▼ 来年も君と
12月31日、冬。只今の時間は午後11時30分を少し過ぎたところだ。
私は悠に二人で初詣をしに行こうと近所の神社に来ている。この寒空の下で。いくら防寒対策はしてあっても寒くて仕方がない。両手を暖めようと吐いた息は真っ白だ。
「寒い…」
神社には普段人がいないが今は周辺一体には屋台が広がっている。その周りには人が列をなしている。神主さんは忙しそうにパタパタ走り回っていたりとわいわいと賑わっている。
私は少し離れた所で悠を待っている。悠とは、今年の春から付き合い始めた初めての彼氏だ。
「ほらあまね、向こうのおばあちゃん達が寒いだろうからってあったかいココアくれた。可愛らしい彼女さんにこれ飲んで暖まれって言ってた」
あのおばあちゃん達だと教えてもらい立ち上がってペコリとお辞儀をする。おばさん達はそんなこと気にしなくてもいいのよと笑われてしまった。
「あ、悠ありがと。嬉しい…あったかい」
悠からほかほかと湯気を立てていたココアを受け取り一口飲んだ。ぽかぽかと身体が暖まってきた。
「…今年は色んなことがあったな」
すとんと隣に座って悠は言った。
「なによ急に改まって」
先程までと雰囲気がガラッと変わった気がしてどうかしたのかと聞いた。
「今年もそろそろ終わりだなーって思ったらなんかさ、今までのこと振り替えっておいたほうが良いんかなって思ってさ」
「ふふっ。そうだね、今年は色んなことがあったね」
「あまねと出会えたこととかさー。」
「出会いは最悪だったけどね」
「だって、しのーかと一緒に部室に入ってくるなんて思わなかったし」
「あの時のことは一生忘れないから、私。」
入学して千代ちゃんに勧められ野球部のマネジとして入部した際に挨拶をしなくてはいけないと思った私たちは着替えの最中の部室に入ってしまったのだ。
幸い部室の中にいたのはアンダーに着替えていた三橋くんと泉くんの仲良し九組だった。
問題なのはテンションが上がってパンツ一枚の西浦高校野球部一の野生児田島悠一郎だ。
あのときはバッチーんと部室内に響く程のビンタをしてしまった。
「あん時のビンタはめちゃくちゃ痛かった」
「それはあんたが悪いんでしょ」
悠は思い出したように左頬を擦った。
「あ、ちょっと悠もうそろそろカウントダウンじゃない?」
「もうそんな時間か…」
腕時計をチラリと見ると時刻はあと数分で新年だ。人々もいつの間にかどんどん集まって来ている。
「よし、オレたちも向こう行くか」
「うん」
二人とも立ち上がり人だかりの中央に集まる。気を抜くとはぐれてしまいそうになる私を見るなり悠は「手繋いで行くぞ」と言って手を引いて進んでいく。
「悠。私言い忘れてたことがあるの」
「んー?なんだー?」
悠は後ろも振り向かずに言う。
「今年は色々とありがとう。来年も宜しくね」
「おう!こっちこそよろしくな、あまね!」
今度は此方を向いて悠はニカッと笑った。
来年と言わず、ずっとずっと仲良くいられますように。