本気で遊ぶ大人気ない大人たち

ニー友の松野家に日課のように朝早くから入り浸りに行こうと思った。彼らも同じ同じする事もない者同士仲良くやってる。6つ子だからということもあり顔も瓜二つ、いや、瓜六つか?まあそんなこともあって、最初に出会った頃は全員の顔の区別なんて出来なかったが最近少しずつ見分けられるようになってきた。

よく見れば性格も個性も全く違う。競馬やパチンコに行ったり、釣りに行って魚にラブレターを送る姿を横目で見たり、アイドルの追っかけをしたり、野良猫に餌をやりに行ったり、キャッチボールをしたり、お洒落なカフェでお茶をしたりと割と充実したニート生活を送っている。毎日一緒に遊んでも飽きることはなかった。

この間なんかスマッシュシスターズで大乱闘した。最終的におそ松くんとチョロ松くんにボコボコにされ腹が立った私はストレスを発散させるために十四松くんとヘトヘトになるまで野球をした。


さて、今日は何をしようか……─。
そう考えながら出掛ける前につけっぱなしだったテレビにふと、目がいった。

「これだ!」

両手でパチン 叩 とくと先程テレビに映しだされた文字をメモする。 我ながらいいアイディアなのではないかと思った。そうと決まれば必要な材料を買ってこなくてはいけない。善は急げ、だ。

「松野ブラザーズ遊ぼーう」

どこぞの小学生よろしく先程買い込んできた材料の入っているビニル袋をガサガサ鳴らしながら松野家の玄関先から開け放たれている二階の窓へ向かって声を掛けた。

すると暫くしてバタバタと誰かが階段を駆け降りてくる音が聞こえてくる。ああこれは十四松くんだな、なんて思いながらドアを開けてくれるのを待つ。

「楓ちゃん、おはようございマッスルー!ねえねえ、今日は何して遊ぶ?やきうする?やきう!」
「十四松くん、おはよ。今日はね─」
「いちいち声掛けないで勝手に入って来ればいいだろ」

やる気のなさそうな声で欠伸をかみ殺しながら降りて来た一松くんに何度も言ってるけどよそ様の家に勝手に入るのはマナー違反だから嫌だと答える。

「楓ってさ……小学生みたいな声掛けする癖にそういう所真面目だよな」
「小学生みたい、は余計だけどまあ褒め言葉として取っておくよ……ふふふもっと褒めてくれてもいいけど?」
「……調子に乗るなブス」

ドヤ顔をしてみたら割と本気のチョップを貰った。痛い。しかもブスって言われた。女の子に向かってブスってないと思うんだけど!

「そういう一松くんはコミュ障クズじゃん」
「……何か言った?」
「ひっ、何も言ってません」
「あ゛?」
「ねえねえそんな事よりこの袋の中何が入ってるの?教えて教えて」

私たちの間に流れていた不穏な空気をものともせず袋の中身に興味を示す十四松くんに内心ホッとしつつ「さて、なんでしょう」と意味深な顔で笑う。

「あっ、分かったやきうのボールでしょ!ね、ねそうでしょそうでしょ?」
「ぶっぶー、違います」
「なんだよ紙コップじゃねえか。つまんねえ」

私の手元から引ったくり顔負けの鮮やかな手口で奪ってビニル袋の中身を確認する一松くん。勝手に見ておいてつまんねえはないと思うけど強く言えずにジッと見つめた。だって松野ブラザーズで一番の狂犬、怒らせると後が怖い。そんな奴に私なんかが勝てるはずがなかったからだ。

「この紙コップ何に使うの?カラ松兄さんが買ってくるジュース入れるのに使うの?」
「え、違うけど。ていうかカラ松くんジュース買いに行ってるの?」
「うん、そうだよー母さんがそろそろ楓ちゃんが遊びに来るだろうからお菓子の一つでも買いに行ってきなさいって頼まれたんだよ」
「うわー、それは悪いことしちゃったな。松代さんに謝っておかないと」

