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昔から、なまえとカラ松は仲が良い。


なまえは兄弟全員と仲は良かったが、カラ松とは俺とは違った親密さがあったのだ。
会話はウィットに飛んでいて、会話の流れの良さで言えば俺と話している時以上かもしれない。


「なまえちゃん、これはどうだ」
『ん〜、無いよそれは』
「じゃあこれは」
『いやいや柄の問題じゃないってば』


カラ松が開く雑誌に二人仲良く見ている。それがファッション雑誌ならまだ可愛いものの、カラ松がなまえに見せて意見を求めているのは、刺青のデザイン集。


『あ、この兎の刺青可愛い』
「どれだ?」
『ほら、これ。可愛いでしょ』


なまえとカラ松の体がより一層近づく。


「なまえちゃん、こういうのに興味あるのか?」


見せてるのはお前だろ、カラ松。
と、俺は言いたい。


『うん。いいな〜って、ちょっと憧れてるところはあるかな。』



伏せていた長いまつ毛が、その飴玉みたいに大きくて愛らしいなまえの目が、カラ松の方へ揺れる。

あぁ。
旦那の俺が近くにいるのに、なまえは何考えてるんだ。俺だけを見ればいいのに、俺だけを…



「兄貴は嫌がるんじゃないか、そういうの。なあおそ松」
「へ?」
『刺青よ。うなじか胸元に入れようかなって。ちっちゃいのなら、』


何度も言ってるのに。まだ分かんないのか。


「駄目だって言っただろ。俺、前も言ったよな?身体を傷つけんなって
何度も言わせんなよ」
「おそ松」


カラ松に声を掛けられて脳みそが冷めた。
目の前のなまえは驚いたように目を丸くしてパチリと瞬きを一回。そして呆れたように俺を見た。

…俺、もしかして今ちょっと言い過ぎた?



「あ…いや、その、えーっと…
あの、なまえちゃん…」
『タトゥーの話をしたらいつも怒るんだから!』
「そうなのか」
『おそ松とお揃いのタトゥー良いなと思ったのに!』
「兄貴、お揃いだとよ」
「お揃いだとしても!
お前の大事な身体に入れさせるわけねーだろ!」


思いのほかデカい声を出した俺をきょとんとした二人が何も言わずに見つめた。


「…んだよ。そんなに見んなよ金取るぞ」


抜が悪く言う俺の言葉に、二人はタイミング良く顔を見合わせ、笑った。


「おそ松は本当になまえが好きだなぁ」
「な、何だよ」
『こんなに愛されてるなんて、私って幸せ者だわ』
「そういえばうちのシマに新しい焼肉屋が出来たらしいぞ。完全個室で上品な店らしくてな。是非今度来てくれと言われていたんだ。今から行ってみるか?」
『お肉!食べたい!
ねぇおそ松、今日はお肉を食べにいきましょうよ!』
「あ、あぁ。別にいいよ」
『やった!今すぐ行きましょう!』
「お安い御用さ、マイシスター」


車を前に付けておくよと立ち上がり、カラ松は部屋を出た。

なまえはお願いねと口の両端を上げる。

とんとん拍子に進んでいく会話に、ついていけないのは俺だけだろうか。



「なまえ、マジで行くの?」
『うん。おそ松今日暇でしょ?』
「まぁそうだけど…」
『何でさっき機嫌悪かったの?』
「いや、別に機嫌悪くなんか、」
『嘘ばっかり。』


有無を言わせない真っ直ぐな瞳は、昔からこいつの得意技だ。この目を見ると、俺は昔から嘘を通せなくなる。



「…カラ松と近すぎだったぞ」
『、あぁ〜〜…』
「あ!!小さい男と思っただろ!」
『思ってない思ってない』


なまえは嘘をつく時、二回言葉を繰り返すくせがあることくらい俺は知ってる!


『私とカラ松ってね、似てるところがあるの。なんだと思う?』
「知らねぇよ」
『もう、ちゃんと考えてよ』
「うーん、はい考えた。
分かんねえ。早く教えろ」
『もう…
正解は、おそ松が大好きなところでした』
「…なまえちゃんに言われるのは嬉しいけど、あいつからのはきしょくわりー」


ふふ、なんて可愛く笑うなまえちゃんは何だか楽しそうだ。

馬鹿だなぁ、俺。カラ松が俺の大事ななまえを横取りなんてする筈ないのに。
弟に嫉妬して、何やってんだ。

こんなだから親父に「まだまだ青臭い餓鬼だ」と言われるし、デカパンの叔父貴にはなまえちゃんの夫としてまだ認めてもらえないんだろうなぁ。あーあ。

「なまえちゃん!好き!
キス!キスしたい!ちゅう!ちゅう!」
『やーん!』
「おそ松!もう車付けてるんだぞ!早くしろ!」


カラ松に呼ばれて慌てて車に向かったのは、それから少し後のことだった。




2020.11.17