忘れられる訳がない

「キス、してもええ?」

鳴子くんと付き合い始めてからもう数ヶ月が経とうとしていた。もうそろそろ次のステップに進んでもおかしくはない。
 
私たちの進むペースは周りの恋人たちと比べれば遅いくらいで手を繋ぐことでさえ恥ずかしくて最近なんとか繋げるようになったのに……。
 
「ワイは浪速のスピードマン鳴子章吉や!カッカッカ!」
 
口癖のように言っているのを良く耳にするし、彼の性格や生まれ育った場所も関係あるんだろうけど、早く次に進みたいんだろうなと鳴子くんを見て思った。
 
手を繋ぐ時も私は恥ずかしいからとその度に断ったりしてて、それでも鳴子くんは嫌な顔一つせずに「ワイらはワイらのペースで行こうや」私の頭をくしゃくしゃに撫でてカッカッカと豪快に笑ってくれた。
 
 
「あのね、ちょっと相談があるんだけどいい?」
「どうしたの?」

私はどうしたら良いのかを友人にアドバイスを求めた。今までのことを説明しているとうんうん聞いていた友人に「キスの一つくらいしなきゃいくら何でも鳴子が可愛そうよ」と言われた。
 
私だって鳴子くんとキスしたい、けれど恥ずかしい、どんな顔をしたらいいのだろう?そんなことを悶々と考えていた。寝る前には、いつでもキスが出来るようにシミュレーションもしたりしたけどやはり恥ずかしすぎてベッドの上でジタバタした。

「なぁ、キス、してもええ?」

そんなある日、鳴子くんに言われたのだ。恥ずかしすぎて顔から火が出そうだったが私は勇気を出して首を縦に振った。

「はい……」
「……楓ほんまにええんか、しても?」

蚊の鳴きそうな声だったが鳴子くんには聞こえていたようでもう一度念を押すように聞き返してきた。私は鳴子くんの目を真っ直ぐ見ることが出来なくて下を向いてコクコク頷いた。

「ほな……キ、キスするで?」

真剣な眼差しで少しずつ近付いてくる鳴子くんの顔を見てギュ、と目を閉じる。

(わ、ヤバい緊張してきた……)
「………………」

鳴子くんの匂い、息遣いや体温が近くに感じる。胸のドキドキが聞こえてしまうかもしれない。もしかしたら私死んでしまうかもしれない!

「やっぱりやめよか」
「えっ」

思っていることが伝わってしまったのか、止めようと言われた。驚いて目を開けると目の前には鳴子くん、イタズラな顔で笑ってちゅ、とキスをされた。

「カッカッカ!!ワイの作戦に引っかかったな楓!!キスっちゅーたらやっぱ相手の顔を見てやらな意味ないわ」
「な、なな鳴子くん!?」

突然のことに思考が追い付かなくなってパクパクと口を動かしているとカッカッカと更に笑われた。

「これで一生忘れないキスになったやろ」
「そ、それはそう、だけど……」
「ほんならワイの作戦は大成功や」

満足そうに笑う鳴子くんに開いた口が塞がらなかった。



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