愛しい男の首を切らせて、そして口づけた女のことを知った。ふと手にした薄い文庫本に描かれていた、古い物語の主人公だ。
 本を開いたまま、少女はしばらく立ち尽くしていた。
 挿絵に描かれた女のうねる髪は、自分と似ているような気がする。それに少しぞっとして、少女は肩に垂れた己の髪を触った。
 髪に触れながら、愛しい男の顔を思い浮かべる。
 太陽のように明るい笑顔を浮かべて、わたしの名前を呼んでくれるあの人の顔を。



 手に入らないなら首を切ってわたしだけのものにしてしまおうか。永遠にわたしだけのものに。
 わたしだけの彼の、青ざめた頬に手を添える。
 首から血を零し、目を閉じた彼のその唇に、わたしは口づけをするのだ。



 おそろしい妄想だ、とかぶりを振っていると、あの人の声が微かに聞こえた。驚いて振り向くと、少し背の高い彼の姿が入口のあたりに見える。なびく長髪が目立って、すぐわかった。
 ああ、わざわざ迎えに来てくれたのだ。今日は彼の家で食事をする約束になっているからだろう。家族ぐるみで付き合いがあるというのはいいものだ。
 少女は本を元の棚に戻して、彼の元に駆け寄った。
「迎えに来てくれたと?」
「ついでたい、ついで!本見るついでたい」
「なんの本ね」
「おう、見せてやるけんついて来んね」
 少女の細い手を握り、青年は歩き出す。自分のものを探すだけではなく、わたしにも何か薦めるつもりでいるのか。少女はくすりと笑って、彼を見上げた。年の離れた兄のように接してくれる彼の、精悍な横顔を。



 わたしはサロメにはならない。
 わたしは彼の手を握ってずっと歩いていくのだ。
 そして、いつかは……
 幸福な想像に、少女はただ胸を高鳴らせていた。





*

 雄簾治くんと年下幼なじみな女子・ゆかりちゃん(もちろん「紫」で「ゆかり」と読む)妄想でした。




 





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