風が頬を撫でる。私たちは逃げて来たのだ。社会という枠組み、私たちを縛る一国の支配から。
「閣下……いや元閣下か、これから彼らの下へ向かいますがよろしいか?」
「ねえ、」
彼は黒い瞳を不意にこちらに向けた。
「
このままどこかへ行ってしまいたいね」
彼の遠くを見つめる笑顔を見ると、何処かへ連れ去りたいような衝動に駆られる。しかし、彼は外見からは想像出来ないような重い荷を背負っているのだ。背負わせている者の一人に自分も含まれている。彼を私の手で持ち逃げするわけにはいかない。私だけの彼ではないのだ。彼だけの彼でもない。
「そういうわけにはいきませんな」
「それは残念」
私たちは笑い合うしかない。私に妻はないが彼には妻があり、連れて逃げでもしたらそれこそ彼女に撃たれ兼ねない。
彼の笑顔ほど素晴らしいものを私は知らない。しかし彼の頭脳ほど素晴らしいものもまたこの世の中には存在しないのだ。
「ふ、」
「どうしたんだい」
「彼らと合流してからなら、地獄の果てでもお供しますよ」
「そんなところまでついてこなくていいよ」
私達は笑い合う。彼と共にいるならば、何処までも行けるような気が事実しているのだ。
これからも、ずっと、共に。
* お題・コルデさま
こういう距離感が好きです。
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