▼ ハッピーハロウィン
今日は10月31日…。
世間では"ハロウィン" とかなんとか言って騒がれているがあたしにとってはただのつまらない行事で終わるはず……。
はず、だったのに!
「あまね、今日は何の日だっけ?」
ニコニコ顔であたしに近づいてくるサードで4番の田島君。はぁ、やっぱり一番最初はあなたですか…でも、残念でした!!
「言っておくけど、あたし何も持ってないから集っても無駄だよ?残念でした」
えー!?とか心底悲しんだ顔しても何もないんだから仕方ないでしょ…。
「た、田島っくん!ど どうだった?」
ヒョコッと田島君の後ろから天使…ゲフン。三橋くんが出て来た。
「そっか、あまねっちゃんお菓子、持ってないん だ…。」
着いてなんていないのに私の目には、耳と尻尾がしゅんと下がっているように見えた。あぁ!!そんな顔しないで、三橋くん。
「三橋!駄目元でさっき教えた言葉、あまねの前で言ってみろよ」
こそこそ耳打ちするように言っているが聞こえてるよ、二人とも。
泉くんなんて私にしか聞こえない声で、「聞こえてない振りしてやってくれ」って苦笑いしながら言った。
「えぇっだってあまねちゃん 持ってないって言ってた よ!」
「い・い・か・ら」
「う、うん」
「#bk_name_2#っちゃんっあ あの、その…。と"とりっくおあとりーと"」
「うーん、今お菓子持ってないんだけどな…あ、ちょっと待ってて」
廊下は走らないの張り紙も見て見ぬ振りをしてある教室を目指して私は走った。
「マイスウィートエンジェル千代ちゃん。カムヒヤァー…痛い!!」
千代ちゃん目掛けて走って、どさくさに紛れて熱い包容を交わそうと思ったら目の前に真っ黒い壁が立ち塞がった。タレ目で常に苛々している阿部だ。
こいつにはお菓子じゃなくて、カルシウムでもあげようか?
「煩い、黙れ」
「そっちこそ、阿部の分際でっ!」
「うっさい、黙れバカ」
今にもクラスを巻き込んだ喧嘩が起きそうになる。私たちはいつものことなのであまり気にしないが周りの子たちは気が気でないようだ。
「両方煩いわ!!」
「うわあっ」
「痛てえ!!」
花井くんの手には分厚い辞書が見えた。あれで阿部を殴ったのかな?女の子には殴らないなんて花井くんてば紳士!!
「お母さーん、阿部くんが私を虐めるー」
告げ口をするように言うと花井くんは呆れたように溜め息を吐いた。
「誰がお母さんだ、誰が」
「#ame2#ちゃーんどうしたの?何か用?」
「千代ちゃん!会いたかった」
「あはは…私もだよー?」
「あのね、今日は"ハロウィン"でしょ?ホントはそんな、クソつまんない行事なんてやりたくないんだけど三橋くんが"とりっくおあとりーと"って可愛いく言うから…。」
「お菓子をあげたかったけど何も持ってきてなかったんだ…。」
「千代ちゃん、話が早いね!!そうなんだよ、お菓子をなにか恵んでおくれ」
「本当は部活が終わった後にあげたかったんだけど…まぁいっか。」
「ありがと千代ちゃん」
「そのかわり。私の代わりに皆にあげて来てくれるかな?」
「任せておくれ、千代ちゃんのためなら頑張っちゃうよ?」
「…千代ちゃん?」
「え、どうかしたの?」
「あたしに野球部の皆にクラスを回りながらお菓子を渡せと?」
「うん、あっでも"トリックオアトリート"って言われてからお菓子をあげてね」
…めんどくさーい、でも千代ちゃんの為だ…。我慢我慢。女を見せるよあまねちゃん!!
