花びらの中でずっと春を探してる
01

 ドラム王国を出立した麦わらの一味は、最高速度でアラバスタを目指していた。
 波も空も島も、人智を超えた破天荒な偉大なる航路だが、今日の天気はご機嫌で、見渡す限りの青い空と真っ白な雲が流れている。

 その船の上で、一人の男が快晴に似つかわしくない顔で麦わら帽子の男に凄んでいた。
「しっかりアラバスタまで持つようにおれがちゃんと配分しといた。6人分の食料が夜中のうちに、なぜ消えるんだ?」
 フ〜……ッと灰の底から吐き出すようなため息と共に、サンジの唇からもくもくと煙草の煙がくゆる。
「ムダな抵抗はよせ」
「ゲフッ。……」
 しかし被告人──ルフィは、サンジに頬を掴まれて証拠のゲップをしても、顔を背けて素知らぬ顔をするつもりだ。サンジは「あれ」となにかに気づいて眉を上げた。

「おい、口のまわりに何かついてんぞ」
「!? しまった!! 食べ残し!?」
 慌てて口元を抑えた犯人に、サンジの渾身の怒鳴り声と蹴りが炸裂した。

「おめェじゃねェかァ!!」
「ふべェ!!」

 豪快な音とともに船長が飛んでいくが、サンジは意に介さずナミに「見ただろあんにゃろひどいんだ〜! 鍵付き冷蔵庫買ってくれよォ♥」とメロリンしながら泣きついている。
 金庫番で守銭奴のナミといえど、今のを見てしまえば先行きが不安でならない。
「そうね、考えとくわ。命に関わるから……」
 共犯者のウソップ、チョッパー、カルーはといえば、不穏な喧騒を背後にバレやしないかとビクビク釣りに精を出すのだった。

 一味がアラバスタ王国を目指すのは、仲間のビビのためだ。砂漠の島、アラバスタ王国は今、七武海を隠れ蓑に国を乗っ取ろうとするクロコダイルの策略に嵌められ、王国軍と革命軍による戦乱が始まらんとする寸前だ。
 それを止めるために、王女であるビビは国を飛び出し、クロコダイルをボスとする闇の秘密組織、バロックワークスに潜入し、仲間を得て国に戻ろうとしている。共に潜入してくれた大臣、イガラムの遺志も背負って……。

 だが、そんな全ての黒幕であるクロコダイルは、耐え難いことに今アラバスタで"英雄"と民衆から絶大な指示を得ている。
 王下七武海とは世界政府に雇われた7人の海賊たちのことであるが、七武海が財宝目当てに海賊を潰すのも、海軍が正義のために海軍を潰すのも、国にとってのありがたさは変わらない。
 民衆たちはアラバスタの英雄とたたえるクロコダイルが、まさか国を乗っ取ろうと企んでなんて夢にも思っていないだろう。

 ビビが憂いと決意を帯びた瞳で語ったことに、ルフィはやる気に満ち溢れた表情で、ビシッと拳を振り抜いた。
「とにかくおめェクロコダイルをよ!! ブッ飛ばしたらいいんだろ!?」
「ええ……暴動をまず抑えて、国からB・Wを追い出す事が出来れば……国は救われる」
 頼もしいルフィの姿に、憂いを僅かに乗せたまま、それでもビビは微笑んだ。

 目指すはアラバスタ王国。
 一直線にビビの故郷を目指し、ゴーイングメリー号は進んでゆく。


 進んでゆくが……。

「ルフィ! てめェがエサ食っちまうからいけねェんだろうが! エサがなきゃ釣れるもんも釣れねェよ!」
「お前だって食っただろ」
「おれはエサの箱のフタの裏にくっついてたヤツ食っただけだ!!」

 ウソップの怒鳴り声が響き、船内にこだまする。
「あんた達でしっかり責任持って釣りなさいよ! このままじゃ餓死しちゃうわ、まったく」
「「あ〜い……」」
 怒るナミの声にもどこか覇気がない。この4日間一味はほぼ何も口にできていなかった。ルフィが食べ尽くした上に、海は穏やかだというのに、なぜか魚がほとんど釣れないのだ。

