あの青年はよく笑う。
 ただ、その笑みは意識的なものらしく、一人でいる時はよく重い表情をしている。今までに何度か俯いているところを見たことがあるのだ。常に虚勢を張っているのだろう、単純に他の三人より年上だからかだろうか、常に気を張っているらしいことは確かだ。

 扉をゆっくりと開けるとまた何かを考え込んでいる彼の姿があった。
「ロックオン、どうした」
「……おやっさんか」
 青年は目をあげて、笑った。寂しそうな微笑だ。
「別に何でもないんだ、気にすんなよ」
「おいおい、パイロットの調子は知っておかなきゃいけないんだぞ」
 隣に腰を下ろし、青年に軽い調子で語り掛けた。
「どうした?また刹那とティエリアが喧嘩でもしてたのか」
「別にそういうわけじゃあない。ちょっとモヤモヤしてるだけだ」
 そう言っていつも無理に笑うのがこの青年の癖らしかった。
 しっかりとした体格をしてはいるが、まだまだ、若い。甘える相手もいなかったのだろう。途中で亡くしたのかもしれない。頼りなげなものは守りたくなるものだ、手が自然と伸びた。



「甘えてもいいんだぞ」
 頭一つ分も背の高い青年の頭を胸に抱き寄せる。青年は照れたようにははは、と笑ったが、少し経つとおとなしくなった。

「いつでも駆け込んで来い……まあ、こういうことはスメラギあたりにしてもらった方がいいんだろうけどな」
「俺はもう二十四だぜ。あの人にもあなたにも、あやしてもらうのは、」
 おかしいよ、と青年は胸から離れた。笑いきれていない悲しい表情が涙を思わせた。
(泣けばいい、泣いてしまえばいい)
 気の利いた台詞は出てこなかった。その代わりに、青年の垂れた頭を撫で回して笑ってやった。
「今度、作戦が成功した時にでも、勝利の抱擁をしようや」
 頭から手を離してやると、青年は頷いて笑った。立ち上がったと思ったら、すっと後ろを向いて、右手を上げて去って行く。まるで、舞台役者のようだった。やれやれ、道化になる必要はないのにな。



胸まで一直線

 いつでも降りて来いよ、真っ直ぐ、意地を張らずにな。






 青年は歌うような足取りで自室に帰る。嬉しいような、苦しいような、しこりのようなものが胸に残っている。鏡を見たら頭がぐちゃぐちゃだった。
 まさかこの年になって頭を撫でられるなんてな。青年は鏡に向かって笑ってみたが、張り付いたようなぎこちない笑顔が映るだけだ。薄い胸が懐かしく感じたけれど、油のにおいはあまりにも現状を意識させた。
(俺たちは、家族なんかじゃない)
 そう思うことで自制した。とうさん、と叫ぶことを。
 懐かしい家族の団欒を、暖かい家の灯を求める己の心を。







*


 お題・Aコースさま
あからさまに意味を履き違えてますよね……
 ロックオンが甘えられるのはおやっさんくらいだろうなと思うわけです。



 



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