×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





「名前ちゃん、今日は来てるかなぁ…」
「名字なら今日来ますよ」
「え、アキくん何で知ってるの」
「朝岸辺さんが電話で夕方呼び出してるの聞きました」
「そっかぁ… 名前ちゃん今日来るんだぁ…」


最近、名前ちゃんの表情が柔らかくなったらしい。らしい、というのもアキくんから聞いたからだ。


「姫野さん本部帰りますか」
「うん。名前ちゃん見に」
「物好きですね… 俺は帰ります」
「はーいまた明日〜」


本部に私を送ったアキくんはそのまま車で帰っていってしまった。

名前ちゃんというのは、施設で育っていたときに《少年期からのデビルハンター育成》を政府のきまぐれによって選ばれた女の子。

人間兵器を作りたかった政府にとっては好都合だ。

悪魔退治をする為だけに育てられたから確かに彼女は強い。効率的な動きで、契約している悪魔の力を上手く利用しながら彼女の得意とする体術を活かしている。

でも、情操教育があまりに乏しい。感情を表すことはほとんど無くて、怪我をしても、バディが亡くなったとしても涙を流すことなんて一度も見たことがない。

“人造人間なのでは?”

なんて馬鹿げた声も聞こえるほど。まぁ言いたいことは分かるけど、年頃の女の子に対しては失礼すぎるよね。

あの子はマキマにヤバイ仕事をさせられてるとか何やらで、顔を合わせることが他の人よりももっと少ない。

今日は名前ちゃんが本部に立ち寄っていると聞いて現場が収拾ついた後、私達も本部に向かう。

4課のデスク付近や待機所には名前ちゃんの姿は無い。岸辺先生は帰るところで名前ちゃんの居場所を聞くと


「話が終わったら早々に出て行った」


と言い、先生も出て行った。
もう帰ったか。半ば諦めて煙草を吸いに屋上へ向かう。

ドアに手を伸ばした時、薄暗い公安の本部には似つかない、楽しそうな笑い声が聞こえた。向こう側を覗けるだけ扉を少しずつ音がならないように開けて隙間から見た。

色素の薄い髪色の男の子の背中が見えた。その向こうには艶やかな黒髪。



『もう、デンジくんったら』



ほっぺを赤らめ、目を弓なりにして笑う名前ちゃんがいた。




そっか。あの子ってちゃんと笑えるんだ。




デンジくんも一生懸命名前ちゃんを楽しませようと喋っていて、決してうまくないその話を名前ちゃんは口角を上げて穏やかな顔で聞いている。



一目で分かった。


名前ちゃんはデンジくんに恋をしている。





「青春だなぁ…」




そっと扉を閉め、煙草はポケットにしまい、私も本部を出て、帰路につく。

何が人造人間だ。
ただの女子高生じゃん。


家に帰ったら、今日は初々しい恋をする映画でも見ようかな。




2020.09.24