▼ ピクニックへ行こう
ある晴れた日曜日。辛く厳しい練習のない久々の休みの日。
常に野球野球の部活漬けの球児たちにとっての滅多に無い久しぶりの休み。家でゴロゴロしたり普段ゆっくり出来ないことをするだろうと思った私はイチャイチャしたい気持ちを我慢していた。グッとこらえていたのだ。偉くない?私。
「もしかして私って気遣いマスターなのでは!?」
「誰が気遣いマスターだって?」
「え、なんで梓がここにいるの?久々の休みなんだからもっと休息に使ったり他にすることあるでしょうと気遣いの達人あまねさんは思ったのに」
「今何気にマスターから達人に変えたな……まぁ別にいいけど」
そんな私の気遣いを無にするように想い人でもあり、幼馴染でもある西浦高校野球部のキャプテン花井梓は朝早く私の部屋にズカズカと入って来て近くにあった椅子に腰を落ち着けた。
遠慮なんてなしである。恋人の前に幼馴染だからなのかもしれない。ていうか私まだパジャマのままなんですけど。いくら幼馴染を経ての恋人同士、カップルだとしても流石の私も恋人の前でこんな恥ずかしい姿見せたくない。
「こんな朝早くから何しに来たの?」
「あ、そうだった本題忘れてたわ……あまね、ピクニック行くぞ」
「だが断る」
あまりにも想像していたのと違ってつい反射的に答えてしまったがどうなんだろうこれ。
もっとこう、あまーい恋人たちがするデートを期待していただけにショックがデカすぎた。なんなんだピクニックって。そこはウインドーショッピングやカラオケ、大型アミューズメントパークではないのか。恋人たちのデートの基本ではなかったのか。
……ハッ!もしかして友達に見せてもらった雑誌を私が読み間違えていたのか。今のカップルの定番デートスポットはピクニック☆彼女の手作りお弁当で彼もメロメロ間違いなし!と書いてあったのだろうか。
「そうか……折角弁当も作ったんだけど……あまねの好きなオカズもいっぱい詰め込んだ」
「おら、遅いぞー。キリキリ歩け」
「そっ、んなことっ、言ったって……てかなんで梓はそんなに元気なの?」
「動いてないと落ち着かないんだよ、ったく。早くしないと昼までに着かないだろ」
「体力ある人と比べないでよ」
結局あまねは花井の良いように丸め込まれてしまい。近所の山へピクニックに来てしまった。
ゼエゼエと息を切らせて歩くあまねを遅いと言いつつも彼女のペースに合わせて花井は歩いている。しばらくの沈黙の後彼は「あー」やら「うー」やら唸ってから「ほら」と差し出されたのはこれでもかというくらい赤く染まった大きくてゴツゴツした手だった。
どうしたものかと思い花井の方をチラリと盗み見ると手よりも赤く、茹でダコのような顔色の彼がいた。
(どどうして赤くなんのさ)
(は、はぁ!?赤くなんてなってねぇし)
(こんな時に赤くなるなんてズルい!)
(んなっ!?)