幸村精市
2023/04/04 08:45

 ふたり並んで花壇の世話をする、この時間が好きだ。
 幸村は花を見るふりして、こっそり彼女の横顔を見つめた。彼女はきらきら目を輝かせて、汚れるのも構わず楽しそうに花を愛でている。
 うれしかった。自分の好きな人が、自分の好きなことを楽しんでくれるのはぽかぽかしていい気分だ。
「ね、見て」
 彼女が振り返った。「蕾が膨らんでる!」と無邪気な笑顔。彼女は花みたいだ。幸村はフフ、と笑った。「ほっぺたに土がついてるよ」「ええ!?」
 彼女は慌てて顔を拭うけど、土を触っていた手で擦るものだからますます汚れていく。
「じっとして、とってあげる」
 くすくす吹き出してそう言うとちょっぴり罰が悪そうに眉を下げるのが可愛かった。
「動かないでね」
 ほんの少し悪戯をしてみたくなった。彼女の頬を両手で包み込み、すり、すり、と指で撫でる。もちもちで柔らかくて、自分と同じ生き物とは思えなかった。
「と、取れた?」
「まだ。もう少し…」
 触れている頬が熱かった。
「くすぐったいよ……」
 熱に浮かされるようにして、ふたりは唇を合わせた。彼女が花じゃなくて良かった、と幸村は思った。そうしたらきっと、こんな幸せなことできないから。


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