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『もう最悪…何で今悪魔出るんですか?』


セーラー服のスカートのポケットから名前が気だるそうに出したのはメリケンサック。
両拳に装着しながら名前は不満げに岸辺に愚痴を零した。


「勤務中にデート入れる馬鹿がどこにいるんだ」
『その時間だったら抜けていいって言ったの、岸辺先生じゃないですか』
「四の五の言わずにさっさと倒してこい」
『やだなぁイカの悪魔だなんて…
この後デンジくんとデートなのに墨で汚れたらどうしよう』
「早く行け」
『分かりましたよ。
この糞イカ野郎…私の予定を狂わせやがって。
来い、拳鍔(けんつば)』


名前の合図と共に両拳のメリケンサックを覆うように溶かした鉄のようなものが巻き付く。これが名前の契約している悪魔、拳鍔の悪魔だ。

握り拳を構え、戦闘ポーズを作ったその時だ。


「あれ、名前ちゃん!?」


振り返りそこにいたのはパワーと一緒に現場へ来たデンジだった。名前は両手に装備した拳鍔の悪魔を慌てて背中に隠す。


『デ、デンジくぅ〜〜んっ!どうしたのぉ〜〜?』
「俺たちもコイツの討伐で呼ばれてさ〜!ちょうど“名前ちゃんとのデートに遅れるから連絡しねぇとな〜”って考えてたところだった!」
『こんな所で会えるなんて、運命だね…』
「ちょ…可愛いこと言うなよな〜!」


目の前にはイカの悪魔が暴れ回る中、二人して身体をくねらせて甘い雰囲気を出す。パワーは本能の勘なのか、はたまた討伐に興味が無いのか野良猫のようにどこかへ行ってしまった。

見兼ねた岸辺はいつにも増して死んだ目をして名前に言い放った。


「名前、早くやれ」
『え〜〜そんなぁ〜〜!
わたしぃ、イカさんをやっつけるなんてぇ、出来ないですぅ〜!』
「……あ?」
『イカさんもみんなと同じ生命があるからぁ…かわいそぉ…』


岸辺の目は闇の悪魔が住み着いているかのように黒く、呆れた目をしていた。

デンジに出会ってから二ヶ月程が経つが、その間名前の感情表現はめきめきと成長していった。岸辺の努力してきたあの一年間は一体何なのだろう。十代の恋とは恐ろしいものだ。

そんな岸辺等露知らず、デンジは心配そうに眉を下げる。


「名前ちゃん、優しすぎると自分が危ねぇ目に合うんだぞ?今日は俺がいるからいいけど。名前ちゃんが死んだら、俺悲しい」
『デンジくん…
うん…っ 今度から名前頑張るね』


岸辺は思った。

昨日、目の光もなくカッターの悪魔をガツガツ殴り潰したのはどこの誰だ…。




デンジによってイカの悪魔は倒された。まだ他にも任務が残っているデンジとパワーに名残惜しそうに別れを告げ、岸辺と名前は本部へ戻る為、車に移動した。


「…お前、今後はデンジと現場で一緒になることは無いと思えよ」
『え!何でですか?私とデンジくん強すぎてバランス偏りますか?』
「お前が使いもンにならねーからだよ。
次あんな真似したら俺もパワーみたいに猫を探しに行く」


その後数日は本当にデンジと同じ任務にはつかせてもらえなくて、名前は岸辺の職権乱用だと駄々を捏ねたが、岸辺は聞こえないふりをした。





2020.09.23