その後。
遊びに遊んだ佳奈子たちとかき氷を食べ、またプールでひとしきり水を浴びたところで、そろそろ帰るかということになった。閉館間際は更衣室も混雑するし、湊たちは隣町から来ているので早めに出ようと考えたのだ。

「あー、名残惜しいけど着替えしよっか」

かき氷に加えてホットドッグまで食べた佳奈子が、屋内のプールをちらっと未練がましげに見やる。はしゃいでいたかりんも、寂しそうに水場を一瞥した。

「また来ればいいだろ。大学の近くにも、市民プールあるし」

「まぁ、そうだけどさ。すっごい疲れてるけど、まだまだ遊びたいって思うのよね」

湊の言葉に、ふぅ、と肩を竦めて佳奈子は苦笑する。それから、プールへの誘惑を断ち切るように手を振って、ひとり女子更衣室に向かっていく。立ち止まっていたかりんの肩を抱いて、凌也も更衣室へと促した。

「さて、塩素も浴びたしシャワー室に行くか」

更衣室の奥にはいくつか個室が並んでおり、それぞれシャワーがついている。湊と遥はいったんロッカーから着替えやタオルを取り出し、連れ立ってシャワー室へ歩く。個室といっても中はまぁまぁ広く、シャワーが届かない隅っこに棚と椅子があった。
鍵もかけられるようだし、外からの見た目がトイレの個室を彷彿とさせるので、後に続いて湊が入ってきた時はぎょっとした。

「な、なんでお前までっ…」

「え? だってシャワー浴びるだけだし、ひとりでひとつ使ってたら迷惑じゃん」

ほら、と湊がドアを半開きにして指差した先には、幼い子供を連れた父親らしき人がいる。なるほど、確かに個室をひとりずつにあてていたら待ち時間が生じてしまう。いや、でも。

「別にいいだろ。一緒に入らなくたって…」

手のかかる子供となら仕方ないが、何故大の男が二人で個室にこもる必要があるのか。そもそも、シャワー室というのは風呂と同義なのだから誰かと入るのはおかしい。
それに──ここが一番重要かつ言いにくいのだが、シャワーを浴びるにはまず水着を脱がなければならない。こんな明るい場所で、しかも二人きりの密室で自ら肌を晒すなんて遥にはできない。

「ふふ。恥ずかしいの?」

隠していた胸の内をあっさり暴かれ、遥は慌てて濡れた髪を振りたくる。湊は殊更にやっと笑い、ならいいよね、と強引に遥を押し込んだ。
キュッと湊がシャワー下のコックを捻ると、まだ冷たい滴が一斉に降りかかる。それが次第に温まり始め、やがて湯気を立てた。

「っ……」

湊は少しの執着も感じさせない手つきで水着を脱ぎ、頭から湯を浴びる。一方の遥は恋人の裸体を直視することもできず、個室の隅で息を詰めていた。

「ほら、おいでよ」

差し出された手にびくりと身を震わせれば、手首を掴まれて引きずり出される。背中から浴びるようにすれば冷えていた体がじんわりと温まり、髪からぽたぽたと滴が垂れた。

「! じ、自分でできるっ」

湊が自分の水着に指をかけたのを感じ、遥はその手を払って叫ぶ。そうだ、こんなのは服を脱ぐのと大差ない。だいたい、今日はずっと裸同然でいたのだから、今更意識することもないはずだ。なのに、水着を掴んだ指先は動かない。湊の熱のこもった視線が、痛いくらいに突き刺さった。

「ほんと、恥ずかしがり屋だね」

ふっ、と頬を緩ませた湊が軽く唇を合わせてくる。触れるだけ、表面を擦り合わせるだけのキスに、ずくんと体の奥が疼きだした。呼び覚まされた官能はどうしようもなくて、自分から唇を押しつけるようにすれば、湊も腰を抱き寄せてきた。

