22

 刹那は目を見開く心操の背中に空中から飛び移ると、首からテープを毟りとった。本当は蹴りを叩き込んでアウトにさせる方が楽なのだが、直接的な妨害目的での攻撃は退場になってしまう。
 よろめいた心操を尾白が咄嗟に支え、青山が無言でネビルレーザーを繰り出した。心操を足場に刹那は飛び上がってそれを避け、滞空する刹那を角取の角砲(ホーンホウ)が回収して2人の元へと飛んでいく。
「言ったでしょ。ぶちのめしてあげるって…」
 去り際にそれだけ呟いて、操作角に乗り空中を滑空されながら刹那は考える。

 目が合った尾白が刹那に何の反応を示さないことも、常に煌びやかさを意識する青山が無表情で機械的に刹那に攻撃を繰り出してきたことも不自然で、背後を振り返った。
 忌々しそうに心操人使だけが、刹那のことを睨み付けていた。そして、黙ったままそこにただ控える人形のような騎馬たち。

 空を飛んで角取、鎌切と合流した刹那に会場は大いにざわついたが、騎手が地面に抵触しない、というルールに基づき、3人のペアは受理された。
「オイオイありかよ今の!?」
「ん〜〜〜ギリギリだけど…作戦としては上手いわね!あり!」

 作戦はこうだった。

 角取ポニー。"個性"角砲(ホーンホウ)。4つの角を自在に操作出来る。自身が乗ることも出来る。
 この強度も操作性も高い操作角に騎手として刹那が常に乗り、空中から敵を捕捉する。そして刹那の合図とともに角取が4つの操作角を空中でランダムに移動させ続け、刹那が跳躍する足場を作り、三次元的な行動を可能にさせる。
 刹那の奇襲を可能にさせるために、角取騎馬、鎌切騎手のように見せかけた擬態ペアで、地上に意識を逸らしておく。
 常に刹那と敵を補足し、空中での適切な角の操作を行うためには角取の負担がとても大きくなってしまう。この作戦では角取が攻撃されたら終わりのピーキーなものだった。そのため、角取の集中力を保つために守るのが鎌切の役割である。
 初めに速攻をかけたあとは、しばらく時間を潰して逃げ回りつつ、刹那のタイミングで敵に奇襲をかける。角取は視線でそれを捕捉すれば良いため、その場で足を止め操作に集中する。その間に攻撃の余波が角取に向かないよう鎌切が守る。

 3人はある程度他のペアと距離をとると、周囲を警戒しながらやっと足を止めた。
「ありがとう、角取さん」
 角に乗ったまま2人に合流し、刹那は鎌切の肩あたりの位置に待機した。まるで3人が肩車しているかのような構図だが、刹那は操作角に乗っているので体重はかからない。
 首元に巻きついた2本の白いハチマキを見て角取は微笑み、しかし直ぐに眉を下げた。そして気を抜くと角取から距離を取ろうとする鎌切尖を指さす。
「彼は…」
「分かりません。でも、あの紫の人とオハナシしてから様子がおかしいデス」
 虚ろな顔の鎌切は普段の鋭さは鳴りを潜め、まるで心操の人形たちのようだった。
 こんなことなら、心操が宣戦布告したあとすぐにでも、彼や普通科の生徒について情報を集めればよかったと少しの後悔が浮かぶ。
「鎌切さん…」
 呼びかけてみるが反応はない。会話は成立しないようだ。
「あの人に騎馬から降りろ、と言われていました。あの人の"個性"は思考や行動を制限するものかもしれまセン」
「厄介だね……」
 トリガーは会話だろうか。多分騎馬たちは鎌切と同じ状態にされているのだ。
「解除の条件はなんだろう……時間とかだったら成す術なくなるね…」
「もう!しっかりしてください!」
 気を抜けば跨ごうと動き始める鎌切の足を角取はがっちり掴み直して怒鳴るが、鎌切は意に介さない。
 会話は不能。思考はどうか分からないが、行動は一環していて制御は不能。

