が浮き上がる。


『デ、デンジくん…?』
「なんか!あれっ…掴まれてる!」
「す、すげえ…浮いてる…」
「動けね〜!
あ!なっ 体がハリツケになってくよ〜!?」
『デンジくん!』



ビームと名前は何が起きているのか分からずただデンジを見上げるしか無かった。


突然、デンジの背後に巨大な動物のような骸骨が現れる。
その骨はいとも簡単にデンジの腕を掴み、捻り切った。デンジの口から、捻り切られた腕から血が吹き出す。


体が自由になり重力に負けたデンジが落ちてくる。名前は瞬きのように次々起こる悪夢に金縛りのようになった身体を振り切って落ちてくるデンジを受け止める。
それに続くようにビームが駆け寄った。


『デンジく、』


その時、屍だと思っていた男に名前は頭を蹴られ、脳震盪を起こし気を失ってしまった。







こうして現状は一気に動き出す。





気付いた頃には皆、地獄にいた。






***




「名前ちゃん、名前ちゃん」



その声で目が覚めた。

目を開けるとそこはどこかの廃墟のようなビルの中。周りには沢山の屍。すぐ近くにもある。名前は「うえ…」と言いながら身をよじり、起こした。

コツ… ヒールの音が部屋に響く。

音のした方を見るとそこにはマキマがいた。



「良かった。危なかったんだよ、名前ちゃんも地獄に連れていかれるところだったの」
『地獄…?』


何の話をしているのか、起きたばかりの名前には理解出来なかった。


「そう。今あのデパートにいた人達はみんな地獄にいるの。」
『デンジくんも、ですか…?』
「そうだよ」
『地獄って…
助けに行かなきゃ!』
「その前に名前ちゃんに言わなきゃいけないことがあるの」


マキマは名前の前でしゃがみこみ、目線を合わせた。









「もうデンジくんに名前ちゃんは要らないんだよ」







『どういう、』
















マキマは名前の返答を待たず、首を斬った。





「何かデンジくんに言っておくことある?
……って、もう死んでるか。」






***




名前ちゃんは公安にも帰って来ず、それでも俺はずっと待っていた。

地獄にもいなかったようだし、生きてっかな。大丈夫かな。まぁ名前ちゃん、激強だし死んではないだろうけど。






いくら待とうが、名前ちゃんは一向に来ない。
もうテレビ番組はバラエティーなんて終わって、深夜番組へと入っていた。

見たくもないテレビの情報をぼんやりと見ながら俺はソファーに身体を沈めていく。


…名前ちゃん、俺との約束忘れちゃったのかな。






「あれ、デンジくん。まだ居たんだ」







後ろから女の声がして勢いよく振り向く。



「マキマ、さん…!」
「もうお仕事はとっくに終わったでしょ?何してるの?」
「名前ちゃんを、待ってます…」
「名前ちゃん?」


俺に近づいて来る度にコツコツとマキマさんの靴の音が暗い部屋に響く。
俺の隣に座ると、マキマさんの体重の分、ソファーは少しだけ沈む。


「名前ちゃんは来れないよ」
「え!!マキマさん知ってるんですか!!」
「名前ちゃんには別の任務に行ってもらったから、会えないよ」
「そう、か。」



一言電話してくれたら良かったのに。

とも思ったが、名前ちゃんは約束をすっぽかした訳じゃないから別にいいか!

だから帰ろう、とマキマさんに誘われてようやくソファーから立ち上がり、本部を出た。






「今日は名前ちゃんとデートだったの?」
「デ、!
い、いや!その…、はい。」
「そうなんだ。何処に行く予定だった?」
「ペットショップ見に行こうって。名前ちゃん、犬が好きらしくって」
「そっか。名前ちゃんも犬が好きなんだ。私と一緒だ。今度お家に呼んでみようかな」
「お、俺も行きたいです!!」
「うん。良いよ」
「マキマさんち犬いるんですか?」
「いるよ」
「へえ〜!名前ちゃん絶対喜ぶと思います!!」

「だと、良いなぁ」















それからすぐ。岸辺から名前ちゃんが死んだことを聞いた。




でもたぶん名前ちゃんは死んだわけではない。



前に

“私、この仕事をする為に政府にお金貰って育ててもらったから、絶対死ぬまで辞めれないの。
だから悪魔に殺されたフリをしてどっか外国に行こうかな〜とか考えてる!”


って言ってた。
あと、


“デンジくんに話したらマキマさんにすぐバレちゃいそうだなぁ……
そうだ!外国に逃げてちょっとしたらすぐに私がどこにいるか、デンジくんに電話するからね!”



とも言ってた。





会えない時間が寂しいじゃんかよ〜〜と言う俺に、嬉しそうに笑った名前ちゃんは可愛かった。

そして俺の頬をつん、と人差し指で押して言ったのだ。




“大丈夫!
デンジくんと名前は愛の力があるから!”





そうだ。俺達には愛の力がある。




岸辺はバカだな。

酒ばっか飲んでるから脳みそがイカレてんだよ。名前ちゃんの嘘も見抜けてねーじゃねぇか。


名前ちゃんは今、外国に逃げてんだ。
だから会うのはもう少しガマンだ。


名前ちゃんが落ち着けばどこにいるか電話が来る。そうすりゃ俺達はまたラブラブ生活に戻れるってわけよ。


ちゃんと待っていられれば、名前ちゃんはまた『デンジくんすご〜い!』って嬉しそうに、あの可愛い笑顔を見せてくれるはずだ。



今度会った時は名前ちゃんにキッスしちゃお!




愛があれば、大丈夫だ。





end 2020.10.01