イデアが推し字書きのアンチにバチギレてるだけ

*

「ッア゙ァ?!」

 イデアが唐突に、爆音で叫んだ。喉を潰すような濁音のついた苛立ちだった。今日は出席必修科目だったので仕方なく生身で出席していた彼のその怒鳴り声に、周囲の視線をビシバシ集めたが、そんなことは一切かまわないくらいガチギレしていた。
 髪の毛を赤く燃やすイデアに教師が「……どうした?シュラウド」と戸惑い気味に声をかけた。そりゃあそうだろう。久しぶりに顔を見せたかと思えば、髪を真っ赤にさせているのだから。急に。なんの脈絡もなく。
 近くの生徒もポカンとしている。

「どうもこうもありますかおま!?ッッッのゴミがよ〜……。っア゙ーーーー……」
 何やら早口で言い、頭を抱え静かになったかと思えば、「ぽき帰りますわ。乙ですた」と勝手に宣言して荷物を纏め始めた。
「は?」
「そんじゃ」
「待てシュラウド!これは単位が……」
「単位?はァ?どう見てもそんな場合じゃないって分からない?てか拙者の単位まだ余裕ありますよね?そのくらい計算してますしおすし。てわけで個人的なのっぴきならない都合により帰ります」

 言い捨てて、唖然としている教師と生徒をよそに、イデアはドアをバガン!と閉めた。キレすぎて髪の毛から炎の爆ぜる音が聞こえるくらいだった。

 というのも。
 座学の出席ノルマを課せられているのでクッソめんどい対面授業に嫌々仕方なく出てきたものの、内容などとっくの昔に自習し終えている範囲にウンザリしているイデアがこっそりTLの監視をしていると、とんでもない物が目に入って来たのである。

 ここ数年応援している推し字書きが、創作活動の無期限休止を表明していたのだ。

 文字を理解した途端心臓がヒュッと音を立て、青ざめて詳細を読み込むと。推し字書きは影で誰かからネトスト・誹謗中傷を受けていたらしい。鍵垢から無言鍵率や鍵リプを送り付けられるだけでなく、匿名ツールで嫌なメッセージを受け取ったり、スレで何度も晒されたり……。
 半年ほどそういう嫌がらせを受けていたらしい。
 知らなかった。
 かの人は元々浮上率が高いわけでもなく、毒メッセを晒しあげるわけでもなかった。病み投稿や私生活を投稿する人でもなかった。
 警察にも相談したらしいが、ゴミの嫌らしいところは毒メッセにしても直接的に罵倒する訳ではなく、規定に引っかからない範囲でネチネチ褒め言葉を装い攻撃したり、勧めるていで地雷カプを送り付けたり、展開の揚げ足取りをしたり、異常な執念で全ての作品や本の誤字・誤用を徹底的にあげつらったり、連載の展開ネタを送り続けて推し字書きのネタを潰そうとしたり……。
 最初も無害を装っていたので発覚が遅く、ん?と思ってメッセを無視するようになればどんどんその頻度が上がり、憔悴していったらしい。スレにも晒し上げられ、不特定多数にボロクソにこき下ろされるのを見てとうとう心が折れてしまったようだった。

 警察も規定に引っかからないやり方にいきなり動いてくれるわけもなく、開示請求も通らず、複数人を装ったメッセに何を信じたらいいか分からなくなり。
 また、推し字書きは学生だったため裁判やスレ民特定のお金もなく、やり方も分からず、しかしリアルではオタクを隠しているため誰にも相談出来ず……。今回とうとう筆を折るに至ったらしい。

「いや……ふざ……ゴミ……んのクソ……ギィッ!」

 あまりの怒りに言葉を紡げず、最後には歯をかみ締めて隙間から唸り声が漏れた。人間のクズが!
 イデアはネットの誹謗中傷に傷付くような柔いメンタルはしていないが、推し字書きは繊細だからこそ細やかで丁寧な感情描写や緻密なストーリー展開が出来る神だったのだ。優しい話も、ほのぼの胸を暖かくさせるような話も、切ない痛みも、誰も悪くないのにどんどん悲しくなっていく話も……推し字書きはその圧倒的な筆力で彼・彼女だけの世界観を紡いでいたのに!それを!ゴミが!んのクソ……っ!
 バチ切れるあまり脳内ですら明瞭な思考回路を保てなくなったイデアは、部屋に戻る前にとある寮に向かった。
 オンボロ寮だった。