松代さんは他人でしかもニートな私にも優しく接してくれて本当に有り難い。遊びに行く度にいつもニートたちと仲良くしてくれてありがとうなんて言われてしまうくらいだ。非常に恐縮してしまう。

「お詫びに金でも持って来いブス」
「一松くんになんて鐚一文渡さないからね」

もう語尾が完全にブスになってる気がする。ホントになんだこの失礼な人は。

「あのね、母さんは"ごめんなさい"よりも"ありがとう"の方が嬉しいって言うと思いマッスル!マッスル〜!」
ダルダルに伸びきった袖を振り回し元気に笑う十四松くん。
「うん、そうだね。ありがとうって言わなくちゃね」
「今は出掛けてていないけどね」
「全くなんで一松くんは話の腰を折っていくのかな」
「腰は折らずに振る方がいい……フヒッ」
「なになに一楓ちゃんに松兄さん、セクロスの話?セクロスの話?だったらぼくも混ざりたい!」
「あぁもうなんで下ネタの方に行くのかな……だからみんな揃いも揃って童貞なんだよ」
「そういう楓だって処女だろ、人のこと言えないし……ヒヒッ」
「ししし処女じゃないし!というかさっきから話が全然進んでない……とりあえず家に入れて」

終わるところを知らない会話に何とかブレーキを掛ける。違うんだ、私はこれがしたくて此処に来たわけではない。

「で、なにするの。その紙コップで」

ソファにどっかりと偉そうに腰を掛ける一松くんの姿はまるで王様。一松様だ。
「なにして遊ぶんすか?ねーねーなにして遊ぶの?」

一松様の隣に立っていた十四松くんが身体を左右に振って問い掛ける。

「ちょっと十四松くん落ち着いて。今作ってみせるから」
私はそれをなんとか宥めながらビニル袋から材料を取り出す。二つの紙コップの底に小さな穴を一つ開け、その穴に糸を通してセロテープで止めただけで出来る簡単な遊び道具名付けて
「わああ糸電話だ!懐かしい!ねね一松兄さん懐かしいね」
「前から思ってたけど楓の思考とうとう小学生に戻ったの?……可哀想に」

本気で憐れむように私を見てくる。

「だああ!もうそんなんじゃないよ!遊びに行く前に"作って遊べ!"観てたら遊びたくなったの。ていうか前から思ってたけど一松くんって私とカラ松くんに対して異常に当たり強いよね」
「ブスとクソ松だからな」
「うっわ、凄く失礼だしカラ松くん可哀想」
本当のことを言っただけなのに「うるせえ、ブスとクソ松には人権なんてないんじゃボケェ」と逆にキレられた。非常に理不尽だ。

私は遊びに行く度に弄られるだけで済んでるけどカラ松くんはいつも一緒だから大変だろうなと今この場にいないカラ松くんに同情する。

「わ、作って遊べ!懐かしいね一松兄さん小さい時良く観て作ってたよね!」
「うわ、ちょっと十四松そういうこと言わなくて良いから。しかも昔のことだろ!おい、そこのブス、ニヤニヤすんなブチ犯すぞ」
「きゃああ怖いー(棒)」
「チッ……この野郎」
目をキラキラ輝かせて十四松くんに話を振られれば先程の表情はどこへやら顔を真っ赤にさせて大変面白いことになっている。別に昔のことなんだから気にしなくても良いのに。子供のころ誰もが通った道なのだから恥ずかしがることなんか何一つないのに。

