恋はここから

「おはよう、まりちゃん!」
 
教室に入るなり大声で私の親友まりちゃんに、挨拶した。まりちゃんが挨拶を返す前に同じクラスで一番うるさい『田島』という男が、「おはよー。」と、私に勝とも劣らない声で挨拶して来た。


まりちゃんはすかさず突っ込みを入れる。
「悠一郎、あんたには言っていないの。それとも何?あんたはあまねなの!?」 
「そうそう、あたし桜井だよ。まりはあたしのこと忘れちゃったの?」


くねくねと腰を捩って偽物の私…田島くんは言った。
田島くんから見た私はそんな風に見えていただなんて…と内心ショックを受けたのは内緒だ。
 
―二人は幼なじみという関係らしい。―
 
まりちゃん曰く、
 
「アイツはうるさくて手に負えない!!」
 
―らしい…。
でもそんな二人の関係を羨ましく思ったりもする。だって…私は…。
 
「おっはよ、あまね!!よかったじゃーん。憧れの田島くんに挨拶して貰っちゃってさ」
 
 
まりちゃんはニヤニヤしながらこっちを見てくる。私は少し下を向いて頬を赤く染めて「…うん」と言った。その様子を見たまりちゃんはさらにニヤニヤして
 
「ねぇ、もっと一緒にいたいって思わなーい?」
 
「えっ?」

突然一緒にいたい?だなんて聞かれて驚いたが「どうして?」と質問してみた。 
 
「うふふー。あ・の・ね、悠一郎に聞いたんだけど、野球部のマネジ一人だけじゃ大変みたいなんだよね。だからさ、あまねもマネジやってみない?」
 
「野球部のマネジ?」 
 
野球部のマネジを私が…?田島くんと同じ部活でそれを私がサポートする…の? 
「え、えぇぇぇ!?」
 
ぼっと音がしそうなほど顔を真っ赤にさせたら、下ネタを話していた田島くんと泉くんそして、オドオドしている三橋くんがこっちを見て笑っていた。
 
 
私の壊れっぷりに驚いたまりちゃんは焦りだした。

「ちょ、あまねしっかり!!あまね!?」
 
「あ、えと、私、野球部のマネジやりたい…いや、やらせて下さい!!」
 
「え、ほんと!?じゃあ悠一郎に言ってそれから…あ、あと、部長の花井くんにもそのことを伝えて―。まあ、あとはあいつらに言えば何とかなるよね、うん。」 

てきぱきと物事を進めていくまりちゃんを尻目に、勢いで言ってしまったので私の心臓はドキドキしていた。

(私ってばやれば出来る子じゃない!!)
 

「おーい、あまね聞いてる?」

考え事をしていて目の前で手をひらひらとかざすまりちゃんにハッとした。
 
「えっあ、うん」

「おーい、悠一郎ちょっといい?」
 
うわ、まりちゃん凄い。男子の輪に入って行けるなんて…私には入っていけないや。心の底から尊敬するよ、まりちゃん。
 
「ん、なんか用か?」
 
「あのね、この間野球部マネジが足りないって言ってたじゃん?」

「もしかしているのか!?マネジになりたいって子」

「マジでか!!すげえじゃん」

「う、嬉しい、なっ」

聞いた瞬間に田島くんたちの目が爛々と輝いている。そんな様子を見ていると、私なんかがマネジになりたいだなんて申し訳ないような気持ちになってくる。

あ、まりちゃんが手招きしてるし…い、行かないと駄目だよね。よし、頑張れあまね!!
 
「あ…え、と私、マネジ…やりたいんですけど…」 
あの憧れの田島くんが目の前にいる。ドキドキが止まらない。どどどうしよう
 
「桜井がマネジやってくれんのか!?」

「は、はい!!ふつつか者ですが、よ、よろしくお願いします」
 
「おう!じゃあさ、ついでに俺の彼女になってくんね?ゲンミツに!!」
 
「はい、一生懸命頑張ります!!」
 
少しの違和感を感じた。あれ、田島くんなんて言ったっけ?
 
「じゃー今度からオレのこと下の名前で呼んでな!ゲンミツにっ!」
 
あれ、さっきまで野球部のマネジ頑張れよって話じゃなかったっけ…でもあれ、私田島くんの彼女になってって言って…え、えぇ!?
 
まりちゃんは笑顔でおめでとう、と言ってるし…夢、じゃないんだよね、そう、だよね?

「悠一郎?」
 
「ん?どうした?あまね?」
 
「ううん、呼んでみただけ…です」
 
「そっか。」
 
「はい。」
 
―どうやらこれは夢じゃないみたい。
 
 
 
(END)

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