オイルを足しつつ、力を入れたら難なく折れそうな細っこい腕にシフトする。肘とか膝とか、曲げる場所は何かと摩擦を受けやすい。保湿成分を塗り込んで、手のひらのツボも押してやる。親指の下の膨らみをぐりっと指圧した。

「いっ……!」

「痛い?ここな、疲れてるんだよ」

「っ、やめ……ぃたい……」

「あーもー、そんな泣きそうな声出すなよ。いじめてるわけじゃないんだから!」

弱ってる所のツボは得てして痛いものだ。解すにはうってつけなんだけど、やりすぎもよくないし、罪悪感が滲んできたからほどほどにしておいた。最後に肩全体をくるくると撫でて、ふうと俺はひと息つく。

「とりあえずこんなもんかな。…あ、お腹にも塗っとこう。乾燥肌だし」

「ひ……っ」

オイルをまぶした両手で脇腹に触れ、もぞもぞとバスタオルと腹の隙間に手を滑らせる。くすぐったいのか、遥がむずがるように膝を少し立ててくれたから、床から体が浮いて塗りやすくなった。俯せでもなおぺったんこな、肉付きの薄い腹を円く撫でてあげる。

「よし、終わり」

瓶のオイルは四分の一程度減っていた。あと三回もこれができるのかと思うとちょっと楽しい。何なら今度はえろいことに使ってもいいかな、と俺はひとりでにやけていたが、遥が何故か俯せのまま動かない。もしや寝ちゃったか?と顔を覗き込むと、ぷいと逆のほうを向かれてしまった。

「…?嫌だった?」

俺は何せ素人だし、肩凝りとも無縁の生活を送っているから、遥としては無駄に体をペタペタされた、くらいの認識なのかもしれない。次までにYouTubeで勉強しておくね、と癖毛を梳いてやれば、意図せず火照った耳元が見えて喉が鳴る。あれ舐めたらぷにぷにでおいしそう――俺の理性もそろそろ苦しい。

「ね、ごめんって。我が儘に付き合わせたのは謝るから――」

ゆっくりとこちらを振り返ってきた瞳は幾分か潤んでいて。紅潮した頬やか細い呼吸と相まって、俺も思わず息を止めた。こんな表情を久しく見ていなかったせいで、その一挙一動に胸が高鳴っていく。体のつくりもほとんど変わらない、同じ性を持った生き物なのに。どうしてこの子は俺をこんなにも魅了するのか、本能に直接問いたいくらいだ。

「…そんな顔、しちゃだめだろ?」

どこぞのAVみたいなことはしないって、心の中で宣言した。そういう雰囲気になったらそれでいいとは思ったけど、健全な奉仕を遥が喜んでくれたら、一緒に眠るだけでも今日は満たされる気がした。
なのにどうだろう。俺の自制心なんて本当は綿飴みたいにふわっふわで、吹いたら簡単に飛んでしまうような呆気ないもの。心が満足するのはいいことだよ。でも心の次は絶対に体が欲しくなる。
ねぇ。こんな俺は、お前に嫌われるかな?

「ん……ゃ…っ」

覆い被さるようにぎゅっと頭を抱き込んで、額にも頬にも唇にも、何度も口づけを落としていく。遥は僅かに身動いたけど、もう瞳がとろんと溶けてる。キスの最中にもぐいぐいとブランケットを引っ張り上げてくるから、俺は小さく笑って片手を這わせた。

「ずいぶん必死だね?」

「や、ぁ……っ」

肌触りのいい布の上から、膨らみかけた中心を優しく撫でる。すぐそばで響いた甘い声に、ぶちぶちと理性の糸が噛み千切られる音がした。この感覚を遥にも味わってほしくて、赤らんだ耳元でわざと囁く。

