・突発的なえろ


「いい匂い〜」

ぎゅう、と抱きついてきた湊を軽く叩き、一応の抵抗を示してから遥はため息をつく。大学が午前だけで終わる今日、昼食を食べてからはだいたい昼寝をするのに自室にこもる遥だが、それを湊が追いかける形で一緒に惰眠を取ったり、はたまた昼寝とは違った意味でベッドに引きずりこまれたり。今日は特に疲れも溜まっていないので勉強でもするかと思い立ったのだが、やはり湊は部屋の中まで追いかけてきた。とはいえドア付近でこんなことをするのはどうかと思う。いや、場所は関係ないか。

「シャンプーの匂いだろ」

髪の匂いをすんすんと嗅いでいた湊に(若干息が荒いのは気のせいか)告げればくすりと微笑まれる。

「違うよ」

「っ……」

首筋を唇でたどられ、遥は漏れそうになった声を慌てて呑み込んだ。

「遥の匂いだし。このへんも」

「っ、やめろ……」

襟元のシャツの袷から鎖骨あたりにキスをされ、拒まなければ何だかおかしな気分になってしまいそうだ。湊は小さく笑い、赤くなりかけている耳をぺろりと舐めた。

「っ、……だから、やめろって…」
「本気で言ってるようには全然聞こえないけどな」

からかうような湊の声に、遥はそっと唇を噛む。確かにそうだ。本気でやめて欲しいと思うなら逃げればいいのだから。

「まぁ、素直じゃないから遥なんだろうけどさ」

口元を緩めると、湊は遥の手首を掴んで少し乱暴にベッドへ投げ出す。遥が倒れ込めばぎしりとスプリングが鳴った。

「かわいい遥を欲求不満にはしておけないしな〜」

「っは!? お前と一緒にするな!」

湊の発情期にシーズンオフなど存在しない。もし期間が空いたとしても、その次は間違いなく足腰がガタガタになるまで蹂躙される。だから定期的なもので我慢してやっている──というのが遥の建前である。

「俺だって遥だって性別に違いはないわけだし、発情すんのも仕方ないだろ?」

無駄に外見が爽やかな湊がこんな台詞を吐いているのを彼のファンに聞かせてやりたいものだ。たまに遥はそう思う。
「遥も終わりのほうは理性吹っ飛んでねだってくるくせに」

