振り返るな、振り返るな。
お願いだから、振り返らないで。
隙間から新しい自宅の縁側を覗くと、ふと見たこともないような絵が目に入ったのです。龍……?いや、花?何が描いてあるのかどうかは、さっと判断がつきませんでした。点で描かれた色鮮やかな絵画に、ただ胸が高鳴りました。
とにかく、今まで参考書で見たどんな絵画よりも、魅力的に見えるのです。
問題は、その絵が描いてある場所が、義理の兄の背中だということでした。わたくしがたった今魅了されているあの絵画は、いわゆる刺青なのでしょう。わたくしは水浴びをする彼を覗いている形になってしまっています。なぜこんな昼間から水浴びなどしているのかしら、全く理解に苦しむ行動です。
わたくしは、未だ彼を兄と呼んだことはありません。
いかにも軽薄そうな、そのうえひどく年上のやくざ者を急に引き合わされて、誰が兄などと呼べるのですか。
彼が、まあ仕方ねえな、と笑ったのを、よく覚えています。
養父や養母には申し訳ないけれど、わたくしにこんなわけのわからない兄はいらなかった。そう思っていました。
そんなわたくしが、自分の背中を覗き見ていると知ったら、彼はどんな表情をするのでしょう。考えるだけで、顔から火が出るほど恥ずかしい。笑うだろうか、それとも、それとも……
それでも彼の背中はきれいなのです。目が離せません。
肉の少ない背中の肩口にかかる黒髪も、腰にかけての体つきも、まるで刺青を引き立てるかのように、きれいでした。
振り返らないで、振り返らないで。
振り返らないでください、お願いだからどうか。
背中に照る
花の色
* 何というか、三姉妹(特に菊)と仲良しなシーンがほしいと思ったらこうなりました……ただの覗きだ!
このあと仲良くなるんですよ、多分……
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