 ひょんなことからイデアは監督生と交流を持っている。彼女は元の世界でそこそこのオタクだったのだ。イデアには考えられないことだが、マンガやアニメ、小説、ゲームなどというサブカルチャーは幼い頃から全員が触れて育つ当然の文化らしく、なんなら国家レベルでサブカルチャーの普及を海外にも推し進めていたらしい。
 コスプレやゴスロリみたいな少し深い文化も「それぞれの好みだよね」というスタンスであり、バーチャルアイドルや機械音声で作曲したり歌い手や踊り手などが当たり前にあるだけでなく、大物アイドルが二次元の乙女ゲームのアイドルとコラボして新曲を出したり……。一般人がマンガや小説や曲を出して何人もプロデビューし、アニメ化されたりドラマ化されたり……。
 国民全員オタク国家かよ。
 そんなわけで監督生もサブカルチャーにはなかなか詳しく、さらにパンピよりももっと深い知識を持っていた。
 マンガに飢えていた監督生がイデアに話し掛けてきて、不思議な交友関係を持つに至ったのだ。

 始めは怯えていたイデアも、今は多少緊張しながらも普通に話せるようになり、その中で監督生が喫煙することを知った。
 本人は隠そうとしていたらしいが、イデアが電子タバコを吸っているのを見て教えてくれたのだった。

 精密機械しかないイグニハイドでは煙草の灰や細かい粉は巻き込まれて面倒なことになる。だから部屋では電子タバコを吸っているが、重さが足りなかった。イデアは肺にズシンと来るような重いタールの紙タバコを元々愛飲していた。
 それを聞くと「じゃ、オンボロ寮を使いますか?」と申し出てくれて、イデアはたまに吸いに行っていた。
 わたしがいない時もご自由にどうぞ、と鍵を渡された時は戦慄したし、めちゃくちゃ焦ったしめちゃくちゃ意識したが、監督生にまったく他意はなく、なんならオンボロ寮のセキュリティはゴミだった。
 田舎育ちなのか極端に防犯意識がないのか知らんが、そもそも鍵がかかってない。イデアは別の意味で戦慄した。
 男子校で無防備にも程があるだろ!しかも刑務所と変わらない全員犯罪者か犯罪者予備軍のNRCで!

 イデアはオンボロ寮に辿り着き、鍵を開けた。ちゃんと鍵がかかっている。寮を使わせてもらうお礼と言いくるめ、イデア式セキュリティを掛けさせたので、学園内の中でもトップレベルの防犯施設になっている。
 本当は生体反応で認証しているので鍵は必要ないのだが、監督生に鍵をかける習慣をつけさせるためにその過程は省かなかった。

 イデアは2階の使われていない部屋を目指してザカザカ歩いた。煙草を吸うためだけの部屋だった。彼女も随分なヘビースモーカーで、ヤニのために随分頑張ったらしい。

 イデアは椅子に座り込み、辞めて、しゃがみ込んだ。
 灰皿を椅子の上に置き、無言で煙草とジッポを召喚した。手入れが必要だが、メンテは好きだし、そんなに手間じゃない。ジッポで煙草を吸うと明確に味が香り、重厚で香ばしくなる。
 ソフトの煙草はもう紙がクシャクシャだったが、くたびれた感じもシックで嫌いじゃない。
 シュキンと音が鳴り、コルク調のフィルターを咥える。ドッシリとし、しかし丸みともちもち弾力のある濃い煙が口中を埋め尽くすように広がり、全身にじんわり広がり喉を打つ。僅かに舌に残る苦味の中にフルーティーで芳醇な甘みが鼻を抜けた。
 イデアはヤンキー座りのような格好で壁によりかかった。

