色気の欠片もない人たち
クリスマスなんてもの私には関係ないし、そもそも興味なんてなかった。
テレビで聞いたもう何度目かの今年一番の寒さの中一人私は歩いていた。まだ六時前なのに辺りはもう真っ暗だ。
(なんで私がこんな寒いなか、しかも恋人同士がウヨウヨいる中、一人虚しい気持ちにならなきゃいけないのか)
理由はとっても簡単で母親にケーキを買って来て欲しいと頼まれたからだ。
ケーキくらい誕生日や何かの記念日にでも食べられるのだから、今回くらいは買わなくて良いと抗議したが「外に出るのが嫌だから行きたくないんでしょう」と思っていたことを言い当てられてしまい言い返すことも出来ず今に至る訳だが……。
「寒い……!」
外は本当に寒くて、防寒対策に何枚も厚着をしてマフラーを巻いて、更にその上からコートを羽織りコタツで暖めていたカイロを用意して嫌々出て行ったがそれでも寒さを防ぐことが出来ず手のひらに息を吹きかけ何度も両手を擦り合わせた。
「なーんで私がケーキなんて買いに行かなきゃいけないの!」
思わず叫び出したくなる。先程買った袋に入ったケーキが私の動きに合わせてガサガサと音を立てて揺れる。慌てて崩れていないか確認しようとして……やめた。
このくらいでケーキなんて崩れないし、大丈夫大丈夫。自分に言い聞かせる。
(なんだか雪も降ってきそうだし……早く帰らなきゃ)
空を見上げれば分厚い雲も出来ている。これはもしかしなくても雪が降ってくるのも時間の問題では!?雪景色を見るのは好きだが寒いのは嫌い。それとこれとは別問題だ。
坂ノ下商店の辺りを通り過ぎる時にそう言えばクリスマスなんて関係ない、というかそもそも興味なんてない人がいたな、とふと思い出してしまった。
いつも自分に厳しく相手にも厳しい、妥協なんて一切しないストイックな奴を。流石にもう部活も終わっているだろうしこんな所ウロウロしていないか。
初めて合ったときは本当に命令ばかりで印象最悪だったなー。仲良くなろうと思わなかったし、なれるとも思ってなかった。
「なんてったってオレ様何様な王様だからなあ……」
「おい、その呼び方ヤメロ」
「ひいいいい!で、出た!!」
「人をバケモノみたいに言うな」
振り返ると影山飛雄、本人が目の前にいた。思わず仰け反った私に彼は眉間に皺を寄せ苛立たしげに一瞥した。一人事を呟いていたところを急に話し掛けてきたらそりゃあ驚くに決まってるじゃない。
「ていうか、影山くんバケモノじゃ……あ、変人の方が適切だよね。ごめん」
「そういうことじゃねえ!」
「いった!」
軽口を叩いてみたらお返しに影山くんに頭を叩かれた。つい、反射的に言ってしまったが全然痛くはなかった。それは今までの成長の賜物かな。前の影山くんだったら絶対本気の拳が飛んでいた。
「あんなに反抗的だった影山くんがこんなに成長してくれて私嬉しい」
涙なんて出てないけれど目尻をそっと拭う仕草をした。まさかこんな場所で会うなんて思ってなかったから少し変なテンションになってしまった。
「浅海は俺の母親か」
「そんなんじゃないけどさ……ほら、私たちの出会いって言うか部活入部する時色々あったじゃん?」
「……ああ……?」
「覚えてないんかい!本当にバレー以外は全然なんだから」
「悪い」
「そんなこと思ってないくせ……へっくしょん!」
「色気のないくしゃみだな」
「くしゃみに可愛さ求めないでよ」
照れ隠しに可愛さの欠片もない返しをしてしまう。本当に可愛くない。鼻水は出ていなくて良かった。そんなことにでもなったら絶対に笑われる。というよりそんな無様な姿見せられない。
私は急いでバックを漁るがティッシュは生憎持ち合わせていなかった。今日に限ってなんて失態をしてしまったんだろう。困ったな、気を抜いたらまたくしゃみをしてしまいそうだ。今度は鼻水が出てしまう気がする。どうしよう。
「……これ、さっき貰ったんだが俺使わねえから浅海にやる」
「え、ちょっと」
ぶっきらぼうに言って私の鼻にぶつけられたのは『霊のことなら霊能者、蝶間林 百蓮におまかせ』と書かれた怪しさ満点のポケットティッシュ。
「……ありがと」