窓の外には夜空が広がっていた。ネオンの煌めきに、星も霞むような空だ。そんな曇った夜空を、ぼんやりと眺めていた。

 コツコツと小さな靴音が背後から聞こえてきて、わたしの耳に響く。あの男がやってきたのだ。
 大きな図体に似合わず、彼はとても小さな音を立ててやってくる。何かに遠慮しているのだろうか。ならば一体何に?問いかけなければ答えはないが、取り立てて知りたいとまでは思わなかった。


 ゆっくりと彼に向き直り、わたしはその肩に、頬に、手を伸ばす。
「何が見えますか」
「別段変わったものは何も見えませんな」
「そうですか」


 前触れもなく接吻を交わす。唇を離してその瞳を見ると、狼狽に似た色がふっと浮かぶが、すぐに消えた。
「もう嫌がってくれないんですねえ、慣れちゃいましたか」
 軽口を叩くと、彼は踵を返そうとする。
「おや、怒らないでくださいよ」

 彼はわたしを顧みて、居心地の悪そうな顔で戻ってくる。
 それが本気でも、ポーズでも、わたしは構わない。どちらでも同じことだ。この獅子を犬のように飼い慣らすことが出来ているならそれでいい。

 男の肌は堅い。胸は厚く、鍛え抜かれた、という表現がよく似合うけれど、それが魅力だとは決して思わない。思うことを是としない。そうしなければ、こちらが取って食われるだろう。




 空は相変わらず曇っていた。相手を明確に瞳に映さないようには丁度いい。
 澄み切らない空の下、交わした接吻は甘かった。



曇天の摩天楼

 

 



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