「了解しました!」
…とは、言ったものの…めんどくさいなーあたしは三橋くんだけで良かったのにな。
「三橋くーん!」
「あ、あまねちゃん!」
「はい"ハロウィン"のお菓子!」
「ありがとうっ!あまねちゃん」
「あー三橋だけ狡い!俺にもっ"とりっくおあとりーと"!」
「むう…仕方ないなあ。はい、どーぞ」
渋々といった風に渡すがお菓子を貰えたことが余程嬉しかったのだろう。田島くんはぴょんぴょん跳ねた。か、可愛いじゃないか。
「なああまね、俺のはねぇのか?」
あるにはあるけど千代ちゃんとの約束があるから…
「"トリック・オア・トリート"」
敢えて区切って発音する泉くんに身の危険を覚えてサッと渡す。
「どっどうぞー!!」
「俺は別に"イタズラ"でも、よかったのに、なああまね?」
「お断りします、はい!!」
もうどっと疲れた。少ししか役目を果たしてないのに…あと何人だっけ?ひいふむうみい…えと、6人か…面倒臭い。
「あ、あそこに巣山くんに西広くんに栄口くんがいる」
よし、一気やってぱっぱとに終わらせよう。
「あ、桜井さんじゃん。こんにちは…って!?」
西広くん、せっかく挨拶してくれたのにごめんね…。本当はこんな事、やりたくなかったんだけどね…。
「何も言わずにちゃっちゃと"トリックオアトリート"って言ってね?早く終わらせたいんだ、ねっね!?」
「「「と、"トリックオアトリート"?」」」
「よしっ!はいっ!」
呆気に取られる西広くんたちにごめんねと謝りつつ残りの三人にお菓子を渡すべく走り出す。
「い、今のって桜井さんだよね…?」
「「う、うん…そのはずだけど…。」」
「「「…………。」」」
とりあえず見なかったことにしようそう、心に誓う3人であった…。
残りの三人の居場所はと指折り数えてから端と気付いた。
「あ、千代ちゃん達のクラスじゃん」
うわああ、最初に渡しておくべきだった。今更後悔…
「うげっ…。」
「ん、うげっ?」
何処からか失礼な声が聞こえた。誰の声かわからないけど。まあ、あたしに向かって言った訳じゃないだろうし気にしないでおこう。
「あれ、あまねちゃんじゃん。どしたの?」
水谷くんはヘラリと笑って挨拶してきた。
「みっ…」
「み?」
「見つけたああ!!あんた達!ちょ、早く"トリックオアトリート"って言いなさーい!!」
「"トリックオアトリート"?」
「はい、どうぞ水谷くん!!…あと2人なんだから早く言ってよう!!」
「な、泣くなよあまね…」
オロオロと狼狽える花井くん。
「それなら早く言ってようバカ…」
「うっ、"トリックオアトリート"」
「はい、どうぞ…。後残るのは…!」
キッと睨めつけるように残る一人に視線を送る。
「はぁ?なんでオレがそんなガキ臭ぇ事しなきゃなんねぇんだよ」
野球部メンバーにお菓子を渡して回るのがどれだけ大変だったかこいつは知らないからそんなこと言えるんだな、畜生!!あたしの怒りは頂点に達した。
「あんたねぇ…あたしが下手に出てりゃいい気になって…。」
「はっ、おまえのその態度の何処が下手に出てるのか、教えてもらいたいくらいだぜ」
手を上下に動かしてやれやれという阿部…。
凄いバカにされてる気がして無性にイライラする。
「どう思う!?花井くん!?」
「急に話しを振るなっ」
「そうだ花井、思ってる事今のうちに言っちまえ。」
「水谷にも話を振れよ。」
「え、オレ…?」
「ダメだよ。ボーッとしてるから」
「くそっ!役立たずっ」
あ、花井くん。言っちゃった…あんなに優しかったのに。
「あれ、皆どうしたの?」
「千代ちゃんっ」
「あまねちゃん。どうしたの?」
「あの阿部が"トリックオアトリート"って言ってくれないんだよう」
「あー…そうだったんだ」
「な、なんだよ…篠岡…。」
「ふーん…言ってくれないんだ?へぇ?」
「!?」
「ん?なんかあったの?」
「ううん、なんにもないよ…うふふ」
「と"トリックオアトリート"っ!!」
「あ、阿部が言った!!」
「黙れ」
「あれ?あまねちゃんにそういうこと、言うのはどうかと思うな…うふふ。」
「ひぃぃぃーーーーーっ!!」
とっとりあえず、
ハッピーハロウィン☆←