 みかん畑の世話をしたナミは、ふと口を噤んで眉をしかめた。
「風が変わった……。もうすぐ天気が荒れるわ。あんた達、すぐ配置について!」
「アイアイサー♥」
「こんなに天気なのになァ。結構デカそうなのか?」
「多分嵐になるわ。帆をたたんでちょうだい」

 ナミの言った通り、半刻もすると見る間に空が暗くなり、強風が吹き荒れ始めた。風の強さに負けないナミの指示に従い、麦わらたちは必死に面舵を取り、嵐に耐える。
「変な嵐ね……。こんなに渦巻く風が吹いているのに雨が伴わないなんて。さすがなんでもありの偉大なる航路ってことかしら」

 数時間もすると、嵐はやみ、穏やかな天気を取り戻した。
 少し前まで吹き荒れ、船を襲っていた高波もすっかり機嫌を取り戻している。
「随分短ェ嵐だったな」
「だなー! メリーもどこも傷付いてねェ、良かった」
 船を見回ったウソップが安心したようにマストを撫でた。小さなトナカイ医師、チョッパーが「みんなケガはないかー?」と声をかけている。

 だが、航海士だけはジッと空を見つめ、険しい顔つきだ。
「みんな安心しないで! まだ湿度が高いわ。風も戻ってない。もうひと嵐すぐに来るわ」
「えーっ、また来んのかァ?」
「今の嵐で航路もズレちゃったし、今のうちに道を戻しましょう」
「こうも嵐が来るんじゃ魚も釣れねェわけだよ……」

 肩を落としたウソップに、ビビがハッとしたように叫んだ。
「しまった! 春嵐の時期なんだわ!」
「春嵐?」
「リアン島を襲う大きな嵐のことよ。一週間もの間、大きな嵐がなんども吹き荒れて島を荒らしていくの」
「今の嵐が一週間も!?」
「そんじゃあ島はめちゃくちゃになっちゃいそうだな……」
「島の気候海域の外で生まれ島に向かって一直線に進む不思議な嵐で、島の人達は春の終わりに吹く、夏の訪れの嵐として春嵐と呼んでるそうよ」
「あの嵐が何回もなんて冗談じゃないわよ。さっさとこの海域を……」
「!」

 そう言ったが、空はまた不穏な色に変わり始め、ナミ以外にも風が変わったのが感じ取れた。通常の嵐とは違い、冷たく刺す風ではなく、生ぬるく暖かな風だ。
「あー、もう! 言ったそばから!」
 麦わらの一味は休む暇もなく、またそれぞれ配置に着いた。
「私に越えられない嵐なんかないわ! 航海士ナミをナメんじゃないわよ!」

*
*

 春嵐は二日もの間海を荒らし回った。
 麦わらの一味も負けじと戦い、海はすっかり穏やかさを取り戻している。しかし、5日以上まともな食事をしていない一味は、完全に疲労困憊だった。

「どうやら春嵐の時期は終わったみたいだけど、魚が戻ってくるまでは時間がかかると思う」
「メ〜〜シ〜〜〜〜!!!! あー、ダメだ叫ぶと力が……」
「自業自得だろうが」
 そろそろ空腹に耐えるのも限界だ。叫んだルフィはみるみる床にへたり込む。
「リアン島の海域からアラバスタまではどれくらいかかるの?」
「多分一週間ほどかしら……」
「冗談じゃねェぞ。そんな期間飲まず食わずなんてレディ達が倒れちまう」
「こうなったら一度、その島に上陸するしかないかしら。ログが溜まるのはどれくらいなのか知ってる?」
「たしか3日よ。私も小さな頃しか行ったことがないから、あまり詳しくなくて。ごめんなさい」
「ビビちゃんが謝る必要は無いさ。むしろ、少しでも知ってる人がいてくれてすげェ助かるよ。全てはこの……クソバカのせいだ!」
「いでっ! 何すんだよサンジ〜ッ」
「黙れ! ったく……」
「3日程度なら、島に行って食料だけ買い付けてすぐ出発しましょう。魚が釣れるのを待つより確実なはずよ。春嵐が向かっていた方向もちゃんと覚えてる」
「さっすがナミさん、頼もしいぜ〜♥♥」
「そうね……」