「誰がそんなことするかっ!」

遥が記憶しているのはせいぜい湊が達したあたりまで。それ以降はほとんど自我が保てていない。湊は嬉しそうに尋ねてきた。

「じゃあ今度記録しといてやるか」

「するなっ!」

後日それを見せられた時にどんな顔をしろと言うのか。自分の痴態などまっぴらごめんだ。

「ってことは認めたんだな?」

「? ………………っ!」

「いろいろおねだりしてくれるのは一応の自覚あってのことなのか」

「っ〜!」

遥はぎりぎりと唇を噛み締めて湊を睨む。湊は飄々とそれを受け流し、シャツの上から遥の体を撫でてきた。

「っ……」

「もう体があったかい」

遥はいつも低体温なので比較的湊に抱きしめられると暖かく感じる。こんなふうに熱を持ってしまうとわからなくなるが。

「まぁ……たまには男のロマンも研究してみたいけど」

「は?」

遥が訝しむと、湊の指がシャツの袷をなぞる。

「ほら、ボタン吹っ飛ばすくらいシャツ引き裂いたり」

「はぁっ?」

「嫌がるのを無理やりねじ伏せたり自分で服脱がさせたりそれから」

「もういい!」

考えたら恐ろしくなってきた。見た目にそぐわずなかなかSな湊の考えることなど遥には計り知れない。

「嘘だって、そんな怯えないで」

遥の表情を読んだ湊は軽く唇にキスを落とす。それから遥の眼鏡を外し、今度はゆっくりと唇を重ねた。

「ん……んぅ……っ」

ちゅっと唇を吸うだけの甘い口づけが何度も続く。少しずつ官能を呼び覚ましていくようなそれに、ずくずくと体の内側から熱が込み上げた。

「あぁ、だめだよ遥」

「ぇ……?」

覆い被さっていた湊が、ゆっくりと左脚をずらす。それから悪戯っぽく微笑んだ。

「えっちなことはすぐ覚えるから。そこがもう熱いからって、脚に擦り付けたりしないように」

「だっ、誰がそんな……っ」

確かにジーンズ越しのそこは既に頭をもたげ、早く触ってほしいと脳に訴えている。だからといって、湊にどうにかするような浅ましい真似はしないのに。

「遥が"触って"っておねだりするまで今日は触らないから」

「そんなの言うわけ……んっ」

シャツに潜った手が首もとまでくれば自然と肌を晒す形になる。尖りかけた乳首にそっと指を伸ばし、湊は優しくそこを撫でた。

「ぁ、んっ……ん…」

「いつも声殺すけど、出していいんだよ?」

ただただ乳首を掠めるだけの弱い愛撫が、じわじわと理性を溶かしていく。いつもみたいにもっと責めてほしいと思っても、僅かに残る自我が必死でそれを留めていた。

「そのほうが遥も気持ちいいんだし」

「んっ……いいわけ、ない…っ」

たとえ体の変化が明らかでも、認めるのはあまりに癪だ。遥が強情にもそう言えば、湊はにこりと笑った。

「そっかー、じゃあもっと強くしないと気持ちよくないんだ?」

「っ、ちが……ぁっ」

指に挟まれた乳首をくりくりと揉まれ、尖った先端を押しつぶされる。びくびくと腰が揺れて、遥は漏れる声を押さえきれずにいた。

「んっ…ん、はっ……ぅ」

触れられるたびに息を詰めてしまい、どんどんそこが過敏になっていくのがわかる。散々弄られ、ぷくりと膨れたそこは真っ赤に色づいた。

「まだ恥ずかしがってる? もっとかわいい声聞かせてほしいのに」

わざと耳元で吐息を吹き込み、湊は甘く低い声で囁く。遥が小さく首を振れば、湊は触れられていないほうの乳首をきゅっと引っ張った。

「んあぁ!」

「ほら、かわいい声だ。ちゃんと感じてるみたいだね」

そのまま腫れた乳首にゆっくりと唇を落とし、もう片方はつまんでぐりぐりとこね回す。唇で挟み、時には甘く歯を立ててやればびくりと体が跳ねた。

「あ、も……やぁ、やめ……っ」

ぐい、と遥は湊の髪を引っ張る。快楽に弱い体はすっかり火照り、生理的な涙で目は潤んでいた。

「何で? 気持ちいいなら別にいいだろ?」

わざとらしく尋ねてやれば、遥は唇を噛んで首を振る。湊は再び胸に唇を寄せたが、さっきずらした左脚を少しだけ戻してやった。

「んぅ、あ……っ、ん、はぁ……っ」

ちろちろと乳首の先を舌でくすぐれば、遥はゆらりと身を揺らす。そして熱を持った部分に湊の脚が触れると、ためらいながらもゆっくりとそこを押しつけた。

「あ……んっ、あぁ……」

高ぶったそれがゆるゆると太股を掠めていく。ちゅう、と乳首を強く吸って体を起こした湊は、意地悪にもその脚をまたずらしてしまった。

