触れた唇が熱い。ああ、本当にひとつになってくれるのだろうか。
 白い布団の敷かれたベッドに並んで座って、たったふたりきりで唇を重ねた。常時はいつも揃って可愛がってもらっている相棒は不在、今は俺と目の前のこの人だけしかいない。
 目の前にあるどっしりと鍛え抜かれた身体は逞しく、相変わらず格好よかった。筋肉で分厚く覆われた身体に、そっと自分の身体を委ねる。
 ぬるりと舌と舌が絡まって、熱い。下半身に血がどんどん集まって熱を持っていくのがわかる。ああ、本当に一緒になってくれるのだろうか。未だ半信半疑だったが、もう身体はそうなる準備をしていた。
 早く服を脱ぎたい、脱がせてほしいと言ってしまおうか。意識すると腰がモゾモゾしてしまう。

 Tシャツを捲り上げられ、胸を探られる。
 右の乳首に舌が這った。ひ、と声を上げてしまって、どうにも恥ずかしい。そのまま咥えられながら、左は指でゴリゴリと弄られる。己の胸元を見ると、俺の乳首を吸っている顔が見えた。頬が少し赤くて、恥ずかしそうに見える。だよな、吸う方も恥ずかしいよな。そう思うと少し頬が緩んだ。
 俺よりもとても大人びていると思っていた人が、俺の乳首を吸っているようす、赤ちゃんみたいで、かわいい。かわいいなんて思っているうちになんだか脚が震えていて、いつの間にか腿に手を添えられていた。
「脚、開いてくれ」
「や、恥ずかしいです、あ」
 形ばかりはいやがっている素振りを見せつつ、添えられた手の動きに添って脚を開いた。でも恥ずかしいのは本当だ。己の股間が目に入り、思わず目を逸らしてしまう。俺は恥ずかしいほど勃起していた。
 そのまま前を開けられ、竿がぽろんと顔を出してしまった。そのごく平均的なサイズのモノに大きな手が添えられる。竿を擦られると、ダメだ。大きくてあたたかい手で、ゴシゴシ擦られて、その上、鈴口をいじられて、腰が浮いてしまう。
「そんなに、気持ちいいか」
「……はい」
 自分から更に脚を開く。腰も浮かせて、極力、よく見てもらえるようにした。顔から火が出そうなほど熱くて恥ずかしいけれど、もっと見てほしい。
 会陰を優しくなぞられる。ゆるい刺激がもどかしく、腰をよじった。相手に視線を送ると、目の前の太い喉元からゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。ああ、期待しているのか。これからの展開を、俺と同じように期待しているんだ。そして、股間も盛り上がっていた。俺の姿を見て、勃起しているのか。ああ、うるさいほど胸が高鳴って、脳が焼き切れてしまいそうだった。

 そろそろと穴に指を挿れられた。指も自分のそれより太いだろうとは思っていたけれど、その予想以上に、圧倒的に太い。人差し指なのに俺の親指くらいの太さがあるようだ。自分でちゃんと慣らしたつもりだったのに、肛門が強く指を圧迫しているのがわかった。中指も入り、二本も入ると、もう自分のモノならすんなり入るのではないかと思われた。
 身体がひらいていくのがわかる。その高まりを早く迎え入れたい。


 開いた後孔に、それがゆっくりと入って来る。大きな異物感はあるが、それよりも、目の前のこの人の肉体を迎え入れていることに興奮していた。前が萎えない。
「……動くぞ」
 ゆっくりと腰を進めて、好きな人が中で動き始めた。
「あ……」
「痛くねえか」
「大丈夫です、っ……」
 身が震えた。ああっ、なんて、みっともなく声を上げてしまう。本当にこの人とひとつになってしまったのだ。胸が激しく高鳴っている。自分の心臓の音がどきんどきんと大きく聞こえた。

 大きな手で頬をなぞられて、顔を真正面に向けられてしまう。目が合わないようにずっと目をそらしていたあの人の顔が、間近に見えた。恥ずかしいとか、好きだとか、そんな思いが混ざり合いながら頭の中をぐるぐる回っている。

「お前が、一番かわいい」
 思いもよらない言葉が頭の上から響いた。
「嬉しい……」
 目の前の好きな人の顔がぼやける。俺は泣いているのだ。
「でも、嘘ですよね。わかりますよ」
 望まれない台詞を返しているのはわかっているので、極力優しい顔で微笑んでいるつもりだった。
 ぴたりとピストンが止まる。覆い被さるその顔が歪んでいた。
「何言ってんだよ」
 正直、同じ言葉をそっくり返したい。何言ってるんですか。他の誰でもないあなたがそんなことを言うわけがないのに。




