<これまでのあらすじ>
 自転車の件で因縁の出来てしまったウッソとクロノクルは、それからも因縁を深めるような出逢い方ばかりしていた。
 また、ウッソの知らないうちに、ウッソの想い人のカテジナは、担任であるクロノクルにベタ惚れになってしまっていた。クロノクルも満更ではないようだ。
 クロノクルが美化委員の顧問を上から押し付けられた際には、カテジナは嬉々として美化委員の主戦力にまでなってしまった。
 ウッソは益々クロノクルとの溝を深めた。



*





 ある朝のことだ。
 見慣れない赤い車が学校の前に停まった。タシロ先生やピピニーデン先生の車ではない。カテジナは誰が出てくるのか凝視した。出てきたのは見慣れた男だった。車の色と同じ赤い髪の、想い人だ。

「クロノクル先生!」
「おはよう」
「おはようございます……車を……買われたんですか」
「ああ。少し余力ができたのでな」
 先生は照れくさそうに笑う。
 カテジナが見たところ、そう高い車ではなさそうだ。しかし、愛の巣にするには充分な広さだった。

「帰りに、乗せていただいてもいいですか?出来れば寮まで」
 カテジナは寮生活をしている。ちなみに、今までメイドに片付けてもらっていたため、一人で暮らす部屋は汚い。部屋には上げられないな……とカテジナは思った。
 少し考えて、先生は承諾してくれた。自慢したい気持ちもあるのだろう。

 カテジナは、授業が終わるのが待ち遠しくて、タシロ先生やオリファー先生にガンを飛ばしたりした。昼休みも上の空でルペ・シノに知らぬ間に学食を交換されていたりもした。その異変にもちろんウッソは気づいていた。

 そして、彼女の待ちに待った放課後がやってきた。図書室に入り浸り、先生の帰る時間を待つ。すっかりあたりが暗くなった頃、クロノクルがやってきた。
「待たせたな、送ろう」
 カテジナの手を引いてクロノクルは車庫に引率する。助手席の扉を開けてもらって、手をすっと引かれて、気分はすっかりお姫さま……と思っているカテジナの背後から、よく知った少年の声がする。

「待ってください!カテジナさんを助手席に座らせるのは!!」
「ウッソ君!」
 ウッソが躍り出てきた。しかもシャクティ、オデロ、ウォレン、スージィも揃っている。
「こんな遅くまで何をしていたんだ」
「カテジナさんの身を守るためにみんなで待っていました!助手席なんかに座ったら……さ、触り放題じゃないですか!」
「なっ……何と不埒な発想だ!!」
 ウッソだけでなくクロノクルも年の割に奥手というか何とと言うか、ふたりして頬を染めている。
「……まあぶっちゃけた話、俺たちは新車に乗りたいだけなんだけどな」
 ぶっちゃけたオデロはカテジナにぶん殴られた。

「仕方がないので僕が助手席に座ります!!みんなは後ろに乗って!」
 ウッソの剣幕に押されて、カテジナも後部座席に押し込められる。何が仕方がないのかは誰にもわからないが、カテジナの隣にはシャクティ、その隣には、ウォレンの膝にスージィが座った。オデロは荷台のスペースで我慢している。
 クロノクルは隣にちょんと座っているウッソを睨みつけた。
「私の車だ」
「子どもにこんな時間に歩いて帰れって言うんですか!?」
「……仕方ないな」
 睨み合いになったら、折れるのは早い。
 クロノクルは家まで子どもたちを送ってやることにした。




「なんでこんな、ファミリーサイズの車を買ったんですか?」
「それは……将来を考えてだな」
「えー、誰との?」
 スージィが容赦なく聞いてくる。
「……君らには関係なかろう」
 彼の隣をゲットできなかったカテジナは、自分のことを挙げてくれるのを期待したが、そういうわけにもいかなかった。

「今日はどこまで行くんですか?」
「カテジナを寮まで届けるだけだ」
「中には入らないですよね?」
「もちろんだ」
「僕もカテジナさんの寮で下ろしてもらってもいいですよね?」
「それは承諾できん」
「ええ〜っ!」


「……さて、カテジナの寮はここだな」
 寮の前で停車し、クロノクルはスッと車を降りて、カテジナ側の後部座席の扉を開けた。
「先生、今日はわざわざありがとうございました」
 カテジナの笑顔を見ると先生も嬉しいらしかった。
「何、これくらい大したことではないさ……」
 さりげなく降車しようとするウッソを車に押し込めながら、クロノクルは微笑んだ。
「また明日な」
「ええ……」
 カテジナは手を振って寮の中に消えて行った。
 それを満足げに見送ったクロノクルに、ウッソは叫ぶ。
「クロノクル先生、もう、完全に教師と生徒の関係じゃないじゃないですか!!」
「そっ、そんなことはないぞ!!」
 クロノクルは動揺して運転が荒くなった。
 二人の会話はシャクティたちにとってはほとんど無意味だ。騒ぐ声を聞きながら、後部座席でみんな眠ってしまっていた。
 ほぼ全員をクロノクルがかついで運んだことは言うまでもない。


 つづくかもしれない。



 






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