「ん……んっ、ふ…」

息を取り入れようと僅かに空けた隙間から、湊の舌がゆっくりと入り込む。強引ながらも口内を優しく探られ、絡め合わせた感触に中心がずきずきと痛んだ。滴を吸った水着で覆われているにもかかわらず、熱を孕んだそこはちっとも鎮まらない。
深くなる口づけにかくんと膝が折れると、湊は苦笑して体を支えてくれる。とろんとした焦点の定まらない瞳で、遥は湊を見つめた。

「そんな物欲しそうな顔されたら、我慢できないよ」

「あっ、やぁ……っ」

膨らんでしまった遥の水着を撫で回し、湊が熱っぽい声で囁く。遥は知る由もないだろうが、一日ずっと裸に近い姿を見せられて、湊の欲情は限界近くまで達していた。プールに入った時だって、水を浴びた肌に、濡れた髪に、眼鏡を取ったあどけない顔に興奮せずにはいられなかった。

「やっ、んん……っ」

水着の上から中心を柔らかく揉み込み、唇を触れ合わせると、華奢な体がぶるぶると震える。舌は首筋を伝い、鎖骨を通って胸元に行きついた。滴を纏う尖りに吸いつき、舌先で器用に責める。頭上から甘い声がこぼれ落ちた。

「遥、かわいい…」

「ひゃっ」

抱きしめて、いきり立った中心をぴたりとくっつける。既に同様の状態を保っていた湊のものに擦られ、水着越しでも刺激が伝わるらしい。拙い動きでそっと腰を揺すってきた遥を壁に押しつけて、より大胆に摩擦を生んでいく。

「あっ、ぁあっ…」

「隣に聞こえちゃうよ?」

湊が忠告を含んだキスを落とすと、遥は恥ずかしそうに唇を噛む。シャワーの水音でかき消されるものならまだしも、人の声というのは案外響きやすい。左右の壁も上側は空いているのだし、隣室の親子連れがきゃっきゃっと騒いでいなければ確実にバレているだろう。

「まぁ、こんなところでえっちなことしてるっていうのは興奮するけど」

「んぁっ……や、だめ…っ」

湊はとうとう遥の水着に指をかけ、ずるりと引き下ろす。張りつめた芯が露わになり、遥は耳まで赤くなって首を振った。

「だってもどかしそうだったから。遥のここ、もうぬるぬるだし」

「んぅっ、あっ、ん…!」

直接触れた湊のものは熱くて、びりびりと下腹部に刺激が溜まる。水以外のもので濡れそぼったそこが、高まった緊張と興奮で揺れていた。

「んんっ、やっ…」

荒く唇を合わせながら刺激に酔っていると、腰にまわっていた湊の手がゆったりと下がる。狭間の奥を指で辿られ、遥ははっとして叫んだ。

「だ、だめだ…っ、それっ…ふぁっ」

「でもここはひくひくしてるよ。こんな状態でやめられるの?」

長い指が滑りを纏って侵入する。熱を持った粘膜を優しく掻き回されて、遥は唇をきつく噛み締めた。それに気づいた湊がぺろりと唇を舌でなぞり、後頭部を押してくる。

「我慢できなかったら、俺の肩とか噛んでていいよ」

いくら筋肉質とはいえ歯を立てるのには抵抗があったが、内側からひりつくような快感が溢れ、すぐに口を開く羽目になる。申し訳ないが、外部に声を漏らさないようにするにはこれしかない。
そうこうするうちに湊の指をぎゅうっと締め付けるほどそこはとろけ、より質量のあるものを待ち望むようになる。ずるりと指が引き抜かれれば、喪失感に居ても経ってもいられず、かぷかぷと肩口を噛んでしまう。

「急かすなって。ちゃんとあげるから」

甘噛みを繰り返す遥に苦笑し、湊はそばにあった椅子に腰かける。遥の手を引くと、真っ赤になりながらもゆっくりと膝の上に乗ってきた。

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