おまえはよい子だ、と頭を撫でる手を、異物を見るように見上げた。そこには、太陽のように微笑むあの人の顔があった。
 初めてされたことだったので、とにかく驚いたことをよく覚えている。今となっては、とかく鮮明だ。月並みな言い方になるが、昨日のことのように鮮明なのだ。
 厳しく強い男が笑うときは、ああいった力強い笑顔になることを初めて知った。あの人は、言うなれば戦士としての指標だった。



 血の滴る腕をだらんと垂らして、少年は自らの住処に戻る。
 自分の口から発した言葉であっても、あの強く高潔な人を追い詰めたなどということは、とても信じられなかった。
 話しかけてくる友にもろくに口をきかず、ただ帰路を歩んだ。


 あの人はもう、ここにない。


 少年の目に不意に強い光が差し込んだ。
 眩しい。
 空はあまりに澄んでいた。
「夜明け、か」
 彼は白む空を見上げて、小さな声で呟いた。
 何度夜明けが来ても、オレに朝は来ないだろう。我ながら恥ずかしい台詞だと思った。乾いた笑いを漏らす。

(ただ青い朝を見ぬことを選ぶならば、こののちは、きっと) そう自分に言い聞かせるために、少年は笑った。




 





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