夢小説だ!
 高松がグンマさまを一人で育てていなかったらどうかな〜という話です。
 女性の視点。






 やけに整った顔立ちの青年が、赤ん坊を抱えて訪ねて来た。これだけの美形なら、若くして子を成すのも何ら不思議ではない。その時のわたしは、そう思った。
 わたしは前の契約者から追い出されて、新たな契約を待つベビーシッターの一人だった。ほかにも数多の同業者が待つ中で、彼はわたしを選んだ。


「この子を、一緒に育ててもらえませんか」
「もちろん。いつまでになさいます?」
「十二年でいかがでしょう。この方が、士官学校に入るまで」
「士官学校……軍人になるんですか」
「特別な出生の子なのでね」

 含むように話すその口許には、目立つ黒子が一つあった。
 赤ん坊がきゃっきゃと笑う。その顔を覗き込むと、青い瞳がわたしの顔を見つめて来た。青年は髪も瞳も黒い。彼自身の子ではないのだとその時初めて気が付いた。
 この子はある組織の総帥の血縁者なのだと後になって教えられることになるが、この時のわたしはまだそれを知らない。


*





 明日は少年の、士官学校への入学式だ。明日以降、少年に会うことは二度とない。その別れを語り、青い瞳が泣き出してしまったのをなだめて眠らせたところだった。
 誰かがわたしの部屋の扉を叩いて、声をかけてくる。

「おやすみになりましたか?」
「ええ」

 答えながら扉を開くと、目の前に長身の男が立っていた。長い黒髪を後ろで一つに束ねている。彼の黒い瞳は静かにわたしを見下ろしていた。

「ご挨拶をしておこうと思いましてね……どうも今までお世話になりました」
「……こちらこそ」
 頭を下げる彼の姿につい噴き出してしまった。相手も大方同じのようで、にこやかに笑っている。

「次の職までお世話していただいて、ありがとうございます」
「いえいえ。十二年を埋めるのは難しいでしょうからねえ」



 もう見慣れてしまったはずのその端正な顔は、わたしを未だ飽きさせることがない。つい口許を見てしまう。
 十二年前はこの青年もまだ十代だったのに、もう三十になるのか。


 この若い男と同じ屋根の下で寝泊まりすることもしばしばだったが、驚くほど、何も起きなかった。しかし、その気もないくせに、髪型を変えたことやら何やら細かいことにはふと気が付くらしい。それはいいとか悪いとか、指摘してくることもあった。
 いつしか、長い休暇をもらっても気が付けば彼らを恋しく思うようになっていた。
 育っていく少年が愛しかったことも確かだが、その時から既にわたしは黒髪の彼に恋していたように思う。
 けれど、ひととき家族のように過ごしたからといって、わたしと彼の関係は所詮は雇用被雇用の関係でしかない。
 好きになってはいけない。そう思ってから、何年経っただろう。



 この想いは決して語るまい。

「結婚でもしたくなったらいつでも言ってください。若い男、紹介しますよ」
「ははは、意地悪言わないでくださいよ」
 勘のいい男だから、わたしの視線の意味に気付いているかもしれない。だとすれば本当に酷い話だ。
 わたしは、本当は気付いて欲しかったのか。いい年してばかみたいだ。顔を見られないように、頭を下げた。

 わたしの肩に大きな手が触れる。
「あなたを選んでよかった」
 その一言だけで、必死で堪えていた涙がだらだらと溢れ出して、止められなくなってしまう。頭を上げると、滲んだ視界の中に彼がいた。
 ああ。
 もう二度と逢うことはないだろうけれど、わたしは彼を一生忘れないだろう。
 ただ、彼が今どんな表情をしているのかわからないことだけが、ひどく悔しい。




 




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