「さっきはごめんな。あーあ、恥ずかしいとこ見せちゃったな」 「別に…泣くくらい普通だろ」 二人はひとつの布団の上に座り込み、暖かい掛け布団にくるまっていた。湯上がりと酒の熱もそろそろおさまり、寒くなる前にと暖をとったのだ。窮屈なので各々の布団に入ってしまえばとも思うのだが、何となく離れがたくてこうしている。 「まぁ、そうなんだけど。今日はせっかく、遥を喜ばせたり照れさせたりしてスパダリになる予定だったのにさ。…あれ、使い方なんか違うか?」 「すぱだり…?」 何の略称だと訝る遥をよそに、湊はふっと笑みを浮かべて遥の肩を抱く。 「何でもないよ。…言いそびれてたけど、さっきの、ありがとな」 「…なんのことだ」 「えぇ? 遥の渾身のプロポーズ」 「そんなものしてない」 くすくすと笑いながら揶揄を口にする横顔を尻目に、遥もほっと息をつく。 (落ち着いたみたいだな…) 泣いてくれたことはそれなりに嬉しくもあったけれど、やっぱり湊には笑っていてほしい。 「あ、結構遅い時間なんだな」 スマートフォンの画面を一瞬だけ点灯させ、湊が時刻を確認する。楽しいことはあっという間に過ぎるもので、もう寝仕度をする頃合いになってしまった。 気を落とすと同時に、湊がするりと布団を抜け出ていく。 「そろそろ寝よっか」 「えっ……」 「え?」 「っ……!」 思わず漏れた単語にもならない台詞を反芻され、遥の頬が一気に朱を帯びる。素早く布団に潜り込むと、おーい、と湊の呼ぶ声がした。 恥ずかしい。まるで期待していたような――いや、そうでないと言えば嘘にはなるが、あんな残念そうな声、聞かれてしまってはもう顔も見られない。 「も、もう寝る…っ」 掛け布団の内側から外に向かって叫ぶ。が、即座に顔を覆う布団を捲られそうになり、ぐいぐいと布団越しの攻防が繰り広げられた。 「離せっ、寝るって言って…っ」 「寝ちゃうの?」 「お前が言ったんだろっ…」 「やっぱりやめた」 押さえていた場所とは別のところをぺらりと捲られ、布団の内側へ侵攻を許してしまう。浴衣越しに体のラインを撫でられると、頑なに拒んでいた腕の力が抜け落ちていく。 「俺ももっかい入らせて」 「ちょっ…」 強引に布団へ割って入った湊は、うつ伏せのままだった遥に覆い被さるようにして抱き締める。薄い生地を隔てた肌は熱く、それが自分のものか湊のものか、もはや区別はつかない。ただ、二人とも望んでいることは同じ。そんな気がした。 「怒ってる?」 「…何が」 「試すようなことしたから」 「……」 「ごめんな?」 髪をわしゃわしゃと撫でながら謝られ、遥は小さく頷いた。湊に求められているという事実が、何より安堵に直結するものなのだ。自分がいつも湊を振り回しているのだから、たまには振り回されるのも悪くない。今日くらいは。 くるりと体を反転させ、遥は静かに湊と向き合う。顔を直視する度胸までは持ち合わせていなかったが、彼の浴衣の帯をそっと解けば、湊が息を呑んだのがわかった。 「いいの…?」 遠慮がちな口調とは裏腹に、湊の手も遥の浴衣にかかっている。解いた帯をぎゅっと握って、狭い空間に声を籠らせた。 「夫婦なら…当たり前のことなんだろ」 そこから先はもう、どうなっても知るものか。 盛大な煽り文句を謳った唇を性急に塞がれ、遥はふと思う。 下手な小細工を弄するより、そうやって真正面から欲しがってくれるほうが、自分は安心するのだ。 「ぁっ、も……いいだろっ…」 小さな灯りだけが揺らめく室内の、ひとつの布団の中で。リネンを這うようにして逃げる腰を片腕に抱き、湊は尚も二指を沈ませる。既に十分に濡らされ、溶かされたそこを丹念に拡げると、枕にしがみついた遥がふるふるとかぶりを振った。 「やだ…っ、も、あぁっ…」 「でも、ちゃんと慣らさないと明日に響くから…ね?」 そう囁くや否や、湊の指が内部で鉤状に曲げられる。弱い箇所を巧みに探られ、欲の先から雫が滴るが、それは薄い合成ゴムに吸い込まれた。布団を汚すのはさすがに良心が痛む、と思っていたのだが、湊の準備の良さには驚きを通り越して羞恥を覚えてしまう。やはり、こういうことを期待していたのは彼も同様だったらしい。 しかしながら、もう幾度も指を咥え込まされたおかげで内壁はぐずぐずに解れている。そろそろ焦れてくる頃合いだが、湊は明日の帰路を考慮してか、なかなか挿入に至らない。とうに双方の浴衣は脱ぎ捨てられ、布団の端で丸まっている。覆い被さった格好で、太腿の辺りに熱が直に触れているとおかしくなりそうだ。 「ふ、ぁ……っ、もう、ぃ、やだぁ…!」 「遥……」 泣き声混じりの催促に抗うほどの余裕は湊にもないのだろう。指が引き抜かれたと思うと、ピリッと避妊具の袋を乱暴に破る音がした。幾秒も経たないうちに、ひくつく場所へ押し当てられる。 「ひっ、ぁっ……!」 慣らした指の何倍もの質量が、内部をいっぱいに擦り上げてくる。布団に伏して腰だけを持ち上げた格好のまま、遥はがくがくと膝を震わせた。先端を呑み込むと、そのまま残りを埋めるようにじわじわと侵入される。 「きつくは、ないかな。平気…?」 「んっ、くぅ……っ」 拡張に多くを割いたおかげでそれなりにスムーズではあるが、如何せん遥が無意識に締めつけてしまうので湊も苦笑しつつ尋ねてくる。大丈夫だよ、と優しく髪を撫でてやれば、遥もこくこくと頷いて応えた。 「っ、ぅあっ……!」 ずん、と半ばまでを一息で挿入される。涙がじわりと枕を濡らすが、痛みを感じてのものではない。緩んだところをさらに責められ、湊のほぼ全てを受け入れた。 「中、びくびくしてるね」 「や、だ……っ」 遥の下腹部をすりすりと手のひらでさすって、湊が欲情を露わに囁く。欲張りな内壁はそれさえ刺激に変換し、きゅっと楔に絡みついた。 「知ってるよ。…こうやって後ろからされるの、ほんとは好きなんだよな」 「んぁっ……や、ちがっ…」 感じてる顔が見たいから、と言って湊は対面の体位を望むため、背面は稀かもしれない。が、座位と同じかそれ以上に深い挿入からは、次第に快楽を見出だすようになってしまった。それもこれも、湊の徹底した愛撫によるものだ。 「ん、んん……っ」 中程まで引き抜かれたものが、やがて奥の突き当たりを叩いてくる。潤滑剤で摩擦を軽減されていることもあって、挿入したばかりでも痛みはほとんど感じられない。 「遥は、この辺がいいんだよね」 「ぁ、やぁ……っ、んぅっ…!」 狭間をぐいっと手で割り開かれ、敏感な場所へ執拗に熱を押しつけられる。枕をきつく掴んでも、甘い吐息は隠しきれない。 ↑main ×
|