 ビビはしかし、浮かない顔だった。
 アラバスタの革命が始まるまで猶予がない。

「ビビ、あんたの気持ちも分かるわ。大丈夫よ、半日もいないわ。食べるものだけ買って……」
「いえ、そうじゃないのよ」
「「?」」
「そうじゃねェって?」
 首どころか揃って身体を傾けるルフィたちに、ビビは言いづらそうに口を開く。
「リアン島は春島で、実りの島とも呼ばれるほど農作物が豊かな島だけど……春嵐の後は全てを荒らしてぐちゃぐちゃにしていくわ。だから、その後街を復興させるまで、島を閉鎖して観光客を拒否するらしいの。辿り着いても上陸させてもらえるか……」
「そうなのか!?」
「参ったな……」
「ぐだぐだ悩んでてもしょーがねえよ! 行ってみりゃ分かるだろ?」
「また脳天気なことを」
「にししっ!」
 ニカッと笑うルフィに一味は呆れるが、彼の言う通りでもある。アラバスタまでの食料の目処が立たない今、進むしか道はないのだ。

 麦わらの一味は少しだけ航路を変え、実りの島、リアン島を目指すことになった。

 半日ほど海を進んでいると、周囲の警戒をしていたチョッパーが双眼鏡を覗き込んで「おおーーっ!?」と素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたんだよ、チョッパー」
「なんか変なのがあるんだ! 綺麗な煙みたいな……霧みたいな……。なんだアレ!?」
「どれどれ……ってうお! 本当じゃねェか! 煙っつーか……花びら……?」

 肉眼でも僅かに見える巨大な影。近づくと桃、赤、青、紫、色とりどりの細かな花びらが、山のようになって海の上に浮かんでいるのが目に見えた。
「あれがリアン島ね! 良かった、近くて……」
「アレが!?」
「島なんて見えねェぞ!?」
「春嵐がまだ過ぎてないんだわ。リアン島のフローリェンは春の街と呼ばれるほど、美しい花々が咲き乱れているの。そして春嵐の時期になると、その花びらが吹き飛ばされて島が覆い尽くされるのよ」
「島を飲み込むほどの花……!?」

 島に近づくほど波は荒れ、花びらたちで前も見えない。
 ガクン!と船が揺れた。
「なんだァ〜!?」
「底を擦ったんだわ! もう島についてるみたい……もう、こんな視界じゃ船を止めるのもままならないわよ! あんた達気合い入れるわよ!」
「ん了解ですナミすわぁ〜ん♥ 聞いたなてめェら! 上陸準備だ!」

 なんとか岸にメリー号を止めた頃には全員ボロボロだった。嵐はまだ吹き荒れている。
 色とりどりの花びらが飛び交うのは、言葉だけなら美しいかもしれないが、折れた木やら家の破片やらガラスやらが飛び交っていて危険極まりない。災害というのがまさしくふさわしかった。
 ルフィたちは船の中で身を隠していたが、さっきからギシギシガンガンゴンゴンと、何かの破片がぶつかって不穏な音を立てている。
「このままじゃメリーが危ねェんじゃ……」
 ウソップがソワソワと外を伺った。
「だがこの嵐じゃどうも出来ねェだろ。ひとつ残らずたたっ切るたァいかねェし」
 ゾロはドンとかまえ、椅子に横になっている。
「このくらいならもうすぐ収まるはずよ。さっきより風が弱まってる」
「ならいいけどよ……」

