※ダイレクトに性的な描写があります。いろいろとひどい。(当社比)
 やおいは、ファンタジーです。ファンタジー。





つぐない





 夜は些細な音も立てずにやって来る。少年は昏い夜に怯えながらも、暖かな腕を想って眠ることが出来た。優しく頭を撫でてぎゅっと抱きしめてくれるあの男の暖かな腕を少年は知っていたから、目を閉じることが出来たのだ。

 「少年」は自分をずっと「少年」だと思っていた。
 フリルのたくさんついたふわふわの服を着て、甘いお菓子に包まれても己は少年で、たとえどれだけ年をとっても、己は少年だと思っていた。


*



 自分の人生が、優しく頭を撫でてぎゅっと抱きしめてくれるその男によって捩曲げられていたことを少年は知ることになった。周知の事実となり、心に澱が溜まる。けれど元凶とも言える彼を憎む気にはなれずにいた。彼は、言わば仇の子をあれほど親身に育ててくれたのだ。それに、親のように育ててくれた彼の悲しいほど謝る姿を見て、憎めるはずもなかった。
 しかし、彼の行いは、少年の人生を捩曲げるだけではなく、未来を奪うものでもあったと少年は知ることになった。

*



 その言葉の端を聞いた時、少年は何を言っているのかわからなかった。少しずつ考えて、苦しみながら一言吐き出す。
「ふざけないでよ……!」
 返す言葉もないと言った風情で、男は黒い睫毛を伏せた。
「……本当に、申し訳ありません」
 男は伏し目がちになりながら、少年の体が胤を遺せないものだということをぽつりぽつりと話した。精子が作れないように、投薬を繰り返し、「作った」のだそうだ。精子を取り出して卵子と受精させることさえ出来ないという。
 始めは「復讐」のつもりだったけれど、途中から良心の呵責を感じはじめたそうだ。けれど、後戻りは出来なかったという。
 そんなことを聞いているうちに少年は自分の頭がひどく冷めていくのがわかった。ああ当たり前じゃあないか。この身を構成するものが憎かったのだから。憎いのだから。何の思惑もなく「育ててくれる」なんて、おかしいじゃないか。
 それは今でも?あの時も?これからも?
 必ず、何年かかっても、償います、と言って男は少年の足元に跪いていた。
「償うって……どうするつもり……?」

 この場合の、つぐないとは一体何だろう。
 細い喉を鳴らして、震える声で少年は呟いた。

「謝るくらいなら、おまえを、ぼくに、犯させろよ」
「は……?」
「勃起はする。性欲だってないわけじゃない。でも誰にも突き立てたことがない。たぶんこれからも誰にもしない。でも一度くらいいいよね。これの面倒くらい、みてくれてもいいよね?今までぼくのこと、ずっと面倒みてくれたんだもんね?」
 少年は自分の股間を指す。男はじっと少年を見つめ、小さく頷いた。


*




 些細な音も立てず夜はやって来る。彼の長い黒髪は夜のような色をしていた。


 少年は白い指で固い胸に触れて、撫でくりまわした。何度も抱きしめられたことのある胸だ。しかしこんな風に触ったことはなかった。
 男はされるがままになっている。厚い胸、太い腕、少年よりもずっと強靭そうな肉体だ。この手に抗おうとすればきっと簡単に抗えるのだろう。だから、「横になって」と声をかけられるだけですんなりと寝台へ横たわる男の諦観したような顔が憎い。ぽっかり開いたその穴が憎い。腰を持ち上げて少年を受け入れようとするその体が憎い。
 彼がいつか美しい花を見上げながら言ったある言葉を思い出す。生命は種を残すことを本能として持つ。その言葉が頭の中を呪文のように走り回っていた。

 少年は直腸の中で果てた。

「ねえ、この穴に、どれほどの男のモノを咥え込んできたの?本当に慣れてるんだね」
 男は、はっとしたように少年の姿を見て、眉を下げた。
 図星なのか。男と何度も寝ていたのか、この男は。幾つの歳からそんな、ああ、苦しい。少年は泣きたくなった。彼のそんな姿は知らない。二人の間に開いた穴が憎かった。

