「名前ちゃんは俺んだ」
「俺のでさァ」
私の頭上で交わされた会話を聞くのは何度目だろう。もう聞き飽きた。しかし左腕は銀さんに右腕は沖田にがっちりホールドされていて逃げることは不可能。おい、そこの道行く通行人A。ガン見してないで助けろよ。
「ほら、旦那、名前が嫌がってますぜィ。離したらどうですかィ?」
「そんなことないよなー?むしろ沖田クンの方が離して欲しいよなー?」
正解はどちらともですよ。通行人の目が痛いので本当にやめてください。と言っても聞かないのは承知済みだ。しかしいい加減疲れた。やることあるしそろそろ離してもらいたい。
私は自由である足を使って二人の足のすねをそれはそれはおもいっきり蹴ってやった。すぐにすねを押さえて地面にうずくまる二人。いい気味だ。
「いつまでも二人に付き合ってられないので失礼しまーす」
そう言って歩き出したのだが。
数歩歩いて止まった。いや、止まらざるを得なかった。なんせ、服の裾を二人が掴んでいたのだから。
「逃がすわけ」
「ないですよねィ」
これは逃げるべきだ。
私の頭はいち早く答えを弾き出し、二人の服を掴んだ手を降りきって走り出した。
「来るなぁぁぁああああ」
どうしよう、どうしよう。どう考えても自分の体力じゃ持久戦は出来ない。路地裏の細かい道で上手くまくしかないだろう。大通りにいたら周りの人に迷惑をかけ得ない(後ろの二人に関しては特に周りを顧みないだろう)。
私はそこらの適当な路地を曲がると大通りを離れた。
「ここまで来れば大丈夫、か、な?」
ぜいぜいと息を乱しながら後ろを振り替えると二人ともいない。上手くまけたようだ。あとは様子を見ながら二人がいない道を探して大通りに戻って、土方さんにでも助けを求めにいこう。
その後の計画をたてながら息を整えて歩き出そうとしたのだけど。
「見ぃつけた」
「銀さ、ん」
見つかった。きっと今の私の顔は顔面蒼白。それに対して目の前に現れた銀さんはによによともはや気持ちが悪い笑みを浮かべていた。
「逃げるなんてひどくなーい?」
「あの状況だったら誰でも逃げるわよ!!」
「えー、名前ちゃん酷ーい」
そう言いながら一歩近づいてくる銀さん。それに対して一歩下がる私。近づく、下がる、近づく、下がる。これを繰り返しているとまあ察しがつくだろうが私の背中は壁にドンッとぶつかるわけで。しかも顔の両脇に銀さんが手を着いてきたからもう逃げられない。
「つーかまえたっ」
銀さんの瞳がぎらりと光った。まるで獲物を捕まえた獣の目。私は怖くなってきて、そしていつの間にか泣いていた。
「うっ、ひっく、」
「へ、あ、え、名前ちゃん、あの。わりぃ、泣かせたい訳じゃなかった」
さっきとはうってかわっておろおろしだす銀さん。なんだか申し訳ないけど涙が止まらない。
「銀さんのばかあ、」
「いや、ほんっとごめん、まじでごめn」
突然だった。
そこまで聞こえてそれからガンッとなにかがぶつかった音がして目の前の視界から銀さんが消えた。原因は横から飛んできたゴミ箱。驚いて涙なんか止まっていた。
「ぎ、ぎんさん?」
「なーに、名前泣かせてんでさァ」
ゴミ箱が飛んできた方を見ると沖田がいた。
「抜け駆けなんてずるいですぜィ、旦那」
ニタリと笑った沖田の顔はまさに悪人顔。銀さんはというと地面にのびていた。名前を呼んだけど反応はない。
「大丈夫かィ?全く旦那もひどいことしますよねィ」
そう言っていつのまにか近くに来ていた沖田が私の目に残っている涙を指ですくう。先ほどの銀さんのことがあり、何かされるのではないてびくびくと怯えていると、そんなに怯えなくても大丈夫ですぜィとさっきの悪人顔とうってかわって笑顔で頭を撫でてくる沖田。いつもと違う沖田に戸惑いながらもその手からは沖田の優しさが感じられる気がして振り払うことは出来なかった。
そんな油断をしていたのが悪かったのだ。突然沖田はニヤリと笑ったかと思うと私の腰を引き寄せ抱き締めてきた。
「つーかまえ、た」
「おき、た、」
わざと耳元でしゃべる沖田。くすぐったくて逃げだしたかったんだけれど男の力に叶う訳なくて。
「この俺が逃がすわけないよなァ」
「はなし、て」
「言うことが聞けないやつにはお仕置きが必要かねィ」
ひっと悲鳴が出る。危険だと頭のなかではけたたましく警報がなるけど逃げられる訳もなく。
「やだぁ、おきたぁ」
「泣いたって無駄だって」
そうだ、泣いたってドSな沖田を煽るだけだ。でも泣くしかないじゃないか。誰かヘルプまじで危険。その時だった。
「おい、なんで手前も名前ちゃん泣かせてんだよ」
「銀さん!」
いつのまにか復活した銀さんが投げられたゴミ箱を手にこちらを見ていた。銀さんが手にしているものに嫌な予感がする。その予感は惜しくも当たってしまい、名前ちゃんうまく避けてねーとその手にしていたゴミ箱をこちらに投げてきた。
「ちょぉおおお」
「あっぶねぇ。あ、しまった」
突然のことに沖田は私のことを離して避けた。離された私はうまく体をひねって避け、ゴミ箱は私と沖田の間を凄まじい早さで通り抜けていった。もし当たっていたらと思うと冷や汗が出てきた。
「何やってんでさァ」
「それはこっちのセリフなんだけどぉ?」
すぐに沖田と銀さんは喧嘩を始める。二人と私の距離もあるし二人の意識はこちらに向いていない。
これは…チャンスだ!
そろりそろりとその場を離れ、一気に駆け出す。後ろでまだ二人の喧嘩する声が聞こえる。まだ気づいてないようだ、これならいける。やっぱり土方さんに助けを求めに行こう。
私は走る足にさらに力を入れた。
秋瀬のサイトの10000HIT企画でリクさせていただきました!
もうね、何だかんだで昔からドSコンビが大好きなんです。それは私がMだからかもしれないg
なかなかたまらんシチュをありがとうございました///萌え禿げました(^ω^≡^ω^)
…私ならまず逃げないだろうが←
×|×
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