・酔っ払ってて強引な湊


「や、ぁ……っ、ん…っ」

肌をまさぐる手つきは荒く、思わずその手を留める。すると逆に掴まれた手を壁に押しつけられ、文句も許さないとばかりに唇まで塞がれた。

「んぅ、んっん…!」

歯列を割り、堂々と侵入を果たした舌が口内を蹂躙する。弱い粘膜を擦られ、遥はぶるりと体を震わせた。その反応に、湊がうっすらと笑ったのを瞳の奥で感じ取る。

(なんで……)

悔しくて、舌に軽く歯を立ててやる。仕返しとばかりにすぐさま舌先を吸われて、鼻に抜けた声が漏れた。

(なんで、拒めない…)

感じる苦味、香る酒の匂い。くらくらと目眩を起こしそうなキスの中、遥はきつく目をつむった。

大学生イコール飲み会。そんな等式をイメージする人も多いのではないだろうか。部活やサークル、学部学科など大学のコミュニティは幅広い。加えて成人も半数以上を占めることから、何かというととりあえず酒、という雰囲気になる。
普段はそういった集まりを断っている湊も、やはり断りっぱなしではいられない。遥くらい人付き合いを避けているならともかく、時々は友人たちに混じって興を囲むことも必要だ。
恨みがましげな遥に見送られ、家を出たのが二時間前のこと。そしてつい先程、湊はふらふらになりながら帰ってきた。慌てて玄関まで駆け寄ってきた遥を抱きしめ、開口一番にこう言ったのだ。

『抱かせて』

その意味を考える間もなく唐突に唇を重ねられ、遥は目をみはった。途端に鼻を掠めた酒の香りに顔をしかめると、湊は遥の後頭部をぐっと押さえつけてより大胆に口内を犯していく。いつもとは違う強引な態度に戸惑い、とんとん、と遥は湊の胸を叩いた。けれどもキスは解けず、徐々に深くなるばかりだ。結局、ろくに口を利くこともないまま、玄関前でなし崩しに触れられる羽目になってしまった。



「ん、ふ……っ」

びくん、とあからさまに遥の肩が跳ね、靴下に包まれたままの爪先まで丸まる。甘い刺激がじんわりと腰を伝い、早くも中心がずくずくと疼いた。
湊はキスが巧いと思う。遥自身、他の誰かと経験があるわけではないので比較はできないが、器用に動く舌は的確に弱い場所へ触れ、遥の舌をも翻弄する。

「は…、ん……ふぁ…っ」

尖らせた舌先でつぅっとなぞられれば、体中の力はふっと消え、あっさりと腰が抜けてしまった。そのままずるずると壁伝いに床へ落ちると、湊も同じくしゃがみこむ。口の端からこぼれた唾液をぺろりと舐め、再びキスを仕掛けていった。

(こんな、場所じゃ…)

抱き合っているのはドアのすぐ先、靴を脱いでたった一歩の距離だ。霞む思考回路を手繰り寄せ、この状況をどうにか打開しようと試みる。せめてリビングのソファで、と思うのだが、こんなにも強気に施される愛撫は新鮮で、どうにも拒めなくなってしまう。それに、明らかに酔っているだろう湊が自分の言葉を聞き入れてくれるかどうか。じゃあいいよ、と放っておかれても困る。

「あ、んっ…!」

ボタンを外すのももどかしいのか、シャツの裾から入り込んだ手が胸を撫で、平たいそこを揉むようにしてくる。期待に膨れた突起を親指でくりくりといじられ、思った以上に高い声がこぼれた。

「やっ……ぁんっ、あ…っ」

わざとか否かは知りようもないが、湊の指は軽やかに、しかし少し痛いくらいの力加減で乳首を弄ぶ。刺激に飢えていた体は素直に反応し、遥は慌てて口に手を当てた。

(外に、聞こえる…っ)

寝室やリビングならある程度の声はかき消されてくれるだろうが、ここは廊下とドア一枚隔てた場所だ。しかも鍵は開いている。誰かが声に気づいて扉を開けたりしたら大変なことになるのだ。
なのに湊は耳の柔らかいところを食みながら乳首の先端だけを撫で、時折きゅっと指の間に挟み込んで圧迫する。ただただ腰にくる快感に耐えられず、遥は涙目で膝をすり合わせることしかできない。
不意にカチャカチャとベルトを外す音が聞こえ、ボトムに置かれた湊の手を無意識に掴む。だが結局は口を開く前に塞がれ、器用な舌に翻弄された。

「んむ…、んっ、ぅ…」

下着ごとずるりと引き剥がされ、下肢が外気に触れる。おもむろに腰を下ろしたフローリングがひやっと冷たくて、遥は思わずキスを解いて小さく叫んだ。

「つめた…っ」

その声に湊は一瞬怯んだが、構うことなく遥を床面に押し倒し、のしかかるようにして愛撫を加えていく。首筋を甘ったるく舐めながら、濡れた指で入口を探らせる。いつもならば期待と興奮でひくひくと震える体が、今はただ床の冷たさだけを感じていた。それと、全く自分を気にかけない湊の反応も。

(なんで…いつも、なら)

そもそも床で及ぶことがないものの、冷たいと言えば謝りながらベッドへ連れて行ってくれるだろう。けれど今日は違う。多少強引な態度は新鮮味があって悪くはないのだが、こんなふうにただ抱かれる対象としてしか思われないのは悲しい。湊はまだ、一度も自分の名前を呼んでいないのだ。