「俺が触ってた時からこうだったの?」

「っ……ちが…」

「気持ち良かったんだ?」

そういう意味でも、ね。
声と共に吐息を吹き込むと、びくびくと抱いた体が震える。マッサージされるくらいなら何ともなかったんだろうけど、俺が欲求不満なんだから遥だって少しは溜まってるはずだ。ちょっとした刺激でも過敏に反応しちゃうのかもしれない。いやいや、それを狙ってたわけじゃないぞ。体につけこむなんて卑怯だし、俺は断られるってわかってても回りくどいことはしないで直接誘う主義だ。
マッサージに下心がなかったことは遥も理解してくれてるみたいで、お前のせいだ、とは言ってこなかった。けれども、だからこそ自責の念は重い。恋人が献身的になってくれたのに、なんで自分はえっちなことだって捉えちゃうんだろう、って。俺からすればその葛藤さえかわいい。

「大丈夫。遥は悪くないよ。ね?」

羞恥で泣きそうになってる遥を抱き締めて、しっとりした背中をよしよしとなだめる。そのままブランケットの中へ手を滑らせると、柔らかいお尻が堪能できていい。さっきはあんまり触れなかったし。今思うと、たぶんあれでスイッチが入っちゃったんだろうな。ごめんね、考えなしで。

「俺だって、我慢してはいたけど…遥の綺麗な体見て、何とも思わなかったと思う?」

そんなわけないだろ?ずっとずっと焦がれてたんだから。今だって触れたくてたまらない。さっきよりも、もっと体の奥まで。

「…まだ、寒い?」

宣言通り、身も心も蕩けるくらい優しくしたい。でもやっぱり、そのいじらしさにつけこみたい気持ちも同じようにある。ぎゅ、と遥はきつく目をつむった。

「寒いわけ、あるか…」

「ふふ、よかった。…じゃあ、次は俺のことあっためてくれる?」

嫌と言うほど愛された、その体温で。
するりと自らの寝巻きを放ると、瞬時に体を堅くした恋人へ笑いかけ、薄い砦のブランケットに潜り込んだ。



衣服を全て取り去ってから始める、っていうのも珍しい。いつもは遥の纏うものを順番に剥いでいくし、俺はほとんど脱がない。よりによって雪のちらつく夜に、わざわざ肌を晒し合うなんて。そのくせちっとも寒くないんだから、人の熱って凄いね。
遥の体は風邪ひいた時みたいに熱かった。ぼんやりと潤んだ瞳に、まさか本当に風邪か、なんて焦ったけど、ひっぱたいてくる手は元気そうだ。月に照らされたような青白い肌が、今日はほんのりと薄紅に染まってひどくいやらしい。耳をかぷりと甘噛みすると大袈裟に肩が跳ねる。そのままつっと首筋を辿り、柔らかい皮膚を吸い上げて印を残す。久しぶりだからかな。こういう所有欲が自分でも驚くほど湧いてきて、鎖骨の下や胸元なんかにべったりと付けていたら遥に怒られた。もうすぐ帰省するんだから、下手な場所に付けるな、って。わかったよ、俺しか見ないところにするから。

「――やっ、めろ……ん…っ」

太腿をぐいと押し開ければ、羞恥を耐えかねた声と共にひくりと中心が揺れる。見られるの、好きなんだよね?雫を溢し始めたそこをそっと包み込み、ぐしぐしと上下に擦った。あ、あ、と覚束ない吐息が向こうから漏れる。自分でしなかったのかな、限界は思ったより近い。

「かわいいな」

ちゅっちゅっとはしたない水音をわざと立てつつ、手の中へ頭を屈める。この辺りならべたべた付けまくってもいいよね。ぷにっと俺の指を押し返した太腿をきつく吸うと、くぐもった喘ぎが頭上で聞こえた。気持ちいいかどうかなんて、少し目線をずらせばわかってしまうけど。淫靡に揺れる飴菓子みたいな遥のものを、根元からゆっくりと舐め上げた。独特の苦味さえ凌駕する甘露。恥ずかしいのか、ぎゅうっと力の入った内腿で頬を挟まれる。正直ご褒美としか思えない。

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