「もっと、触ってもいい?」
 少年の右手が、その穴を弄ぶ。
 ゆっくりと、奥に、奥に、すぼめた手を突き入れる。みちみちと音を立てて、手は腸壁をなぞっていく。
 掻き回すほど男の体は跳ねた。その口から漏れるその声が、悲鳴のように聞こえる。節くれだった手で必死に口を塞ぎ、歯を噛み締めようとしながら、それでも漏れ出している声は、間違いなく嬌声だった。少年の目の前に見える赤黒いそれが、どくどくと脈打ちながらそそり立っている。そして、腰が、揺れている。何かを求めるように。痛みしか感じていないならば、このようにはならないだろう。
 いやらしい。こんなことで快感を感じるような体をしていたのか。


 きれいな思い出がよごれるような気がした。
 もう何も思い出したくない。何も思い出したくない。


 少年が赤黒いそれに口を付けると、男は腕を伸ばして少年の顔を遠ざけようとした。そして、いけません、やめてください、と初めて口にした。それが少年にはひどくうれしい。思い切り咥え込んで、思い切り泣かせてやろう。
 じゅぼ、じゅぼと何度か繰り返すうちに、男は果てた。少年の口中に精液が溢れる。口の端から漏れて、顎がべたべたと汚れた。
 これが精子のたくさん入った精液か、と思いながら、少年は口の中のそれを嚥下した。細い喉の奥にそれが流れていく。
 男は顔を背けて泣いていた。
 嬌態を見続けた少年の前は既に何度も果てている。けれど目の前の泣いている男の顔が見たいと思った。脚を引きずるように男の腹の上に馬乗りになる。
 輪郭を手でなぞって、こちらに向けた。男は力なく少年を見上げる。
 いくら汚れても、端正な顔だ。幾つになってもそう思う。幾ら汚れても、きれいだ。
 苦しいほど憎いのはなぜか、本当は痛いほどわかっていた。

「好きだよ……愛してるよ……おまえが好きなんだ……」
 昏い瞳で見上げる男の目を、透き通るような瞳で見下ろす。その昏い目をひどく虚ろだと少年は思った。しかし今まで気付かなかっただけで、彼はずっとこの虚ろな目をしていたのかも知れない。
「いつかおまえより大きくなれると思ってた……」
 いつしか、少年の目からは涙がこぼれていた。男の涙や汗で汚れた顔に、少年の涙はぽたぽたとこぼれ落ちる。
「そしたら、おまえを抱こうと思ってたんだ……ずっと……おまえに、ぼくの子どもを……産んで欲しいと思ってた」
 彼には実子が一人もいない。生命は種を残すことを本能として持っている。この二つのことが導く答えは何だろう。
 少年の目から、あとからあとから涙がこぼれる。男の厚い手が、少年の震える肩を掴んでいた。

「私は、男です。他の男の精子を注入されたところで、体内で子どもを作ることは、出来ません。最初から、出来ませんでした。絶対に無理です。本当は、わかっているんでしょう、最初から。だから、もう、やめましょう?」
 男は切れ切れに、ゆっくりと、諭すように話した。その手は少年の頭を優しく撫でている。
 少年は男の胸にすがり、顔を埋めて泣いた。「いっそぼくを女にしてよ……おまえの……女、にしてよ……」
「出来ません」
「……出来るんだろ……本当は……何だって……おまえは……」

 あなたのためなら何だってしてさしあげます、と語った笑顔が懐かしい。何だって彼に頼んだ。何だって頼った。
 少年に男の昏い目はもう見えない。目の前にあるのは何度も顔を埋めた厚い胸だけだ。過ぎた日の思い出ばかりが眼前によみがえった。



*




 リボンを頭に付けて、「かわいく」微笑む。にっこり。なあんだ、こうすればいいのか。今までも何度もやっていたじゃあないか。
 青年と呼ぶに相応しい年齢とは不相応に幼い姿をした「少年」は、鏡を見て笑う。彼は今までにこれほど自分の笑顔を意識したことはなかった。

 少年がラウンジに行くと、見慣れた男の後ろ姿を見付けることが出来た。
 少し背を丸めて、長い脚を組み、右手で新聞を開きながら、左手でコーヒーを持っている。紙コップを持つ指の形が綺麗だと思った。

「おはよう!」
 少年が元気よく声をかけると、彼は少し驚いた顔をして、それから、笑った。
「おはようございます。そのおリボンはどうしたんですか?」
「似合う?かわいいでしょ」
 少年は肩を竦めてかわいくにっこり笑って見せた。
 男は目を細めて「ええ、とても!」と微笑む。
 昏い目が少年の可憐な姿を映していた。


 まだ二人の夜は終わらない。



*

なんだこりゃ……
あと時間軸おかしいですよね……
やおいはファンタジーです(適当)




 





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