「ねえねえ楓ちゃんに一松兄さんもそんなことより糸電話!糸電話しようよ」
「そんなことって……まあいいけど。あのね、普通にやっても面白くないから各々が適当に聞きたいことを紙に書いてそれを箱に入れて引いたやつを聞いていくっていうのやらない?」
「なにそれ面白そう!」
「ねえ、それってなんでもいいの?」
どうしてそういうのは食いつくの貴方は!まあ大体予想は付いてたから驚かないけどね。
「なんでもいいけど過度な下ネタはアウトだからね」
「チッ……つまらない」
「絶対えげつない下ネタぶっ込んで来るでしょ絶対」
「楓ちゃんが絶対って二回も言った!大事なことだから二回言ったんだよね、ね!」
「そうだよ十四松くん……じゃあ一松くんやらないって言ってるし二人でやろうか」
「誰もやらないなんて言ってない」

ムスッと怒ったような声で言う一松くんに苦笑する。いつも憎まれ口ばかり叩く割に一人になりそうになると慌てて立ち上がる。だったら最初からそんなことしなきゃ良いのに。

「じゃあ適当に何枚か紙に書いてきちんと折ってこの袋に入れてね」
「あいあいさー!」
「これって台詞でもいいの?」
「良いけど誰に当たるか分からないからね、大事故になっても責任は取りません」
「げっ」

"げ"って……そんなひどい台詞言わせるつもりだったの?怖い。当たらないようにしよう。

「みんな書けた?」
「うぃー」
「書けた」
「じゃあジャンケンで順番決めよう。一番勝ちと一番負けが最初ね」
「わかった」
「りょーかい!」

第一回ジャンケン結果
一松くんと十四松くん
「うわあああああ……!」
「一松兄さんと一緒だ!頑張ろうね一松兄さん!ハッスルハッスル〜!」
心底嫌そうな声を出す一松くんにお腹を抱えて笑いそうになるのを必死に堪える。だ、駄目だ笑っちゃ駄目だ堪えろ。

「じゃ、じゃあどっちか袋の中にある紙を二枚引いて外の廊下に出てねー。同じ部屋にいたんじゃ電話の意味皆無だからねー」
「ああああああ」
私の持っていた袋から紙を二枚乱暴に引いて頭を抱えて部屋をあとにする一松くんに十四松くんが慌てて追い掛ける。
「あ、兄さん何処に行っちゃうの?ねえええ!」
「廊下だと思うよ。今は一人にしておこう?」
「ん?なんかよくわからないけど、わかった」
「じゃあこの紙コップに耳を当ててね」
「うぃー!」
「一松くんから先にどうぞ!」

廊下に向かって声を掛ける。声は返って来ないが変わりに盛大な溜め息が返って来た。どんだけ嫌な紙引いたんだ。

「…………」
「んーとね、今朝は玉子焼と焼き鮭とウインナーに白菜のお味噌汁とご飯!」

あ、これは私が書いたやつだ。

「次はぼくが聞く番だ!えっとねー"今夜のオカズは?"」
「…………」

おい、誰だこれ書いたやつ!大体予想付くけど誰だ!

「えーっ!一松兄さんマニアック〜!」
「…………」
「んとねぼくは早い方だよ」
「……………」
「打つのと投げるのどっちが好きっすか?」
「…………」

こっち側が一松くんじゃなくて良かった!いたら絶対気まずい空気流れるやつやん。

「……終わった」
「お、お疲れ様です」
「一松兄さんおかえりなさい面白いね糸電話!ね、一松兄さん!」

ガラリと開いた襖に一瞬驚いた。笑顔な十四松くんと対照的に一松くんは人を一人殺して来たような顔をしている。一体何を喋ったのか、気になるけど聞きたくない。

「早く次」
「あ、続けるのね」
「当たり前」
「いよっしゃー!第二回張り切っていきマッスルマッスル〜!」

第二回ジャンケン結果
楓と一松くん
▽わたしは あたまが まっしろ になった。

「……イヒッ」

対照的に一松くんは嬉しそうに笑っている!これは嫌な予感しかしない、しないぞ
だがしかしやらない訳にはいかない。

「じゃあ私廊下に行ってくる」

いそいそと二枚引いて廊下へ行く。襖を閉める前に見た一松くんのそれはそれは嬉しそうな顔を私は忘れない。

「最初は楓ちゃんからだって一松兄さんが言ってるよー」
「はーい。えっとなになに?……貴方の大きいのが欲しくてたまらないの(棒)」
「もっとエロく言えよブス!」
「だから過度な下ネタやめてって言ってるでしょ!?」