 一本目でようやく髪が青く戻った。間髪入れず、またシュキンとジッポをつける。この音も好きだった。ゴシックなロマンがあるし、紳士的な感じもする。
 二本目を吸い終わったあたりで脳内がクリアになった。イライラは止まらないが、やるべき事を脳内で効率化してリスト化する。
 とりあえず主犯のゴミは潰そう。
 社会的死を与える。オタク敵に回してのうのうと生きていけると思うなよ。舐めやがって。まるで自分のことのようにカチキレているイデアは、そこら辺のものを蹴りたくなる青い衝動に襲われたが、必死に我慢した。
 オンボロ寮はイデアのものじゃないし、自分の部屋でなにか壊れたら目も当てられないので、イデアは物に当たる習慣が全くなかったが、とりあえず何かを破壊したい気分だった。がけものサイトをハックされた時並みにカチキレている。

 それからまた二本吸い、イデアは立ち上がった。
 灰皿はそのままでいいらしい。監督生はルーク氏製の香水を持っているがこの部屋では使わない。部屋に漂う煙の残り香が彼女は好きなのだ。
 多分あとからイデアが来たのに気付くだろう。
 彼女の吸うメンソのベリーシガーと違い、イデアの煙草は匂いが重いから。

*

 私室に戻ると自動的に香りが消臭された。そういう機能を入口につけている。
 イデアはPCに向き直り、まずスレを見た。ツールを使い一番始めに推し字書きを晒したコメを探す。大手サークルなのでアンチも一部いて、晒しコメは期間を置いていくつかあったが、直近のコメが一番盛り上がっている。自分で晒して他者を装って何度もアンチコメを書き込み、その流れに乗って他にもアンチが湧いていた。
 特定余裕すぎっすわ。
 ボケが。
 相手はネット系は素人らしく、一応IPアドレスは誤魔化したらしいがこんなのイデアにとってはプリスクールのガキの砂場遊びみたいなもんだった。初歩的な知識もねーのにイキリやがってよオ〜〜〜〜ッ!!

 何の苦労もなく本人の身元に辿り着き、アカウントを特定したが、鍵垢チェックをする前に一瞬留まった。多分見たらまたカチキレてしまう。
 その前にこいつが送った匿名ツールからチェックしよう。
 イデアは匿名ツールにログインし、送ったメッセを流し読んだ。軽く二百通くらいはある。こいつのこの執着心はなんなんだよ!
 目を皿にしてメッセを見たが、たしかに攻撃的ではなかった。褒め言葉を雨のように浴びせ、その中に遠回しに心に引っかかる言い回しを巧妙に差し込んでくる。それがだんだん顕著になっていく。考えすぎ?でも褒めてくれてるし……気にしすぎなだけかも……でも一応ブロックしておくか……という推し字書きの心理が浮かぶようにわかった。
 推しが今回上手く出来たと書いたところを上げれば違うところをよく褒め、上手く出来た部分の誤用を上げたり。この建物の構造的に遮光はこうなるとか、実際の橋はどんな感じだとか、とにかく粗探しを執拗にサラリと入れてくる。ねっとりした雰囲気にイデアの髪先がまた赤くなり始めた。
 二次創作はファンタジーだろうが!
 それに推しは十分下調べも時代背景も調べた上で書いてるのがよく分かる。知識の幅も広いし。プロじゃないんだから一人でそんな細かいところまで全部網羅出来るわけないだろ常考!!!しかもゴミは推し字書きの完璧主義で繊細で考え込みやすく落ち込みやすい気質をよく分かっているらしく、巧妙につついてくる。
 メッセから多分ゴミと推し字書きは知り合いだということが分かった。
 はあ〜〜これだから人間はゴミ。欠陥品かよ。脳みそにスポイトを差し込んで絞り出してやろうか。

 イデアは無意識に充電していた本体に煙草を差し込み、電子タバコを吸い始めた。タールが弱い。電子タバコは紙とはタールが違うけれど弱いことに変わりはなかった。後味も妙な感じで、出来るだけ苦い銘柄を吸うようにしていた。

