「空が近いような気がする」
目の前のグラハムが両手を広げた。背後に迫る空が眩しくて、表情は見えない。おそらく、彼は笑っている。空を背にして彼が悲しい顔をするはずがない。
しかし、これは夢だ、という自覚がビリー・カタギリにはあった。
グラハムは昏睡状態だ。救い出されたのも奇跡で戻ってきたのも奇跡だ。ならばこのまま意識を取り戻すこともありそうなものではないか。などと期待しながら、彼の意識が戻る日を待ちつづけた。さっきあんな夢を見てしまったから、ビリーはすこし不安になる。
(空が近い、まさか)
不吉な 予感に、首をぶんぶんと振る。
予感は大きく外れていた。ビリーがウトウトしている最中に、グラハムは目を覚ましていたのだ。
少しの間声を出せずにいたらしい。頭を振ってすぐに「カタギリ」と呼びかけてきたときは、涙が出るほど嬉しかった。
「君がいてくれてよかった」
「なんだい、薮から棒に」
「君がいなかったら私にはもう誰も……みな、私の不甲斐なさで殺したようなものだ」
グラハムは目を伏せた。こんなに弱気な顔を彼がするところは初めて見たような気がする。
「そんなの、僕だって同じだよ。僕がしっかりしていたら守れたかもしれない人もたくさんいる」
グラハムの深い森のような緑色の瞳を真っ直ぐ見て、自分にも言い聞かせるようにはっきりと言った。
「それでも、まだ僕と君は生きてる」
「そう……だな」
「大切なのはこれからだよ」
グラハムが相手でなければ、これほど明確なことは言っていないだろう。そうビリーは心のどこかで考えた。
彼を弱気にしてはいけない。彼には笑っていてもらわなければ。
これからも、彼と共に前に進まなければならない。
いや、彼と一緒に進んで行きたいのだ。
彼と一緒にならどこまででも進んで行けると思った。僕は決して飛べないけれど、彼の翼を作るためならどこまででも前に進める気がするのだ。
前へ、
もっと前へ。
* お題・四方山話さま
最終話後個人的希望です。非常に個人的な希望。
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