ていうかなんだこれ、良く見たら色っぽくとか吐息多めでとか色々指示が細かいぞ。どんだけ飢えてるの。怖い怖い怖い。

「やり直しを命じる」
「はあああ!?やだよ」
「いいか、これはお願いじゃない。命令だ」
「ひっ……わ、わかった!やればいいんでしょ」

強く言われれば断れる筈もなく大人しく従うしかない。ああ悲しいかな。

「あ、貴方のお、おっきいのが欲しいの……」
「やれば出来るじゃないか」

もう何も失うものなんてないと常日頃思っていたけど大切な何かを失った気がする。顔を見ていないのに一松くんの嬉しそうな顔が手に取るように見える……。絶望しきった声で次は一松くんの番だよと伝える。

「もっと、はぁ……もっと強く、ふうう踏んで、はああっ、く、ださいい……」
「どう聞いてもアウトだよー!何考えてるの一松様!?」
「え、何って貴方思うMな台詞言えって書いてあったからやっただけだけど」

スパーンと小気味良い音を立てて襖を開けた。驚いたことに当の本人の一松くんも十四松くんもキョトンとした顔をしている。「それがどうしたの?」って顔だ。なんだこれ、もしかして私がおかしいの?

「あと一枚、残ってるんだけど……早く廊下に行ってくれない」
「アッハイ」

そうか、私がおかしかったのか。なんだか腑に落ちない気持ちでいっぱいだけど大人しく廊下に戻る。

「えっと次はなんて書いて、ある、のかな……えっあの、一松様。」
「紙に書いてあることは、絶対」
「デスヨネー……はぁ」

見間違いかと思って二度見してみても書いてある内容は同じ「貴方の思うSな台詞を言え」だった。なんてもん引いてしまったんだ私。もう観念するしかないのか。汗をダラダラ垂らしながら考える。覚悟を決めるしかない。

「そんな所でどうしたんだ楓、そんな所じゃ身体が冷えるだろうオレが温めてやろうか?」
「物欲しそうに私を見るんじゃないわよこの雄豚。そんな安いおねだりで簡単にご褒美が貰えると思ったら大間違いよ、そんなんじゃあお仕置きにならないじゃない。もっともっとみっともなくおねだりしてみなさいよ」
「……えっ」
「あっ……」

タイミングが良いのか悪いのか買い物袋を持って階段を上って来たカラ松くんと目と目が合う瞬間ヤバいと気付いた。

「……オレ、楓に何かしただろうか……?」
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!カラ松くんに言った訳じゃないの」

普段のカッコつけた態度が消え、素の泣きそうな顔で言われれば謝り倒すしかなかった。

「あああもう!元はと言えば一松くんのせいでしょおおお」

スパーン!本日二度目の襖開け。一度目よりも切れがましていた。

「さっきの台詞良かった。少しゾクッとした」
「うんうん、さっきの台詞すごく良かったよ。今度ぼくにも言ってほしいな!あっ今 でもいいよ」
「半泣きのカラ松くん尻目に何呑気に言ってるのよ。ちょっとは誤解を解くの手伝ってよおおお!」
「面白かった。またやろうよ、これ」

もう貴方たちとはやりたくないと強く思った。次の日私はカラ松くんにお詫びと称してとても美味しいと評判の唐揚げをご馳走した。これで許されるとは思ってなかったが嬉しそうに頬張る彼を見てチョロ……優しい人で良かったと安心した。

後日、私の気持ちとは裏腹に松野ブラザーズの間で糸電話ゲームが流行ってしまってそれはもう大変な目に合うのだけれどそれはまた別のお話。



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