「君たちが、女王をいつも見守っているのだな」

「はい」
 一番の年かさのメイド長がそう胸を張って答えるのを、一人の若いメイドが横目で見ていた。彼女はまだ少女と言っていいくらいの年頃で、女王仕えの者の中では一番若い。

「これからも女王をよろしくお願いする」
 そう言って小さく頭を下げる青年は、「女王の弟」なのだという。正直あまり似ていないなあと少女は思った。けれど、眠る女王陛下に青年が向ける視線は、紛れもなく肉親のそれだった。澄んだ琥珀の瞳が映している女性は、確かに彼の姉なのだ。慈しむようでいて、何処か憎らしいような表情を湛えていた。




「何をじっと見ているの!大尉に失礼でしょう!!」
「す、すいません!」
 メイド長の怒鳴り声に驚いたのか、青年がこちらを振り向いた。

「構わんよ」
「ですが、」
 抗弁する婦長に呆れるような表情で、青年はメイドたちの方に近づいてきた。そうして、琥珀の瞳が真っ直ぐ少女を見つめる。少し身を屈めて、青年は少女を見ていた。

「里に兄弟でもいるのか」
「は、はい、弟が二人います」
「君が生計を立てているのか」
「いえ、私のお給料だけで暮らしているわけでは……」
「そうか」

 青年は、一端口を開こうとしたが、赤いまつげを少し伏せてこう言った。
「……名前は」
「わたしの、ですか?名乗るほどの者ではございません」
「そうか……これからも励むように」
「はっ、はい!」
 頬が火照るのがわかる。軍人はみんな厳めしい顔をしているものだと思っていた。けれど彼は、こんな一介のメイドに微笑んだのだ。ほかのメイドたちもざわついている。

 青年は時計を見て、すぐに去っていった。それは、何かの言い訳のようにも見えた。
「私はそろそろ失礼する。女王が起きても、私がここに留まっていたことを殊更に口にしないように」
「なにゆえでございましょう」
「彼女はそれを、よく思うまい」
 青年は少し視線を落として、微笑んだ。その姿は少女の目にはひどく寂しげに映った。


 ぽうっと後ろ姿を見送る少女に、先輩メイドがこっそりと耳打ちをした。
「あの人はだめよ。恋人がいるから」
「べっ、別にそういうつもりではありません!」

 少女はただ、あの瞳をもっと見ていたいだけだった。



瞳の色




 




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