「あ……っ」

突然の喪失感に、べったりと濡れた声が上がる。湊は殊更優しい声で促した。

「おねだりしなきゃ触らないって俺言っただろ?」
遥はきゅっと眉を寄せ、小さな口を開いた。

「……さ、さわっ…て…」

頬から耳が真っ赤に染まり、消え入りそうなか細い声で囁く。湊は更なる難題を課した。

「早く、は?」

「は……はやく……っ」

やはり切羽詰まっているのか、遥はさっきよりずっと従順だ。
湊はジーンズと下着を脱がせてやり、白く細い脚を撫でながら開かせた。

「何でこんなにとろとろなの?」

遥自身は既に蜜にまみれ、湊が目にすれば羞恥を感じたのか新たな蜜がとろりと伝った。

「感じすぎだよ」

「るさい……っ」

かぶりを振った遥の額に口づけ、湊はつーっと指先で高ぶりをなぞる。ひくりと震えた先端に行き着くと、僅かに開いた窪みをぐりぐりと抉った。

「あっ、あぁあ……っ!」

ぷしゃっ、とそこから白濁を飛ばし、遥は大きく体を震わせる。それでもなお抉るように擦ればがくがくと膝が揺れた。

「やぁ……っ、また、あ、っぁ…」

あまりの快感にきつく目をつむり、遥は背をしならせる。

「またイっちゃいそう? ほんとに堪え性がないな……こっちにも欲しい? ひくひくしてる」

「ふあぁ!」

ずぶ、と白蜜をまとった指が後孔に突き立てられる。そこは早くもきゅうきゅうと指に絡みつき、熱を絞り取るようにうねった。

「こんなに淫乱になるとはね……調教しがいはあるけど」

言葉とは裏腹に、込み上げる愛しさをキスで表す。後ろをほぐす指を動かせば、遥はしがみついてきた。

「んふ……ぅ、んっ、ん」

「ん……、遥はキスが好きだね」

無理な体位でも、キスだけはいつもねだってくる。自我をなくしているからこそ、その時に本性が出るのだろう。

「口にする以外のキスも好きみたいだし」

触れられるだけでも過敏に反応する乳首をちゅっと吸うと、自身がふるっと揺れる。

「遥、もう入れていい?」

指でかき回していたところに熱くたぎる楔を押しつければ、遥はこくりと頷く。既に理性など粉々に砕かれてしまったらしい。

「入れるよ」

「ぁあ……!」

中を傷つけないように、最初はゆっくりと沈ませていく。徐々に慣れてきたら、抜き差しも含めながら埋め込む。

「はう……あぁ、もっ…」

「ん? 何?」

湊は優しく尋ねる。遥は恥ずかしそうに顔を逸らし、小さな声で呟いた。

「も……っと、お……おくに、きて……」

羞恥を無理やり押し殺したようなか細い声だが、湊のたがを外すには十分だ。いいよ、と頷き、遥の両脚を大きく開かせて腰を進めた。

「ひあぁっ」

「ほら、ちゃんと奥まで入ってるだろ?」

少しずつ体を揺らしてやれば、柔らかくほぐれた中がきゅんと反応する。慣れてきた頃、遥の感じるところに楔を打ちつけた。

「ふあっ……あぁ、や……っぁう!」

すっかり感じきった表情は普段の凛々しいそれとは凄まじいギャップだが、涙で潤んだ瞳も火照った体も、何もかもが湊を煽る。気づけばずぶずぶと奥を突き上げていた。

「そ…っな、うごいちゃ……らめっ、んあぁ!」

きゅうう、と中の粘膜が楔を締めつけ、湊もたびたび息を詰まらせる。遥の中は熱く、先走りによってだいぶ滑りがいい。

「はぁ……遥ももう出そうだな」

「あんっ! あ、それ、さわ、ったら……ぁっ」

はしたなく蜜を滴らせる遥自身を握りこみ、突き上げるペースに合わせて扱いてやる。締めつけがいっそうひどくなった。

「遥……? どこに出してほしい…?」

動きをいったん止めてから尋ねれば、遥はゆるりと自らも腰を揺らして艶めいた声を漏らす。

「な、か……」

「は……そっか」

正気なら絶対に言わないだろう。湊は微笑み、遥の曲げた膝を胸まで押しつけて腰を入れる。ずんずんと熱い楔で奥を穿たれ、遥はきつくしがみついてきた。

「あぁっ、も……やぁ、いっ……ぁあああっ!」

「ん……っ」

遥が達すれば粘膜がぎゅうっと締まり、湊はそれに合わせて白濁を散らす。どくどくと注がれる熱さに、遥は小さく体を震わせた。

「好きだよ…遥」

抱きしめれば同じ温もりを感じられる。遥は薄目で湊を見つめ、そしてくたりと体の力を抜いて眠ってしまった。

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