「あいしている」
鏡を見ては唇を何度も同じ形に動かして、何度も何度も確認した。
自分の唇の動きに偽りがないか、その一点だけが気にかかっていたのだ。
大丈夫、嘘には見えない。僕は嘘をついていない。大丈夫だ。
自分の気持ちが本当だかなんだかわからなくなって、鏡をじっと見ていた。金色の髪と青い瞳が鏡に映っている。己の顔だ。少年のようにあどけない、しかし確かに年を重ねている、己の顔。
ああ、目を閉じるとおまえの笑顔が浮かんで来るよ。黒い髪を垂らして、元々下がった目尻を下げて、優しく笑うその顔は、もう僕だけのものではない。
最近は少し笑い皺ができるようになったね。
彼の笑顔をいつからこんなに愛していたのだろう。わからない。物心付く前から傍らにいたその姿を、これほど求めていたのだ。
愛している。
零れた月が雲を割いて、僕の体を突き刺す。
おまえは笑わなかったね。愛しいおまえ。傍にいてくれると言ったね。
おまえはここにはいない。いない方がいい。
僕はひとりだ。おまえがいない。
他の誰が傍にいても、おまえが僕を見ないなら、僕はひとりだ。この広い宇宙にひとりぼっちだ。
どれほど優秀なロケットを作っても、おまえの心に届かなければ意味がない。
愛している。
けれど永遠に届かない。
「愛している」
言葉にしてぶつけたならば、彼は喜ぶだろう。
ただし、それは僕の愛を受け入れる歓喜ではない。親が子に感謝をあらわにされた時の喜びかもしれない。もしくは実験動物が着々と育っていることへの喜びかもしれぬ。そう想像して僕は唇を閉ざす。
不安げに唇を閉ざした己の顔は、何とも頼りない。
僕は誰かを守ることが出来るだろうか。たとえば彼が僕を守り、育んだように。微笑んで、甘えさせて、誰かの心の支えになるような存在に、なれるだろうか。
愛している。
きっとおまえに対しては言わないよ。誰よりも、親よりも、兄弟よりも愛しいおまえには。
愛している。
おまえは僕の言葉を待っていてくれるだろうか。
I Love you.
* 隠居中のようですね……片思い擬似親子。ポエムポエムしい!
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