褒められない記憶力

「あのさー楓」

ある日の昼下がり。
おそ松くんはソファに寝そべってグラビア雑誌を読む手を止めておもむろに話し出した。

「桜の花が咲き始めるとあの日のことを思い出すな」
「あの日ってもしかして私たちが出会った頃の話?」
「そうそう、あん時の衝撃は今でも忘れられないぜ」

確か私がハンカチを落としてそれをおそ松くんが拾って、なんやかんやで恋人同士になったっていう平凡な出会いな筈だけど……衝撃的ってなんだ?

「ちょうどあん時風が超強くてさ、お前のスカートがブワッてめくれてパンツ丸見えだったこと、忘れられないわー。ていうか絶対忘れねえ。」

嬉しそうに語るおそ松を視て私は綺麗な思い出が一気に汚された気分になった。あれ、私なんでコイツの彼女になったんだっけ

「なにそれ初耳なんだけど!ていうか衝撃的ってそっちかい!ほんとおそ松くんってデリカシーがないよね」
「は?デリカシー何お前そんな難しい言葉使ってんの」
「無神経だって言ってんの!チョロ松くんに聞いたよ?この間にゃーちゃんにチョロ松くんとセックスしてくれって言ったって。あのあと泣き付かれたんだから」

溜め息を吐いて愚痴を言う。あの時のチョロ松くんには本当に同情した。

「……なあ楓、もう一回さっきのセックスって言って。すんげえ興奮した」
「食いつくところそこか!そこなのか!」
「なんだよー。楓いつからそんなにテンション高い奴になったんだよー。俺ビックリだよ」

ビックリしている割には楽しそうに笑っている。

「いやさ、男にとったら結構大切なとこだぞそこは。好きな子がセックスって滅多に言わないんだから」

普通の顔でしれっと好きな子とか言うし。そういうおそ松くんこそ滅多に好きとか言わないじゃん。本当にズルい奴。

「で、言ってくれるのくれないの?」
「どうしてそこでそうなるのかな!言う訳ないでしょ!」

人が見直しかけたところでこうなるから本当に腹立つ!

「ちぇー、残念。あ、そうそう後でチョロ松にはお前に抱き付いた罰として別でお説教するから」

お説教と聞いてびくりと体が震える。心なしか部屋の温度もおそ松くんの声のトーンも低くなった気がした。

「ち、ちょっと、チョロ松くんは抱き付いてないよ。泣き付いただけだって」

慌てて訂正をした私にわかってるわかってると頷いているがどうだか分からない。

「それで俺以外の男に抱かれた感想は?」
「だから泣き付い……はぁ。特に何も思ってない」

反論したがどうせ禄なことにならないことを学習済みなので素直に返事をした。

「本当に?なーんにも?」
「うん、だって誰が誰でも同じでしょ」

一瞬目をぱちくりと瞬かせたがすぐに「そりゃそうだ何てったって俺たち六ツ子だからな」と笑った。

「でも私のパンツ見られた人はおそ松くんだけだけどね」

口を尖らせて発言する私にいやいや俺だけで十分だからと真顔で返された。私だって貴方だけで十分です!



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