 ハーッ、いや全く落ち着けないのだが?
 スパスパ煙を吸いながらイデアは血走った目で画面を睨む。満を持してSNSをハックすると、本垢は推し字書きと同じジャンルで活動するそこそこ有名な字書きだった。イデアも読んだことがある。解釈が浅いし文体が幼くなによりプロットが全く面白くない有象無象の一人で、流行りジャンルに参入したことと筆が早い事でまぁまぁ作品は読まれているみたいだが、本物の才能の前に自分の現実を"理解"らせられたのだろう。
 ゴミの本垢と推し字書きのリプを見るに、一年ほど前からイベントで同じ島になったのをキッカケにたまに会うオフ会仲間というところらしい。流れで推し字書きのごく身近な身内限定の鍵垢も見つけてしまい、心臓が高鳴ったが、ゴミも繋がっているのも考えると、犯人を知ると繊細な推し字書きはショックを受けてしまうかもしれない。
 クソ……。
 イデアは爪を噛む。本当は名乗らせて公式謝罪させたかったが……金もぶんどってやりたかったが……。推しのメンタルを考えると……クソ……。

*

「ブンバダブンブンブン!ハーッ!」

 数日経ち、ひと仕事終え上機嫌のイデアはオンボロ寮に向かっていた。勝利のヤニのためである。インターフォンを鳴らすとパジャマの監督生が出てきた。
「ドヒュッ」
「こんばんは、イデアさん。煙草ですか?」
「は、はひ。いいいいやもう寝るところなら拙者かか帰りますのでお気になさらず……」
「え?大丈夫ですよ!まだ寝ませんし。グリム〜、ちょっと吸ってくるね」
「匂いつけてくるんじゃねーゾ」
「うん」

 監督生は離れていてもお風呂上がりのいい匂いがし、ダボッとした白いモコモコのパジャマから鎖骨が見えていてイデアは白目を剥きながらついていった。
 脳内がピンクになりそうだった。
 え、監督生氏もしかしてみんなにこうなの?ハ?危機管理能力どうなってんだ?野獣の巣窟だからあれほど気をつけるよう言ったのになにも伝わってないのか?!「ヤらないか」されたらどうするんだ!?バカか?!ポンコツか!?

 絶句と混乱で何も言えないでいるうちに監督生はスタスタ進み、途中キッチンに寄り、例の喫煙ルームに連れて行かれる。普段隅っこにあるテーブルが真ん中に置かれて牛乳と茶色っぽいビンとチュリソーや乾物が並べてあった。
「晩酌しようと思って。良かったらイデアさんも飲みますか?」
「エッ…」
 君、酒も飲むんかい!

「や、あの…」
「お酒は嗜まないタイプでしたか?」
「や普通に飲めるけど……えっ、家飲みとかするタイプなのッ?」
「はい、たまに。お酒と飲む煙草は美味しいので」
 カスの飲み方じゃん……!分かるけどね!?酒キメてヤニ吸うと早く回るし酒も煙草も美味いけどさァ!
 酒飲むならそんな格好でドアに出るな!バカじゃないのか?!

「カルーアしかないんですけど大丈夫ですか?わたし、カクテル好きなんですけど弱くて……。缶だとゴミでバレちゃうので……」
「……瓶でもバレるくない?」
「瓶は香水で匂い消して粉々に割ってから包んで捨てるので!」
「隠蔽のプロの方?」
「いえそんな、大層なやり方じゃないんですが……」
 はにかむ監督生は可愛いが、まったく褒めてなかった。監督生は自分のはリキュールほんのちょっとにほぼミルクという、酒ともいえないかわゆいカルーアを作り、イデアにはドポドポリキュールをぶち込んだ。
「なっ、バカ!?」
「えっ?濃かったですか?」
「どう考えても濃いだろ!」
「あら……じゃわたしが飲みますね」
「飲ませられるわけなくない?もういいよ、このくらいなら全然平気」
 カチンとグラスを合わせ一口飲むとやっぱり酒の味しかしない。ほぼ酒。嫌がらせ?背中がズキズキ突っ張ったが、監督生は何も考えてなさそうな平和主義者の顔で「美味し〜」と呟いている。

