「もしかして履いてない? え、ナースさんそんな澄ました顔してノーパンなんですか! わー、マジで治るかも」

「ちがっ、お前が――」

「違うの? じゃ、ちゃんと履いてるとこ見せて下さいよ。俺、今大声で喋っちゃったから、ナースさんが実はノーパンだって、カメラに録音されてますよ?」

したり顔で見上げられ、遥はスカートの裾を押さえていた手をぶるぶると怒りで震わせた。あんな面積の下着を着けさせた目的はこれか。これがやりたかったのか。

「し、ごとちゅう、です」

自分でも驚くほど低い声が絞り出せた。肩越しにぎろりと睨み下ろすが、患者は楽しげにスカートをついついと引っ張って聞きやしない。遥が拒否すればするほど、この後の展開がより甘美なものになることを知っているのだ。

「それはもう自分で認めちゃったようなもんですよ、履いてないって。へへ、想像するとドキドキするなぁ」

「! や、めっ…」

ぎゅ、と細い腰に腕を回して抱き着くと、太腿に這わせた手でゆっくりと尻の方へ撫で上げていく。ぴんと張ったガーターベルトを指先で弾きながら、スカートで覆い隠された部分に到達する。露出した丸みをやわやわと揉まれ、遥はきつく目をつむった。

「はぁはぁ。柔らかいですね、お尻」

脂肪も筋肉もろくにつかない貧相な腰なのだから、別に柔らかくなんかないだろうと遥は呆れるが、まぁ確かに男のそれとしてはそう感じるかもしれない。ていうか誰でも多少は柔らかいものだろう、たぶん。

「ん……でも。なんか…なんだろ、これ」

「っひ、ぁ……っ」

尻の肉に挟み込まれるようにして狭間へ渡されていた下着の一部をくいくいと引っ張られ、きゅっと前の方が連動して締め付けられる。その刺激にびくりと身動ぐと、患者はふへへと怪しげに笑ってスカートの裾を捲り上げた。露になる尻と、それを分割する白レースのヒラヒラ。ふわーお、とあのSEが流れてもおかしくない。患者の息遣いがさらに荒くなる。

「うーわ、えっち! 何これノーパンよりえっちじゃないですか! ナースさんこういうのが好きなんだ、へえぇ」

「う、るさいっ」

「かわいー。ね、彼氏の趣味ですか? これ」

くい、と指先で掬い上げた紐状の布を再度引かれ、あらぬ場所に食い込むと甘い声が漏れそうになる。自分で言っている通りがっつり彼氏の趣味なのに、肯定が許されないとは理不尽にも程がある。

「ち、がっ……」

仕方なくゆるゆると首を振れば、そうそう、としたり顔で頷かれて腹が立つ。彼はすぐに驚きの表情を作って、

「え、違うんですか? じゃあナースさんの趣味なんですね。仕事中です!ってあんなに頑なだったのに、こんなえっちなの履いて期待してたんだ?」

「んっ、や……っ」

「屈んだらかわいいお尻も下着も見えちゃいますよ、これ。他の患者もそうやって誘ってたんですか? えっちなナースさん」

もにもにといやらしく尻を揉んでいた手がそっと前に回され、儚い布面積に収まり切れない膨らみを優しく撫でられる。反応しかけていたそこに、あくまで下着の上から触れてくる指先がもどかしくてたまらない。

「ここ、こんなふうにして…我慢できなくなっちゃったんだ。お仕事、しなくていいの?」

「る、さいっ…、も、そんな…」

「いいなぁ、気持ち良さそうで。…ね、俺のことも治療して? ナースさんにやさしーくえっちなことしてもらったら治りそうだし」

ほらここ、と遥の手を取ってボトムの前立てに触れさせれば、新人らしく頬を赤らめるのがかわいらしくてにやけてしまう。もちろん演技ではない。これまで何度となく触っていてもその度に羞恥を覚えるらしく、遥はふるふるとかぶりを振った。

「さ、わりません…っ」

「えー、お願いしますよナースさん。ちゃんと治してくれたら、俺も責任取ってあげますから。ね?」

つん、と布越しに狭間の奥をつつかれ、早くも熱を持ち始める体が憎い。この調子だと湊はどうあっても奉仕をさせたいようだが、それは困る。困る、のだ。触れたら、きっと欲しくなってしまう。恥も外聞もなく求めてしまいそうで、そんな自分の浅ましさに泣きたくなる。
恋人としては何ひとつ間違っていない反応だとわかってはいるし、目の前の患者みたいに本能一直線だと開き直れれば楽なのだが。

「……少し、なら」

したくないわけじゃない。顎は怠いし味は苦いしでメリットなどひとつもないにしろ、そこはやはり情にほだされた部分があるからか、普段自分がしてもらっている立場だからか、恋人が気持ちよくなってくれるのは純粋に嬉しい。
視線を合わせずに呟くと、湊は顔を輝かせていそいそとナースをベッド側へ連れ出す。自分はベッドに腰掛け、軽く開いた脚の間に遥を手招きした。床にぺたんと正座してから、遥は恐る恐る両手を伸ばす。

「こんなにかわいいナースさんに触ってもらえるなんて感激だなぁ。あーでも、俺が初めてじゃないんですもんね? いつも誘ってるんでしょ?」

がっかりしたようにいくらかトーンを落とされ、ジッパーをくいと下げながら遥はむっとする。たとえ架空の設定であっても、誰とでも寝るような人間だと思われるのは心外だ。

「して、ません…」

「ほんとですかー? まぁそう言われてみれば、脱がすのも全然慣れてないっぽくてかわいいですけど」

緩めたウエストから下着をずらそうとする手が僅かに震えている様子を見下ろして、患者はにまにまと嫌な笑みを浮かべている。思い切って薄い布地に手を掛ければ、頭をもたげ始めたものがようやく姿を現した。直視しているのがいたたまれなくて、ふい、と目を逸らしてしまう。

「ほら、ちゃんと診て下さいよ。ていうか、恥ずかしいのは晒してる俺の方ですよ?」

頭上から苦笑混じりに促され、遥はやっとのことで視線を戻して昂りに触れる。乾いた感触を手のひらで包み込んで、ゆっくりと上下に擦る。ふ、とくすぐったそうに湊が笑った。

「優しくしてくれるのはありがたいんですけど、そんなんじゃだめでしょ? もう少し強くして」

「ち、りょう、なのに…」

「はいはい、感謝してますよ。でもそれじゃもどかしいから……いって! ちょっ、痛い!」

強くだの優しくだの、面倒くさいにも程がある。む、と唇を尖らせた遥はお望み通りに強く握り込んでやったが、患者は悲鳴を上げて腰を浮かせた。さすがにやりすぎたかと、優しく撫でてからそっと口を寄せる。ごく、と患者が唾を呑み込む気配がした。

「ん……」

舌先でちろりと先端に触れると、包んだ手の中で熱の塊が脈打つのがわかる。少しばかり気を良くして、裏側を下からゆっくりと舐め上げる。柔らかな舌をぴたりぴたりと当てながら、括れた部分にちゅうと吸い付けば、徐々に硬さを増していくのがちょっと愉快だ。

「は……、かわいいお口で、もっとしてくれます?」

「っ……ん、む……」

欲の滲んだ恋人の吐息に、ぞくりと背筋がわななく。ねだられるままに口を開いて、丸い先端を口腔へ招き入れる。歯を立てないよう注意しつつ、舌先で敏感な場所を探っていく。根元を指先でこすこすと扱いてやると、はぁ、と陶酔した声と共に恋人の手が髪の間へ差し込まれた。


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