 ナミの感じた通り、少しして視界がひらけ始めた。まだおさまるというほどでもないが、外を出歩く分には大丈夫そうだ。
 一味たちには時間がなかった。

「買い出しはサンジくん、私、ビビで行ってくるわ。船番を頼むわね。ウソップは船の具合を見てくれる?」
「おうよ!」
「おれも行く! 冒険だ冒険〜っ!」
「バカ言わないで! あんたは手配書で顔が割れてんでしょ!」
 頬を掴まれてにょい〜〜んと伸びるルフィだが、瞳を輝かせて船に乗り出し、今にも飛び出して行きそうだ。
「手配書が出てるからって関係ねェ! おれは海賊なんだからな! 冒険! メシ〜〜! 今にも腹ぺこで死にそうだ、全員で行こう!」
「はァ……」
「あはは……。サンジさんだけ荷物を持つのも大変だし、もう少し男手があってもいいかもしれないわね」
「おうっ、任せろ!」
「ほんとに分かってんのかしら……」
「クソ……ッレディ達とのハーレムデートが……ッ!」
 頭を抱えて頭痛に耐えるナミ。ビビは苦笑し、サンジは両足をついてドンドン床を殴り付けながら嘆きに叫んだ。
「でもねルフィさん。島でご飯は食べられないと思うわ」
「えーッ! なんでだよ!」
「さっきビビちゃんが説明してくれただろうが! この島は今嵐が来てるから、店はどこもやってないってよ!」
「じゃなかったら全員で行ってるわよ!」
「ちぇ〜っ。分かった! お前ら、すぐメシ買ってきてやるから待ってろよ!」
「こら、待ちなさい! 勝手に先に行くな!」

 ぴょ〜んっと船から飛び降りて、ルフィは振り返って笑った。
 とにもかくにも、リアン島上陸である。


「メ〜シッ、メ〜シッ♪」
 船では空腹でぐったりしていたのに、島に立つなり機嫌よく歌いながら先導するルフィの後ろに、3人が並ぶ。
 遠くの方に街並みが見えるので、道はまっすぐ行けば良さそうだ。
「この先にあるのはフローリェンってところなのよね?」
「ええ。父に連れられて観光に来たことがあるわ。あんまり覚えてないけど、感動したことは覚えてる。あと、ホテルが面白かったのよね……地下にあって……」
「地下?」
「ええ。見上げるほど大きな木のうろから入って、秘密基地みたいだってワクワクしたのよ」
「面白いホテルね」

 しかし、街が近付いて来るなり一味は絶句した。

「ひどい……」
 その景色の美しさからリゾート地になっているというフローリェンは、今や見る影もなかった。木々でできた家々は崩れ、花の残骸が街中に張り付き、どろどろになっている。遠くの方に見える花畑らしきものも、ボロボロだった。
 枯れた街。
 そんな様相の、残骸のような景観だ。
「わっ!」
「危ねェ!」
 飛んできた岩をサンジが蹴り飛ばして守る。まだ風が随分強く、街に人は誰ひとりとして見当たらない。
「春嵐のせいね……」
「こんなに被害が大きいなんて……! これじゃ食料も売ってもらえるか……」
 復興するだけで何年もかかりそうだ。
 ルフィも眉をしかめ、街をキョロキョロ見渡している。

「なァ……」
「ん?」
「ここ、人が誰もいねェぞ……!?」
「そりゃそうだろ、まだ嵐が過ぎてねェんだ。こんな危険なとこにノコノコ出歩くバカが……」
「そうじゃなくてよ! 家がこんなに崩れてるのに、誰も人がいねェ!」
「「「!」」」

 一味は歩き回ったが、元は商店街や繁華街や住宅街だろうという場所に立ち並ぶ家や建物は、どこもかしこも崩れかけ、人っ子ひとりいやしない。
 これだけ建物があるのに、話し声や悲鳴も何も聞こえなかった。
 街に響くのは吹き荒ぶ風の音だけだ。

「何かあったのかしら……。まるで襲われた後のような……」
「だが戦闘痕のようなものは見当たらねェな」
「どこかに避難する場所があるのかもしれないわね。この大きな嵐が毎年襲うんでしょ? きっと対策してるのよ」
「そうかも。でもそれなら、人には会えないわね。早いうちに交渉できればありがたかったけど……」
「上陸してみたらまだこんなに風が吹いてるもの。どのみち人には会えなかったわ、きっと」
「挨拶してみたらいいんじゃねェか?」