 諦め、溜息をつきながらソフトを取り出した。
「あっ、ジッポ。やっぱりかっこいいな〜」
「欲しいの?」
「うーん。欲しいですけど。美味しいし」
 監督生に手渡すと、ロングの紙タバコを取り出してでシュキンと鳴らした。使い慣れないのか少し覚束無い手つき。フーッ…と吸う姿は堂に入ってるけど。

 監督生は可愛いし、優しいし、話しやすいし、オタクに優しいし、オタクだし、毎回危うく恋に落ちそうになるが、こういう面を見るとサーッと頭に冷静な部分が戻ってくる。
 死んだ遠い目付きや身体を弛緩して煙草を味わう姿。
 十六の少女とは思えないほど擦れている。イデアも認めるほどなかなかのオタク(彼女は元の世界では読み専寄りの字書きだったらしい)なのに、陽キャ共にも臆することなく話しかけるし、他人とのスキンシップにも慣れていた。
 色々……色々読み取れるというものだ。
 ストレートに言うと絶対監督生氏は処女じゃない。うう、考えると心臓の内側に嫌なトゲが刺さった感じになる。でもそれが分かるだけマシだった。
 イデアは処女厨ではない……ではないが……。恋愛経験皆無の童貞イデアがこんなスレた女の子を好きになってしまったら地獄を見るに決まってるからだ。
 前の男と比べられてるとか、覚束無いのを内心バカにされてるとか、すぐ照れるのを見下してるとか、他の男と話すだけで不安になるとか……懸念が次々湯水のように湧いてくる。

「あのさ……前も言ったけど、危機感持った方がいいよ……。誰か確認する前にパジャマで出るとかさ……。今も男と二人っきりなわけなんだしさ……。イッイヤッ拙者が狼ということではなくてですぞ?」
「ふふっ」
「は、はぁ?何笑ってんの?バカにしてるだろ!そりゃ拙者みたいなキキキモオタがこんなこと言うのは……僕だって言いたくて言ってるわけじゃないんだ!」
「いえ、お兄ちゃんみたいだなぁって」
 監督生はまだ酔ってもないだろうに、嬉しそうにフワフワ笑った。お兄ちゃんて。いや……悪くないか。そのくらいが一番ちょうど良くて、僕も傷つかない距離な気がする。
「……お兄さんいたの?」
「いないですけど、でもいたらこんな感じなのかなあって。だって親身に心配してくれないとそういうの言わないと思うから。ふふ」
「……伝わってるなら改善」
「はーい。イデアお兄ちゃん♥」
「ァギッ……」

 危うく性癖が捻じ切れそうになったが、ツイステッドした世界に飛び立つ前に監督生が話題を振ってくれたので、なんとかイデアは人権を失わずにすんだ。
 危なかった。
 心臓を持ってかれるところだった。
 お兄ちゃんポジで落ち着いたんだから新しい扉を開くな!

「今日機嫌良さそうですけど、何かあったんですか?ここ最近見かけなかったけど」
「ああ……フヒッ、ちょっと害虫を駆除してさ……」

 ドゥフッと笑いながら、イデアはぼかして話してやった。あのゴミにイデアは完全勝利したのだ。金をぶんどるのは辞めたが、特定し裁判を起こすと脅し、推し字書きに匿名ツールで謝罪論文を提出させ、徐々に推しから離れるように約束させた。私生活を常に見張っている脅しつきである。
 あのイキったゴミは自分が特定されるとイッキに弱気になったクソザコナメクジだったのである。
 今はここで引いているが、完全に推しと離れた頃を見計らって私生活の情報や色々余罪を流出させ、完全に心を折るつもりだ。
 そのための情報はすでに入手してある。
 監督生はよく分かっていなかったが、匿名アンチの害悪さは前の世界でも変わらないようで、「イデア先輩すごい!さすがです!」とニコニコ褒めたたえてくれるのでイデアはいい気分だった。
 甘苦いカルーアを煽って、肺までズッシリ煙を流し込む。
 イヤ〜、善いことしたあとのヤニは美味いンゴねぇ!


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