「遥のここ…すごいちゅっちゅってしてくる。わかる?」

「はぁあ……っ」

ぐりゅんと腰を回すように奥を捏ねられて、鈍い快感がじわじわと腹から中心を往復する。そんなところ、数年前、交わった当初は痛くて仕方なかったのに。

「ん、気持ちいいみたい。よかった」

「よ、くなっ…、う、ぁっ、やめ……っ」

吸い付くそこから先端を引き離されると、熱を求めて襞がひくひくとわななく。再び、僅かに勢いを持って熱の楔を打ち込めば、嵌め込まれた形に沿って粘膜がぴっちりと張りついてくる。はぁ、と湊も暑そうに寝間着の上を放って遥の胸に頬を擦り寄せた。

「もう…無理。えっちすぎ」

「なにが……ぁっ、んうぅ……!」

かつんと歯が当たりそうな強さで唇を執拗に押し付けられる。と、同時に内側のものがぐりぐりと活動を開始するので、遥も吐息の中に甘さを込めて逃がす。
この体勢では深く繋がることはできても、激しく動くとなると難しい。湊も余裕を削がれた証か、遥の背を抱えてゆっくりとベッドへ沈めた。毛布が頬を撫でる感触にもぶるりと震えてしまう。

「ね……、自分で、したの?」

「ぅあっ、あ……!」

膝を広げて抱えられ、もはや内側の粘膜と同化した熱は、幾度となく深く浅くを往復していく。滑らかな毛布を手探りで握り、遥は下賤な質問にきつく首を振った。

「ほんと…?だって、いっぱい触られて平気だったの?ここもさっきから感度いいよね?」

「っひぅ、んん……っ」

首の下までインナーを捲られ、ここ、と膨れた乳首を悪戯に弾かれる。腰に直結した刺激は中心から白濁混じりのものを溢れさせ、熱を咥え込んだ場所が正直にうねる。なんてあからさまな反応をするのかと、湊は心の中で舌を打った。

「あぁあっ」

脚の間に入れ込んだ体をぐっと前に倒されて尻を浮かされ、上からばつんと腰を打ち付けられる。しがみつく遥をしっかりと抱き締めてやり、深みをさらに抉るように、根元までねっとりと粘膜に覆われる。
摩擦に悦ぶ内壁を尚も熱で擦りながら、腹の奥まで自分のもので染め上げてやりたくなった。こんないやらしい筒で熱心に扱かれては、誘っているとしか思えないではないか。

「ごめんな。も、割と限界かも」

いくら夜毎の悪戯に及んでも、満たされたと感じても、今の気持ちと比較すれば気を紛らわせる程度に過ぎなくて。遥を叩き起こして抱いてしまいたいと、何度も何度も思ったものだ。理性を鎖で雁字搦めにして守るには、かなりの気合いが要ったが。
それももう必要ない。欲しいものは惜しみ無く与えられ、与えたいものは全て受け止めてもらえる。愛しい恋人が乱れる様を瞳に焼き残して、湊は腰を押し付けながらきつく抱き締めた。

「は……ぁっ、も、やぁ……っ、んん――――っ!」

細かく吐き出される甘い声ごと呑み込むように。
荒々しく唇を重ね、溢れんばかりの情欲とちょっとした罪悪感を腹の奥に解き放つ。叩きつけられる熱を体の内で感じ取った遥も、その腰にしがみつくよう脚を絡め、同じく絶頂を迎えた。

◇◇◇

ふるっと肌寒さに体を揺すって目が覚めた。もうすぐ春とはいえ、冬の夜明けは遠い。早朝と言える時間であっても、真っ暗な部屋では周りの輪郭さえ怪しい。眼鏡を外していれば尚更だ。

(寒い……)

頭上でくうくうと呑気な寝息が聞こえてくる。密着とまではいかないものの、接触している自分が身動げばすぐに瞳を覗かせるのが恋人の常である。昨夜はさすがに疲れたのだろう。というか、結局夜中まで抱き合っていたのでまだ何時間も寝ていない。遥だってようやく目を開けているくらいだ。
毛布をぴったり身に纏わせて、もうひとつの温かな体に擦り寄る。直に感じる温もりが一番だが、この気温の中、朝まで裸でいるのはそれこそ自殺行為だろう。分厚い寝間着だって肌触りは悪くない。

「ん……」

何気なく発された声にびくりとする。これだけ布団をもぞもぞ動かしていればやはり起きるか。ちらりと確認するも、湊は依然として眠り続けている。
遥はそっと、重たい腕を掻い潜って恋人の寝顔をじっくりと見つめた。――悪くない。うん、とひとつ頷いて、また元の位置に頭を置く。悪戯してやろうと思わなくもなかったが、寝ている間に、なんて誰かさんみたいな卑怯な真似はしない。

(違う方法で驚かせてやる)

やられてばかりでは悔しい。あっと驚くような内容でびっくりさせてやろう。意趣返しをここに誓う。
とある秘策を胸に、遥は等身大湯たんぽにぐっと抱きついて目をつむった。

◇◇◇

「えっと……?これは…」

「っ…だから、ほどけない…って」

数時間後。
いったん外れたパジャマのボタンも、無事元通り――とはならなかった。裁縫なんて小学生以来やっていないので、当たり前である。床に散らばる、無数の糸片と糸切りハサミ。おかしい、ちょっとボタンをくっつけようとしただけなのに。己の不器用さには呆れるしかない。
ぐちゃぐちゃにひっ絡まった縫い糸とボタンを不思議そうに眺める湊は確かに驚いている。たぶん、実際元通りになるより驚いている。なんでこうなったの?と純粋に訊かれて遥はうなだれた。それがわかるならこうなってはいない。

「糸は全部切って抜いちゃおうか」

あっさりとやり直しを提言され、黙って頷くほかない。ボタンなど、四つの穴に順番に糸を通していけばよかったのではないか。大筋はわかっていても、技術が伴っていない。あのトマト卵炒めだって、遥はレシピだけならきちんと把握している自信があるのだ。
ものの数分ほどでスルスルとボタンを縫いつけた湊は、これでよし、と余りの糸をハサミで切り落とした。

「そんな落ち込まなくていいのに。気持ちは嬉しいよ、ありがと」

違う、別に礼を言われたかったわけじゃない。
あれれ、なんで直ってるんだろ、もしかして遥?とただ驚かせてみたかっただけで、仕返ししてやろうと思っただけで、落ち込んでなんかいない。しかも、結果的に気持ちしか誉められていないし。俯いたまま、湊の裁縫セットを片づけ始める。何故か黒い龍が描かれた、小学生の頃にノリで買いましたと言わんばかりの裁縫セットを。

「っ!何する…」

ちゅ、と頬に触れたものを、かぶりを振って払う。拒絶をものともせず、湊はパジャマをぽいとソファへ投げ出して遥の手を引いた。

「後でいいからご飯食べよ。せっかくテストも終わったんだし、今日はデートするんだから」

「そんなの聞いてない…」

「今聞いた。ほらオムレツあるよ、チーズもとろーり」

チン、とタイミングよくトースターが鳴った。やや遅めの朝の匂いに、急に空腹を意識させられる。

ブランチを終えたら暖かい格好に着替えて、部屋を飛び出そう。外の陽気は既に春の入口に立っている。
行き先はどこでもいい。きつい我慢を強いられた恋人に、ひとときのご褒美を差し上げよう。


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