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俺の嫁さんの話をしよう。
目に入れても痛くない可愛い女の子の話。


いつからかは分からないけど、物心付く頃には俺はなまえと結婚するんだと言われ続けてきた。
昔はよくなまえと喧嘩してたし、その度に母さんは

「なまえちゃんはあんたのお嫁さんになる女の子なんだから大切にしなきゃだめよ」

といつも言った。
息子の俺じゃなくて他人の子であるなまえ優先かよ!と思ったけど、母さんはなまえちゃんを娘のように可愛がっていたから渋々聞き入れてたっけな。
俺もいつの間にかなまえは大切にしなきゃいけない女の子というのが無意識に、潜在意識の中にあった。



なまえはよく笑う娘だ。俺に対して怒ることもたまにはあるけど、甘い物を贈り物に謝ればすぐ許してくれる。

ちょっとだけわがまま。だけどそんなところも可愛い。

あとテレビが大好き。暇さえあればテレビの前を陣取る。俺たち夫婦のチャンネル権は、俺が旦那であろうと、若頭であろうと、全てこうめのものだ。

あと、最近は末弟とヨガに通っているらしい。今までも沢山習い事を始めてきたが三ヶ月と持たなかった。きっとヨガも一ヶ月も持たない。
あの娘は色んなことに興味を持つからね。なまえちゃんが『やりたいな〜』と言うことは何でも許してやりたい。でも刺青は駄目。俺の背中を見る度に指先で触れて『かっこいい。』と呟く。この次に来るのはいつも『私もちっちゃいの入れたいな』だ。絶対に許さない。あの白い肌に跡を付けるのは俺の唇だけでいい。

と、その時。何も考えずテレビを見ていた俺の前に現れたのは、


『おそ松見ててね』


半袖のTシャツに短パン姿のなまえちゃん。俺の前に広くスペースを取り、床に手を添えて何かヨガっぽいポーズを取り始めた。俺は何を見せられているんだ。可愛いから許すけど。


『太陽のポーズ』
「何それ」
『昨日ヨガの先生に教えていただいたのよ?ほら!トド松くんと一緒に行ってる…』
「あ〜!」
『ねぇ、上手?』
「俺、ヨガとかしたことないから分かんないよ」
『ふふ、それもそうね』


態勢を戻して俺の隣に正座をする。座る時とか一つひとつの仕草が綺麗だ。可愛い一人娘に、あの叔父貴も構い倒したんだろうなぁ。

じっと見つめていると、気恥しそうに小さく笑って『何でそんなに見るの』と言った。可愛くて仕方ないからだよ。でもそんなこと言わない。


「着物姿じゃないお前見るの久しぶりだなぁと思って」
『そういえばお家では着物が当たり前になっちゃったな』
「ていうかさ!ヨガの時、いっつもそんな薄着なわけ?」
『うん。動きやすいの』
「でも近くにトド松もいるんだろ?」
『うん。でもトド松くんだよ?』
「あいつだって男だろ〜?
…ちょっと待って、ヨガの先生って男?」
『女性だよ、とっても綺麗な人。トド松くんも先生狙いで私に付き合ってくれてるの』
「先生、綺麗なの?」
『そうよ』
「俺も見に行こうかな」
『コラ』
「いてて」


冗談っぽく言ったら、ちょっとヤキモチをやいたみたいで俺の頬を軽くつまんできた。
俺だって本当はその飴玉みたいな綺麗な丸い瞳に、俺以外の男を映してほしくないし、俺の傍から離れないでほしい。


『そう言えば、今日会合があるんじゃなかった?』
「親父が行くってさ」
『あら。お義父さん、腰もう治ったの?今朝まで“まだ痛いよ〜”ってきつそうだったよ?』
「なまえの前だけだよ。心配されてーだけ。」
『ふふ、なら良かった』


すると『着替えてくるね〜』と急に立ち上がり自室へ向かう。俺にあのヨガのポーズ、あれ、ポーズの名前何だったっけ?もう忘れたけど、あれを見せる為だけにスポーツウェアに着替えたんだ。


『今からは何にも無い?』
「うん、無いよ〜 何で?」


見たい映画でも借りてきたんかな。なんて思ってたらくるりと振り返り俺を見る。


『可愛い下着買ってきたからゆっくり見てもらおうと思って!』
「あ……」


ふふ、と小悪魔みたいな笑みだけを残して、

パタン。
なまえちゃんの部屋のドアが閉まる。

残された俺は開いた口が塞がらず、少しの間ぽかんと口を開けたままだった。

ふと我に返って、先程の笑みが頭に残ってガシガシと頭をかく。


「…どこであんなの覚えてくるのかねぇ…」


俺も立ち上がり、着物の裾を直す。閉められた部屋に向かって声をかけた。


「なまえー、蔵に酒取りに行ってくんねー」
『はーい』


本邸の方から親父が隠してる良い酒でも拝借すっかね。良い酒は蔵の奥の箱に隠してんのをレジェンドな俺は知ってるんだなこれが。

そしてほろ酔いになりながら俺の可愛いあの娘の可愛い下着を眺めよう。
我ながら、最高のアイデアじゃん!



改訂 2020.09.20