トド松と私の神隠し?

毎回トド松くんの家に遊びに行くと何故か彼のお兄さんたちにちょっかいを出されてしまう。

「楓ちゃんはトド松にはほんっとーにもったいない!今からでも俺と付き合おうよ、ね、ね?」
「あ、そ、それはちょっと……」
「なんなら突き合うだけでも──う゛ぉえ!?」
「僕の彼女になんてこと言ってんの!おそ松兄さん!?……大丈夫だった?楓ちゃん」


やんわり断ったりするのだけど中々話を聞いてくれなくて、そのたびにトド松くんが怒ってくれた。


「今のはおそ松兄さんが悪い」

雑誌を読んでいたチョロ松くんが言った。

「ごめんねさっきのこと気にしなくていいから。むしろおそ松兄さんの相手しなくて良いから」
「え、でも……」
「こんなクソ兄さんに気を使う必要なんてないから全く」

気にするなと言われても、その、将来私のお義兄さんになるかもしれない人を無碍になんて出来る訳ない。


「トド松が兄ちゃんに冷たい!」
「下品なこと言うからでしょ!?馬鹿なのなんなの?」
「突き合うとか……ヒヒッ。」
「一松兄さんも引っ張らなくていいから」

トド松くんにジト目で睨まれた一松くんはそんな怖い顔しなくてもいいだろと返す。

「楓ちゃんが嫌な気分になったら僕が嫌なの!もう本当に兄さんたちがごめんね」


私を守るようにして隣に座るトド松くんは笑った。


「う、ううん私は平気……でも、面白いお兄さんたちで羨ましい」
「え!?そ、そう?まあ、これだけうるさいと暗い気持ちにはならないけど……でも、キミが気に入ってくれたなら良かった。将来親戚になるかもしれないからさ」


ね?と優しく微笑まれたら「そうだね」としか答えられなくなった。なんだか凄く照れる。


「ブラザー……俺たちの存在を無視しないで貰えるか?」
「あっ、忘れてた!ごめん、カラ松兄さん」
「えっ」


カラ松くんお気に入りの黒いサングラスがズレた拍子に覗いた顔は少ししょんぼりしていた。


「日も暮れて来たからそろそろ帰った方が良いよね」

言われて部屋に置いてある時計を見れば時刻は午後六時少し前。

「あれ、もうそんな時間なんだ……」
「ほんと、楽しい時間はあっと言う間だね。夜道に一人なんて危ないから楓ちゃん、家まで送るよ」
「ありがとう。お願いします」
「はい、お願いされますってね」

彼氏なんだから当たり前だよと言いながらパチリと器用にウインクをして見せた。

「えー!楓ちゃんもう帰るの!?僕寂しーい」
「また来るから、ね?十四松くん」

やだやだと駄々を捏ねる彼をなんとか宥めようとする。

「じゃあさ、さよならのちゅーして!そしたら僕寂しくなくなるかも!」
「ちゅー!?」
「ちちちちょっと十四松兄さん!何言ってんの!?気にしなくていいからね!?本当!ていうか少しの間だけ耳塞いでて!」

自分で塞ぐ前にトド松くんの両手が私の耳を塞いだ。何をみんなで話しているのか全く聞こえないがお兄さんたちの表情が一気に青ざめてる。トド松くん、貴方何を話してるの……?


「もう良いよ。じゃあ送るから帰る支度しよ?」

トド松くんに「ね?」と促されれば「うん」と頷くことしか出来なくて先程の疑問を口に出せなかった。荷物はあまり持って来てないので五分と掛からなかった。

「じゃあ、みんなまたね」

別れの言葉を口にすると口々にまたな、バイバイ、さよなら等の返事が来る。さてそれじゃあ帰るかとなった時に十四松くんに抱きつかれた。

「また来てねー!」
「じ、十四松くん?」
「……十四松兄さん……」

ヒュウ、と冷たい風が吹いた気がした。他の兄弟たちは私たちから距離を置くように離れた。多分私の隣にいるトド松くんの表情が恐ろしいことになっているからかもしれない。私は怖くて顔を見ることは出来ないが。


「……楓ちゃん、僕ちょっと用事思い出しちゃったから家の外で待ってて貰えないかな?」
「アッハイ」
「いいかい。決して振り返ってはいけないよ。家の外に出るまでは。僕との約束」
「約束……」


はい分かりました!元気良く返事して一目散に下へ向かう階段へ走った。ごめんなさい、お兄さん。私には彼を止めることは出来そうもありませんでした。皆さんの無事を遠い場所的から祈ってます。走り去る姿はさながら悲劇のヒロインのようだった、後の私はそう振り返ることになる。

後日松野家を訪れた際お兄さんたちは蜘蛛の子を散らしたように何処かへ出掛けて行くようになった。

と、言っても数日間だけでまた忘れたように同じことを繰り返しているんだけど。その度にトド松くんが怒鳴るんだけど私はそれを少しだけ楽しむ余裕が出てきた気がする。彼には悪いけど私の為に怒ってくれているのが凄く嬉しい。

「兄さんたち、彼女が帰ったら反省会するからね!兄さんたちのせいでもう遊びに来ないって言われたらタダじゃおかないから」
「……トド松のくせに生意気……」
「なんか言った?一松兄さん?」
「……なにも」
私も強く言えるように頑張るから少しだけ待っててね。



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