 なんでこんなに好きなのに、この人は俺だけのものにはならないのだろう。それどころかどんどん離れて行っている気がする。こんな夢を見るくらい、好きなのに。お前は特別だとささやいて、愛してほしいのに。そう、俺はこれが夢だとわかっている。夜の夢だと。これは眠っている俺の脳が作り出している映像だ。
 目の前のこの人は、本当はこんなことはしない。きっとしない。
 優しい人だ。ばかなことをしたら叱ってくれる。出来たことは褒めてくれる。背を叩いて、頭を撫でて、時には抱きしめてくれる。ただし、この太い腕、大きな手は、他の奴のことだって抱きしめるのだ。
 つまり俺はこの人にとってそれほど特別な相手ではない。そんなことはわかっていた。
 それでも、好きなんだ。
 夢の中だとわかっているのに、この太い腕に抱かれているのが心地よくて、現実から目を逸らす。そういえばしばらく抜いてなかったな。少し前までは可愛い女の子で抜いていたはずなのに。本当に神聖視している女では抜かないと何かで読んだ気がするのに。俺はこの目の前の相手に一体何を求めているのだろう。



「嘘じゃねえよ」
 そら来た、俺の願望だから、そう答えるに決まってるじゃねえか。
「確かに、一番かわいいってのは、ちょっと違うかもしれねえけどよ、その……こんな気持になるのは、おめえにだけだ」
 格好いい顔でそんなこと言われて、百点満点だ。さすが俺の願望。
「いつも頑張ってるとこも、知ってる。でもそれだけじゃねえんだ、ドキドキすんだよ。どうしようもねえ……。かわいいんだよ」
「でも」
「好きだ、っつってるだろ」
 ああ、この人の必死な顔が好きだ。優しい心根も胸がキュンと鳴っているような気がする。
「俺、も……好きです……」
 本当は、そんなことはない。「俺も」ではない。俺だけが一方的にあなたを好きなんだ。それでも、だから、口に出すとつらくて嬉しくて苦しくて、涙が止まらなかった。きっと実際には一生言わないだろう。
「好きです……。ずっと前から好きでした……」
 
 
 優しく唇を重ねられる。後孔に入ったそれが、更に硬く、大きくなっているのがわかる。唇を離すと、切ない顔が目に入った。
 膝を抱きかかえて、脚を更に大きく開いた。入りやすくなっただろうか。もっと奥まで入って来てくれるだろうか。今だけでも、俺だけの男になってくれるだろうか。夢の中の逢瀬、そんな言い方はできない、妄想の淫夢だ。圧倒的に片想いだ。

 頭の上で呻き声が聞こえる。よかった、気持ちいいのか。それを言葉にする余裕はない。己の口から漏れている音はもう全部喘ぎになってしまって、名を呼ぼうとしても舌がもつれてうまく呼べなくなっていた。


「あ……んっ! あ、あぁ……」

 ビュクビュクッなんて音を立てて、腹の上に精液が撒き散る。少し遅れて、相手も射精したようだ。どくんどくんと脈打つように自分の中で震えるそれを、手放したくなかった。
「もう少しだけ、抱いててもらえますか……?」
 そう問いかけると、何かを耳元で囁かれた。よく聞こえない。
 いま、何て言ったんですか?
 なんて。






 ジリリリリ、とけたたましく目覚ましが鳴り響く。目を擦るとそこは自分の部屋で、ベッドの上には自分一人が横になっているだけだ。両腕で強く抱きしめているのは丸まった掛け布団だった。そして寝間着の短パンを捲ると、その内側のそのまた内側は己の予想通りの惨状を迎えていた。

 パンツを履き替え、携帯を手にした。「セックス 夢」で検索する。すると、求めていた答えはすぐに見つかった。

「セックスする夢は、相手にもっといろんなことを教えてほしいときに見るのか……」
 エロい目で見ているからセックスする夢なんか見るのかと思ったが、そうではなかったようだ。心の底から安堵した。

 あの人はもう高校を卒業したのだ。連絡も時折取ってくれているけれど、毎日のように顔を合わせていた頃を思うと寂しい。
 もっといろいろ、教えてほしいのに。
 夢の中で見たあの人の切なげな顔が頭に浮かんだ。



夢で逢えたら

 



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