気づいたら見知らぬ町にいた。

人は体を通り抜け、木や建物、その他あらゆる物全てに触れない。

誰にも認識されない。



俺は、どうすればえぇんやろ。



君の知らない物語 謙也side




「嘘やん、こんなんありえんやろ…っ」


何で人にも物にも触れないん?
そんなん常識的にありえんのに。

必死に呼び止めようと通行人の肩を掴む俺の手は虚しく握りしめられる。

それどころか、通行人はどんどん俺の身体を気にせず通り抜けていく。


「っ…」


すぅっと息を吸い、叫ぶ。


「すみませんっ!!誰か話聞いてくれませんかっ!!!!」


せめて声くらい届いてほしかった。何度も何度も叫ぶが、無駄な行動に終わったようだった。


…何やねんこれっ…



「謙也、もう無駄や。見えてへんねんて、俺ら」

そういう白石の目は、どこか寂しげだった。

「せ、せやけど…」

じわっと視界が歪んだ。

…泣いたらアカン、白石やって光やって耐えとるんや。
俺かて、頑張らなアカン…


「もう…どうしようもあらへんやろ…」

投げ捨てるような白石の言い方に、溜まっていた涙が零れた。


え、それってもう諦めろっちゅーこと…?
俺、こんなわけもわからずに…死ななあかんの…?


「っいややそんなんっ…大体俺らが何したっちゅーねんっ…!!」
必死に溢れそうな涙を堪える。



まだやり残したことだってたくさんある。
それなのに…


ぶつけようのない怒りと悲しみとか入り交じり、ジッと地面を睨み付けていると、白石が向こうの階段に移動しよう、と言い歩き出した。


…なぁ、白石。俺にはわかるで?今自分がどれだけ苦しんでるか。泣きそうになってるか。

こんなときまで、部長やらんでえぇやんか…


そんな白石の様子を見て、再びじわりと涙が浮かんできたとき、



ガタンッ



「えっ…」

今、白石が自転車にぶつかった。普段なら何ともないことだが、今の俺たちは、それに驚きを隠せなかった。

何で、自転車にぶつかって…
白石のところへ駆けつけようとしたとき、信号が変わったことにより自転車は颯爽と駆けていった。


っ逃がすかっちゅーねん!!!



「ちょっ、待たんかいっ!!!」

気がつけば俺は必死に自転車の後を追っていた。

絶対逃がさん。こいつが、絶対何か知っとる。

入り組んだ道路で撒こうとする自転車だが、家を通り抜けたりすることで俺はしばらくして追い付けた。


「っ捕まえたでっ!!」

自転車に乗っている女を抱きしめて、自転車から下ろす。



…触れた。



久しぶりに感じた人の温もりに思わず顔を緩めた。






泣き虫謙也さん。けど、頑張って耐える謙也さん。よく頑張った。



×|×

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