 軽く殴ってみようと手を振りあげるとぎょっとして角取が叫んだので、刹那は微笑んで誤魔化すと腕を下ろした。
 傷付けるのはダメらしい。

 もだもだする刹那たちは格好の的だった。
「Wow!?」
 どろっ。角取の足場が柔らかく崩れ体制を崩す。
「おうおう、悪いな!俺らは物間の策には乗ってねえからよう!」
「あったら攻めるよね。隙」
「鉄哲さん……柔造さん……!」
 塩崎茨の蔓が刹那に伸びる。刹那は慌てて首を覆った。
「角取さん、角2本ランダム!残りで空中避難!」
「あっ、お、OK!」
 ジリリと気圧される角取は刹那からの指示にハッと意識を切り替えた。刹那ら跳躍し塩崎から距離をとる。空中避難……角取は自分の角で空も飛べる!
 鎌切の足を強く掴み、柔い地面から無理やり足を引っこ抜く。
「あっ!角取てめえ!」
「サヨナラでーす!逃げるのも戦法デスから」
「塩崎!」
「分かっております!」
 蔓が鎌切を捉える。伸縮自在の蔓が空に逃げても拘束を緩めてくれない。「っ、あ……?」
 その衝撃で鎌切が目覚めた。
「なっ、にが……?」
「鎌切さん!?蔓を!」
「よく分かんねえが……切り刻めばいいんだなア……!」
 鎌切が蔓を切り離す。

 危機を脱した安全圏の空で刹那は2人に合流した。
「良かった2人とも……」
「一体何が起きたんだ……?記憶がねェ……」
「紫の人と話してから様子がおかしくなりました!行動制御の類デース」
「クッソ……悪い……!」
「大丈夫……でも、頭使いすぎてワタシ……」
 目を細めて息を荒らげる角取。この作戦は鎌切の補佐あってのものである。場面把握と敵の対処を全部1人でやっていた角取は既に疲労困憊だ。
「空を飛んでも注意が来ない……。ルール的に有りみたいだね……。よし、このまま全員空で行動しよう」
「空っ?いいんでデスかね?」
「大丈夫。2人は空から下を把握。鎌切さんは攻撃の全方面の対処。角取さんはわたしに指示を!小声でもわたしなら声を聞ける……」
 兎の超聴力なら、会場内の仲間の声くらい簡単に聞き分けられる。3人は顔を見合わせて不敵に笑った。
「反撃開始だなァ……!」
「絶対上位5組に入りマス!」


 角取は空高く飛び上がる。塩崎の蔓も、蛙水の舌もすぐには届かない距離へ。
 会場の一角で放電が上がる。
 即座に氷が壁のように出現した。
「偵察!」
「OKデース」
 上から見ると轟焦凍のえぐさがよく分かる。そして、動けない騎馬たちと、ネギしょった鴨たちも。
「白凪さん、氷ゾーン!ハチマキ持ったまま足止めされた騎馬が2組、操作角3本飛ばしマスネ!」
 角が1回ノックされる。了解の意。

 角に乗ったまま近くに移動した刹那は、拳藤一佳の2本のハチマキと鱗飛龍のハチマキを捉える。速攻!
 拳藤に跳び移って無理やり強奪すると彼女がよろけた。
「ぐっ、待て、!」
 巨大な拳を蹴って鱗へ。
「アイヤー、させねえ、よっ!」
 細かい鱗が蛇のように刹那に向かう。首元を真っ直ぐ狙ってくる。
 それを2本の角が防御し、足場に跳んで去り際ハチマキを奪い去って空へ。事が終わったらすぐに空へ逃亡し、また合流する。

 パネルを見ると刹那達の順位は3位だ。
 残り時間は5分ほど。
「このまま逃げ切りしよう」
「あァン?攻めねえのか?」
 鎌切が不満そうな顔をするが、刹那は首を振る。
 下では轟と緑谷、物間と爆豪が戦っている。
「あの4人に突撃するのは無理……特に爆豪くんは無理。ここは安全圏で静観が安牌だよ」
「そォかよ」
「OK!」
 最初は敵対的だった鎌切はもう刹那の作戦に異を唱えることは無くなっていた。1番精密な思考で場を作ってきたのは角取だが、基本的な作戦と咄嗟の場の指示はずっと刹那がリードしてきた。
 この中で1番戦闘慣れしていることを、判断に優れていることを、戦いの中で認められたのだ。

 勝負を諦めない組から何回か攻撃を仕掛けられるも、刹那たちは戦闘を全て回避して逃げに徹した。
 そして……。

 4位で騎馬戦を通過することに相成ったのである。
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