風が凪いで、癖のある髪を揺らす。数日前に皇帝に案内された場所へ、少年はひとり急いでいた。
それは、皇家の墓所だ。
日本を征服するブリタニアの皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアは、日本を自分が作ると約束しながら、日本人を殺戮する狂乱の末に病室で死んだ。
彼女はいま、日本人にとっての征服の悪の象徴のように呼ばれている。
その名と共に叫ばれている。ブリタニアは嘘も平気で吐く、薄汚い連中だと。
彼女の存在は、皇家にとって邪魔になるだろう。彼女の存在は、何らかの政治的な思惑のために消されるかもしれない。
少年は彼女の最期をあのように変質した能力を知識として知った。それを使っていたのが彼だったことも知ってしまった。
彼女の騎士である自分が彼女を救えなかった理由を知った。
後にはもう戻れないと、思うしかなかった。
薄赤い花を墓石の傍らに供える。彼女によく似た、やさしい色をした花だ。花に水滴が静かにおちる。
誰も見ていない静まり返った王家の墓所で、少年はひとり肩を震わせて泣いた。
「ねえスザク、わたしね、」
彼女の一生懸命な声が今も聞こえるような気がする。ユフィが僕を呼んでくれるならどこへでも行って助けてあげたかった。
「そろそろ行くよ」
少年はゆっくりと立ち上がり、墓を撫でた。この中に彼女がいる、と思うと遣りきれない。
その笑顔を護ると誓ったのに、もう永遠に君は帰らない。
「君に約束する」
俺は戦う、日本のために。
君に恥ずかしくない自分になれるように。
手向けの
花には
一輪の薔薇を
少年の置いて行った心と共に、その花は佇んでいる。風に揺れて、首を振っていた。
* お題・Aコースさま
実際はもっと後ろ向きでした……
がんばれスザク……
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