瞳の先の人

オレはあまねが好きだ。その笑った顔も怒った顔も全部、全部…だけど、あまねの瞳にはオレとは別の違う男、同じクラスメートであり部活仲間である阿部だ。

あいつの何処が良いのかと一度だけ、聞いたことがある。そうしたらあまねは少し照れたように「んーとね、全部、かな?」そう言って笑った。

 
「アイツは…阿部はあまねのことなんか見てなんかいないんだ。」

そう言いかけて慌てて口をつぐんだ。


「どうしたの、花井くん?」

あまねは無防備にズイッと俺の顔を覗き込むように近づいてきた。


(オレの気持ちも知らないで…)


だけどあまねの悲しそうな顔を見たくなかったから今、オレに出来る精一杯の笑顔でこう言った。


「阿部と…付き合えると良いな。」
「うん。ありがとう、花井くん。私、花井くんの優しい所大好き!!」


(止めてくれ、あまね。期待させないでくれ)

あまねの何気ない"大好き"その一言でオレの心を掻き乱す。"大好き"ならオレのことを見て欲しい。

でも、あまねはオレを見てくれることはなかった。


(だって、今もあまねの瞳には阿部、只一人だけしか見つめていなかったのだから…。それなら今のオレに出来る事はあまねの"大好き"な"優しい人"を演じるだけだ)




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