少女は青年のすこし後ろについて歩いていた。上司に少女の存在をしらしめると青年は言う。緊張するかもしれないが我慢してくれ。青年はやさしくそう言った。
自分がこの人の傍にいることは、許可がないといけないことらしい。少女はすこし落胆したが、同時に嬉しくもあった。彼が自分を表に出してもいいと思ってくれたことが、嬉しい。もう自分は「捕虜」なんかではないのだ。
長い廊下の先にその部屋はあるという。笑顔をかみ殺しながら、黙々と後ろを歩く。
「きゃあっ!?」
沈黙を保っていた自分の口から急に声が漏れた。突然世界がぐるんと動いて、天井が真上になったのだ。
気がついたときには、少女の体は青年の腕に抱えられていた。どうやら自分は何もないところで足を滑らせたらしい。少女は己の失態に赤くなった。
「カテジナ、大丈夫か」
「……はい」
「そこは滑りやすいから、気をつけろよ。ほら」
ゆっくりと地面におろされ、すっと手が差し出される。おずおずと少女が手を重ねると、やさしく握られた。思わず少女は彼の表情を見る。困ったような、照れくさいような、そんな顔をしていた。いつも眉間にしわを寄せていた彼の下がり眉に、つい笑ってしまった。
「そんな顔も、されるんですね」
「どういう意味だ」
「いえ、なんだか意外で」
可愛い、とか言ってしまうと、むっとして眉間にしわを寄せてしまいそうなので、やめた。
「素敵です」
「そうか」
顔をのぞき込むのはやめた。つないだ手をじっと見る。彼の手は大きくて、何だかすこし骨ばっている。とてもきれいだと思った。
あなたを
好きだということを
どれだけの言葉で
伝えたらいいのだろう
つないだ手が、ただあたたかい。
この廊下がいつまでも続けばいいのに。一瞬、少女はそれだけを願った。
* お題・四方山話さま
これぞ妄想です。頼むから誰か少女漫画にしてくれ…!
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