「ちょっ…待てっ、やだ、まだ……ぁ、んっ」

奥まった場所に侵入を果たした指先が、ぐりぐりと内部を広げ始める。何度となく刺激され敏感になったそこは少し乱暴にされても感じてしまうが、いつもの甘くて痺れそうな快楽ではない。弱々しい制止の声も叶わず、最低限慣らされたそこに火傷しそうな熱が押しつけられる。

「あぁあっ!」

思わず引いた腰を戻され、しっかりと押さえつけられると同時に湊のものがぐぐっとめり込んでくる。まだ挿入半ばのうちに激しく抜き差しされて、宙に浮いた脚ががくがくと震えた。

「やだぁ…っ、ひっく……も、やぁ…!」

怖いほどの熱量と少々の痛みに、ぼろぼろと涙がこぼれて床を濡らす。とうとう、遥は腕で顔を覆って泣き出してしまった。

(俺なんか、どうでもいいんだろ…)

酒で高まった性感を発散したかったのはわかるが、体だけを満たすようなセックスならしたくなかった。普段が優しすぎると言われればきっとそうなのだろう。けれども、そんな湊だから触れられたいと思うし、今だって涙を呑んで許してやっているのだ。

「遥」

ぱち、と瞬きをひとつ。驚くほど優しい声が、そっと頭上から降りてきた。

「遥、ごめん」

遥の腕をゆっくりとほどき、湊が顔を覗かせる。そこには、心配そうにこちらを見つめるいつもの恋人の姿があった。

「あ…」

震える声を呑み込み、遥はゆっくりと手を伸ばす。その手を優しく握り、湊は頬にちゅっとキスを落とした。

「泣かせてごめんな。酔っ払うとなんか、遥が欲しくて止まらなくなって…。乱暴にして、ほんとごめん…」

しょんぼりと落ち込んだ湊に首を振り、遥は頬を赤らめて呟く。

「酒入ってるなら…なんで、こんな…」

「こんな?」

別に意地悪をしているわけでもなく、湊は純粋に尋ねただけだったのだが、遥は驚いたように目を見開き、耳までぱっとほてってしまう。

「い、言えるかっ!」

「? まぁいっか。それなら、こうやって…」

再び覆い被さった湊は遥をしっかりと腕に抱き、挿入したままぐいっと体を起こす。壁に寄りかかった湊に跨るような格好で、遥は太腿の上に乗せられた。

「これなら冷たくないし…遥をかわいがってあげられる」

「あぁっ!」

中途半端に埋まっていたものを深々と穿たれ、遥はきつく湊にしがみつく。きゅう、と収縮した粘膜が絡みつき、湊もふっと息を吐いた。

「あんまり慣らしてないから、ゆっくり動くね」

「んぅっ、あっ、あ……!」

腰を掴まれ、みっちりと埋め尽くした熱で何度も浅く突かれる。気持ちが緩んだおかげか、愛撫に応じて甘い声がこぼれていく。しかし湊は人差し指を口に当て、小さく笑った。

「外に聞こえちゃうかもな」

「あ、やっ…、だって……っんん!」

湊のものが弱いところを掠めていくと、きゅっと絞るように内部が狭まる。
確かにこのままではドアの外まで声が漏れかねないが、やっと得られた体温に翻弄されてしまうのも仕方ない。そもそも湊がここで事に及んだのが悪い、と言わんばかりに睨めば、あははと苦笑を浮かべられた。

「俺のせいだろって? ま、そうなんだけど…遥のかわいい声は聞かせたくないしな」

遥のシャツの裾をぺらっとまくり、湊はそれを口元まで持ってくる。

「これくわえてて。少しはましになるだろうし」

はむっ、とためらいがちにそれを歯でくわえると、再び緩やかな律動が始まる。いやらしい手つきで尻を揉みながら、広げたそこを己の熱で幾度となく突き上げていく。遥は涙を浮かべ、ぎゅっと湊にしがみついて快楽をこらえた。

「ふふ。おいしそう」

「んっ、んぅぅ!」

裾がめくれ上がったせいで露わになった胸元に、湊の舌が触れる。まだ淡い色の尖りをなぞり、吸いつき、かぷりと歯を立てる。ぞくぞくとした痺れが腰にわだかまり、遥はきつく目をつむった。

「気持ちいい? 後ろもきゅっきゅってなってるし…ほら、固くなってる」

いじられて凝った乳首を舌でぬるぬると押しつぶし、唾液に濡れたそこを舌の先でつつく。同時に腰を揺らされ、ぬめりを纏った楔が敏感な粘膜をぐちゃぐちゃに掻き回した。

「〜っ! んん、ふっ…」

普段のように甘い声を散らす姿もいいが、シャツを噛み締めて我慢しているのも何とも言えない色気がある。埋もれた熱と共にぐっと膨れ上がった欲を、湊は慌てて抑えた。乱暴にして、また遥に泣かれてはたまらない。

「じっくりかわいがってあげるよ。お詫びも込めて、ね」

腰を回すようにして突き入れながら、湊は華奢な体をぎゅっと抱きしめた。


***
えろいの書きたかったんです。遥は強引なのも好きだけど優しくないとNGらしい(矛盾してるような;)


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