 言うなり、止める間もなくルフィは手近な建物に突撃していった。何かを売っていた店のようで、棚やカウンターや机が並んでいる。
「こんにちはー! お邪魔します!」
「お邪魔するな!」
 返答もないのにドカドカ扉の中に入るルフィを追いかけるが、建物の中には誰もいない。
「誰かいねェのか〜!?」
 バカでかい声量で叫ぶが、シーンと沈黙が帰ってくるだけだ。
「なんだか不気味で寂しいところね……」
 ビビがごくりと喉を鳴らした。
「不気味は分かるけど、寂しい?」
「だって、品物が何も置いていないわ。たしかに人が活動していた雰囲気はあるのに、何の店かも分からないほど何もかもないなんて……」
「たしかに……」
「まるで、捨てられた家みたい」
「……」
 食器やマグカップなど、生活感を感じられるものすらもなかった。書類などもない。窓が割れて破片のようなものが散らばり、風と共に花びらや葉が入り込んでいる。

「ここは花屋だったみてェだな。外に看板がある」
 サンジがぐるっと見回って見つけたのは、傾いた木の看板で、「Flower Shop Rosalie」と書いてあった。

「花屋なら植木鉢とかが普通置いてあってもいいのに」
 商売を営むための道具がまったくない。
「すみませ〜ん! 誰かいませんか〜!? ……ダメね。避難所みたいなものを探すしかないみたい。それか嵐が去るまで船に戻るか……」
「でもよ、ナミさん。いつこの春嵐っつーのが去るか分からないぜ。おれたちが超えたのは3日だから、もしあと4日続いたらとても……」
「そうね、とても耐えられない」
「ルフィさん、人を探しましょう」
「だな。街全部の人間が入れるような場所があんのかな?」
「それだったら見つけやすそうだけど、どうかしら。そんなに大きい場所、見た限りでは……」

 その時僅かに、カタン、と音がした。
「誰だ!?」
 サンジがサッと女性陣を庇う。じっと物音の方を眺めていると、隅の床板がそーっと上に持ち上がり、隙間から恐る恐る誰かの頭と目元までが出てきた。

「どなた……?」

 柔らかく撫ぜる風のような囁き声だった。その声から女性だと分かった。

「人!?」
「床から!?」
「なんだいるじゃねェか! オモシレーッ、おめェなんでそんなとこに埋まってんだ?」
「埋まってるわけじゃないわ。観光客の方? この時期に外から人が来るなんて……」

 床板が完全に開き、下から女性が完全に姿をあらわした。
 薄暗い店内でも分かる、不思議な金髪だ。明るい黄緑色がかったくせ毛の金髪を三つ編みでひとまとめにし、顔の大きさに合っていない大きな丸メガネをかけている。前髪は真ん中で分けているが、伸びていて表情を分かりづらくさせている。
 若そうだったが、全身を隠す茶色いワンピースに身を包んでいて、端的に言うと、地味で大人しそうな装いをしていた。

 だがサンジの鋭い観察眼は、女性の少し太めで穏やかに垂れる形の良い眉毛や、ふっくらと蕾のように微笑む唇、メガネの奥の淡い桃色で儚げな色を称える瞳をバッチリと捉えていた。
 メロリ〜ン♥

「お美しいレディ、突然のご訪問をお許しください♥ ああ、しかしその儚げながらも情熱的におれを見つめる眼差し……おれの心はあなたという春嵐に襲われてしまったようだ♥」
「はぁ……」
「警戒してる目でしょ! さらに警戒させるマネしない!」
「お前ここのやつか? なんで床に埋まってたんだ? 他のやつらはいないのか?」
「ミステリアスなところも素敵だ〜♥」
「申し訳ありませんが、航海中この嵐に見舞われてしまって……食べ物を売ってくれる店はありませんか?」
「航海……」
 矢継ぎ早に繰り出される言葉に少々呆気に取られていた女性は、ぽつりと呟くと困ったように微笑んだ。
「とりあえず、少し変だけど悪い人たちじゃなさそうなのは分かったわ。良かったら中へどうぞ」
「「「中?」」」
「ふふ、こちらへ。床に埋まってるわけじゃないのよ」

*

back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -