私の彼、紹介しますん
新しい彼が出来た。私には勿体ないくらい優しくてカッコ良くて、そして何より私のことが大好きだって言ってくれる彼。私は嬉しくなって同じ趣味を持つ友達のチョロ松くんに報告しに行った。勿論彼も連れて。
「こんにちは!チョロ松くん聞いて聞いて私ね、新しい彼氏が出来たの!」
松代さんに挨拶をしてから二階へ上がり襖を開けた。中にはチョロ松くんしかいなかった。私は隣に座って話し掛けた。
「あー、そうなんだ。ごめん今僕この雑誌読んでて忙しいからそこら辺で彼氏と思う存分イチャイチャしてていいから。話なら後でいくらでも聞くから」
「うんわかった!イチャイチャしてる。」
元気よく返事をするけどチョロ松くんは此方をチラリとも見ず興味なさそうに求人広告を読んでいる。まるでどうでも良さそうだ。私の彼を紹介しようと思って此処へ来たのに……仕方ないので大人しく彼氏と会話を楽しむことにした。
「神谷くんごめんね」
『大丈夫だよ、僕は気にしてないよ』
「ああもう優しいなあ、神谷くんは。もう本当に好き」
『ありがとう。僕も楓ちゃん好きだよ』
「…………はあ」
チョロ松くんはページを捲る手を止め、盛大な溜め息を吐いた。条件の良い求人がなかったからなのだろうか。
「あのさ、僕もね楓の趣味にとやかく言うつもりはなかったけどこう何回もされると突っ込まざるを得ないんだけど」
「何を?」
こめかみに青筋を立て少々イライラした様子で雑誌を置き、私と向かい合う形で座った。
「キミの彼氏は誰だっけ?」
「神谷くん」
「いや、僕だよね?っていうか神谷くん僕たちと住んでる次元違うよね」
「そんなの愛でなんとでもカバー出来るよ。そこに巧妙に隠されているAVで妄想してるチョロ松くんのようにね」
お宝の在処を指差しで教えてあげる。すると顔を両手で覆い絶叫に近い声を上げた。
「なんで隠し場所知ってるのおおお!?」
「松野ブラザーズが教えてくれた」
「アイツら……帰って来たらタダじゃおかねえ……殺す」
「物騒だなあ、ねえ神谷くん」
『暴力でなんでも解決するのは良くないよね』
「楓もそろそろ画面越しの男に話掛けるのやめなよ。今は僕と話してただろ。ていうか携帯ゲームから凄く誰かに似てる声がして腹立つんだけど」
指先で貧乏揺すりを始めた。どうやら本気で怒っているようだ。
「……チョロ松くんだってテレビの向こう側にいるにゃーちゃんに熱心に話掛けるじゃない」
私も真似したって良いじゃない!泣きながら怒った。私と一緒にいても彼はいつもにゃーちゃん、にゃーちゃん。熱心にあの仕草が可愛いここの歌詞が良いと語ってばかりで構ってもくれない。なんで付き合い始めたのか分からない。だから他のもので寂しさを紛らわした。
「……もしかしてヤキモチ焼いてる?」
「そうですがなにか!」
半ば自棄になって返事をする。するとあろうことかチョロ松くんは嬉しそうにニコニコ笑う。何処が楽しいの!
「だってもう僕に飽きたのかと思って。」
「そんな訳ないでしょ」
だからまだ僕を好きでいてくれてると知って凄く嬉しいなって思ったんだ。抱き締めながら言われれば怒る気持ちも消えてなくなってしまう。
「もっと構ってくれないと他の人好きになっちゃうから」
「はは、気をつけるよ。ところでその、神谷くんって何処かで聞いたことある声なんだけど」
「あ、わかる?友達にチョロ松くんと声が似てる声優さんがいるって聞いて遊んでみたら好きになったの」
『初めまして、よろしくね』
お前とは仲良くする気ねえよ!と怒りながら携帯ゲームを取り上げ電源を切ってしまった。
「僕も浮気されないように頑張るから僕だけ見ててね」
抱き締める腕に力を込められる。けれどその強さが心地良くては分かりましたと笑いながら答えた。