コポコポと、水の音が脳内に響く。言いようのない不快感が体に纏わり付いて、無性に苛立ちが募った。
金色を纏う頭を振り、青年は絡み付くような感覚を振りほどこうとする。
しかし、これは簡単に消せるような生易しいものではない。二十年以上も彼を縛り付けていた感覚だ。
青年は身を起こして寝具を離れ、少し部屋を出ることにした。
ざわつく体を抱えて、大股で廊下を歩く。
「どうしましたか?」
具合でも悪いのですか、そんなことを口にしながら、黒い目をした男が青年の目の前に顔を出した。
寝衣を纏っているところを見ると、足音に気付いて起きてきたのかもしれない。
「どうもこうも、ない」
青年が吐き出すように言うと、少し近づいて、顔を覗き込んで来る。黒い眉をハの字にして心配そうだ。真っ黒なこの瞳は、あいつと同じ色だ、そう思うと心がざわついた。
手が出そうになるのを青年は堪える。この男には何の恨みもない。寧ろ、親のように接して来るこの男が気にかかっていた。まるで物語に登場する「親」のように接して来る。
今も、そうだ。
不意に、青年は腕の中に包まれていた。
厚みのある肩が、黒い髪が、青い瞳に映る。
背中を軽く撫でられながら、青年は目の前の肩へ顔を埋めた。
自分以外の鼓動が、とくとくと聞こえてくる。
あたたかい。
青年は瞼を閉じ、腕を目の前の背中に回した。
今夜はきっと、眠れるだろう。
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