忍足謙也
2023/04/04 08:44

「いつまでメソメソしてんねん」
 謙也が呆れたように言った。そんなこと言われたって。わたしは口を尖らせて拗ねてみせる。彼氏に振られて1週間しか経ってないんだよ。
 親身に慰めたり笑わせようとしてくれた謙也にすっかり甘えていたら、とうとう呆れられてしまった。悲しくなって、またじわりと涙が浮かぶ。すると慌てふためいて「お、俺のせいか!?す、すまん」と眉をへたりと下げさせた。釣り目が下がると、黙っていれば硬派な顔立ちが一気に柔らかくなる。
「…ちょお強く言いすぎたかもしれへん」気まずそうな顔。
 いいよ、どうせ謙也もわたしにうんざりしたんでしょ。口にはしなかったけど表情には出ちゃって、あー、だとかうー、だとか謙也は唸って言いよどみ、ぽつりと呟いた。
「さっさと忘れたらええやん。自分を大事にしてくれへん奴なんか」
「簡単に言わないでよ」
「…まだ好きなんか?そいつんこと」
「…どうだろ」わたしは返答に困った。たぶん、振られたのが悲しいだけなのかも。
「あー、なんや、失恋には新しい恋がええって言うやろ」
 励ましかと思った。けど、目をウロウロさせながら少し顔を赤くする謙也が言う意味が分からないほど、わたしは鈍感じゃない。
 思わずまばたきして見つめると、彼はますます赤くなって、そっぽを向いて不機嫌そうに俯いている。熱が移ったようにわたしまで赤くなりそうだった。
「じゃあ…その相手になってくれるの?」
 謙也が急に顔を跳ね上げさせたせいで、唇に触れようとしたわたしの唇は端っこにズレてしまった。真っ赤に照れて言葉を失っている彼に胸が疼いてくるのを感じる。現金なわたしは、もうすっかり失恋の痛みなんか飛んでいってしまった。


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