十四松とちょっと怖い体験

ちょっと遠くまで遊びに行こうと誘われ普段は近場ですませるのにどうしてだろうと思いながら私は彼の誘いに乗った。


「今日はとっても楽しかったよ。また遠出しようね」
「楓ちゃんが喜んでくれて僕もうれしい」


遅くなるまで遊んだ帰り道、あたりはもう真っ暗で私と十四松くんは二人でバスが来るのを待っていた。周りには私達しかいなく、古びた街灯が今にも消えそうにチカチカと点灯している。

何故だかわからないけど凄く嫌な予感がする。


「……ここってあの世とこの世の境界線みたいだね」

少しだぼたぼな袖で口元を覆いながら言った。 心なしか空気が一気に冷えた気がした。どうしてだろうさっきまでは暑かった筈なのに。周りの状況も相まって恐怖は倍増で私は震えが止まらなかった。

「ちょっと急に怖いこと言わないで」

ただでさえ怖いと感じているのに追い打ちをかけるように恐ろしい言葉を吐く彼に顔が真っ青になる。何度もやめて欲しいと頼んでも聞き入れてもらえず、あろう事かむっつりと喋らなくなってしまったのだ。怖くなった私は早くバスが来てほしいと心の中で強く願った。


「あ、バス、来たみたいだよ。ほら」


遠くから一筋の光が見えてきた。良かった、これでこの場所から離れられる。そう思った。


「っ、ねえ十四松くん、なんかこのバス怖い、乗るのやめよう」


よく見てみるとこんな時間なのに誰一人載っていない車内に生気の感じられない運転手の様子を見て異様な気配を感じた私はこのバスには乗りたくないと抗議した。


「大丈夫だよ楓ちゃん、ほら怖くないよ。イッショニイコウ?」
「やっ、」


私の手首を掴んでグイグイと引っ張る。止めて言おうと彼を見ると普段と眼の色が違うことに気づいた。獲物を見つけた猛禽類のようにギラギラと光っている。
なんとか動きを止めようと勢いをつけて彼に突進する。そのままバランスを崩した十四松くんを力の限り抱きしめた。


「……十四松くん、十四松くん、十四松くんっ」


元の彼に戻れと願いながら何度も何度も名前を呼んだ。誰も乗らないと分かった運転手は扉を閉めて何処かへ走って行ってしまった。



それから暫くすると私の腕の中から「楓ちゃんのおっぱい柔らかくて好きー」と呑気に喋る彼を恐る恐る見つめる。喋り方は普段と同じだが先程体験した恐怖を忘れられる筈がなかった。


「どうしたの?そんなに怖い顔して、何かあったの?僕がキミを困らせるヤツら退治してやりやしょーか?」


心配そうにこちらの様子を伺いながら私の頭をポンポン撫でる。


「良かった、いつもの十四松くんだ……」
「うん?僕、十四松だよ!」


私の言っている言葉の意味がわかっていないようだったが元気よく返事をする彼にホッとした。


「そういえばバス、遅いね」
「う、うん……そうだね……」


“十四松くんはさっきのバスのこと覚えてないの?”


そんな言葉が出かかったが敢えて飲み込んだ。きっと覚えてないと思ったからだ。


「あっ、やっと来たー!遅かったね、早く乗ろう」
「う、うん」


バスが止まって扉が開いた。また先程のようだったらと身構えていたが目の前に現れたのは腕組みをして仁王立ちしていたおそ松くんだった。


「お前たちが遅いからお兄ちゃん直々に迎えに来たぞー。このお礼は倍にして返してくれよ。ああ後バス賃お前ら持ちな?」


人差し指を鼻の下で擦りながらニシシと笑った。
おそ松兄さんの分のお金は持ってないと告げる十四松くんに「じゃあちょっとそこジャンプしてみ?チャリンチャリン鳴ったらその金全部お兄ちゃんがパチンコで使うからな」弟からお金を巻き上げようとするおそ松くんにお礼もバス賃も私が持つから早く家に帰ろうと提案して帰路についた。



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