・湊視点


「そろそろか…」

落とし蓋をして作っていた煮物の具合を見てから、壁時計に目をやる。煮る時間を計っていた意味もあるけど、遥の帰宅時間の確認も兼ねてだ。
遥は今日、珍しくバイトに行っている。といっても本格的にどこぞへ雇われたわけではなくて、大学の一日限りのバイトだ。俺たちの大学の一年生は、年に二回ほど英語のテストを受けさせられる。それは将来企業に提出されることもある大事な試験だ。その試験監督を担うバイトが毎年募集されていて、そっちの方面にまるで動かない遥が何故か立候補したらしい。まぁ、大方の見当はつく。日給がもらえたその足で、意味不明な数字が羅列している参考書を買いにいくはずだ。
面接まであったのにいつの間にかそつなくこなし、今日は休日だけど頑張って早起きをして出かけていった。俺はその前にバイトで出ていたから、一応メールでモーニングコールはしておいた。

「バイトなんて、よく頑張ったなぁ」

試験監督といえど、人前に出て説明したり解答用紙の整理をしたり、日給が高いだけあってハードな仕事なのに。なんだか遥の成長が窺えた気がして、胸がほっこりと温かくなった。

「あ」

玄関のほうで物音がした。すぐにリビングのドアが開き、仏頂面で体を震わせた遥が闊歩してくる。

「寒い…」

第一声は予想通りだった。コートにマフラーまでしていても、夜の寒さは芯まで冷えるのだろう。

「お疲れ。頑張ったな」

眼鏡を外して曇りを拭いながら、遥はふんとそっぽを向く。照れくさいのか。

「ご飯、できてるから……」

着替えておいでと言おうとして、瞬時に俺は固まった。

「? なんだ…」

そうだ、すっかり忘れていた。大学の掲示板に、このバイトの募集要項が貼られていたじゃないか。そこで確かに、見たはずだった。

『尚、当日は男女共にスーツを着用して下さい』

「スーツううう!」

「は…? っ、離せ、うっとうしい…っ」

コートを脱いだ遥に抱きつくと、冷たい手が俺を押し返してくる。
遥のスーツ姿なんて入学式以来だ。あの時はいろんな手続きだの引っ越しだのでそんな余裕なかったけど、こうしてじっくり見ると凄く似合うと思う。
特に、きっちりと締められたネクタイとか、細い腰が強調されるところとか、なんというか──ストイックで物凄くたまらない。
そんな心の声を荒い息が代弁していたらしく、遥はさっと顔色をなくした。

「……おい。さっさとどけ」

「まぁまぁ。寒かったんだろ? あったまればいいじゃん」

「…こたつに行く」

「人肌もそこそこいいもんだよ?」

後ろから羽交い締めにした体をゆっくりと撫で、ひやりとした耳を舌先でなぞる。途端にびくっと揺れた腰を掴み、体温を移した耳にかぷりと歯を立てた。

「っぁ……」

小さく漏れた声に蓋をするように、遥は口を手で押さえる。その間にジャケットのボタンを外して脱がすと、グレーのベストが現れる。さすがにシャツとジャケットじゃ寒いもんな。けれど、そんなのもお構いなしにベストに頭をくぐらせる。

「やめろ…っ、こんな……あっ、ん…っ」

首筋に吸いついてやるとすぐに抵抗は止む。シャツのボタンを外しつつ、強く吸って痕を残してやった。俺が満足そうに笑うと、肘を曲げてどついてくる。わき腹が若干痛んだけど問題ない。

「まだ寒い? 乳首立ってる」

「っふ……ぁあ、あっ」

はだけたシャツの胸元から手を滑り込ませて、かわいく尖るそこをくりくりといじめてみる。

「それとも、興奮してる? 腰、揺れてるし」

「っ、ちがぅ……んんっ」

摘んできゅっと引っ張ると、少し乾燥している唇から甘い声がこぼれる。胸に置いた手をそのままに、逆の手でスラックスの上から中心を押した。

「んぁ!」

「ほら、ちゃんと反応してる。最近ちょっと忙しかったし……自分でも、してないんだろ?」

全くしないわけじゃないんだろうけど、たぶん遥は自分で慰めてもイけないと思う。本人も前にそう言っていたし(言わせたんだけど)、遥のいいところは誰より俺がよく知っている。いや、俺しか知らないはずだ。

「ふ、んっ…んぅ……っ」

いったんその手を上に戻して、両手でそれぞれ乳首をいじってあげるとぶるぶると体を震わせる。この感じ具合だと、おそらく下はもうぐしょぐしょだな。

「ベッド行く?」

すっかり熱を持った耳に、殊更低い声を吹き込む。ずいぶん前に知ったけど、遥は割とこの声に弱いみたいだ。背中を指でつーってなぞった時みたいな反応をした。

「ぅ、るさい…っ」

「でも、もともと疲れてるんだし立ったままはつらいだろ? ね、ベッドのほうがちゃんと可愛がってあげられるから」

涙目で睨まれても俺の俺がおっきするだけなんだけどね。悔しそうに頷いた遥を横抱きにして、俺の寝室まで運んでいく。火の気のない部屋だったけど、俺は(きっと遥も)興奮で寒さなんて感じなくなっていた。
ベッドにそっと下ろして、ずっとできなかったキスをする。柔らかい唇に触れれば体がかっと熱くなって、どこまでも余さずに蹂躙してやりたい気持ちが押し上がってきた。

「ん……ふぁ、んっ…む…」

舌を深くねじ込んで、逃げる遥の舌を絡み合わせる。そのままちゅっと吸うと、組み敷いた体が小さく跳ねた。

「っは……遥…」

舌に絡まった唾液がぷつりと切れ、そのまま白い首筋に顔を埋める。会場は暖房で暑いくらいだったろうに、ちっとも汗なんてかいていないみたいだった。すんすんと鼻先を押し当て、遥の匂いを堪能しながらシャツを左右に開く。中心線を隠すように垂れたネクタイが無駄にエロい。滑らかな肌に唇を這わせて、触れる場所全てを吸って痕を散らしていった。

「んぁ……っ」

さっき指で触れた胸にキスを落とす。濡れた声がもっと聞きたくて、ちゅっちゅっと何度も吸っては舌先で転がした。

「っは……ぁう、あっ、やぁっ」

その間に外したベルトをかいくぐって、スラックスへ手を忍ばせる。下着の上からきゅっと握り込めば、じわっと手のひらに湿り気が伝わってきた。

「凄い濡れてる…やっぱり興奮してたんだ」

「やっ、離せ……っ」

涙を浮かべて顔を真っ赤にして。あられもない声を放つ遥に、俺も余裕を削がれてきている。でもそれよりは、気持ちよくしてあげたいとか、はたまた──いじめたいとか、そんな思いのほうがずっと強い。
スラックスと下着を片足から抜いて、両脚をぐいっと開かせる。遥は恥ずかしそうにかぶりを振って脚をばたつかせた。

「かわいい。もう…こんなにとろとろにして」

「んん……!」

ぬるりと滑る先端を撫で、蜜の滴るそれを根元から扱く。まだ触れられてないにもかかわらず、そこはびくびく震えて今にも爆ぜてしまいそうだ。

「真面目なこと散々してきたんだから、そろそろえっちになってもいいよ」

「ふぁっ、あ……っ、ん!」

張りつめたそこを優しく擦りつつ、弱い乳首やわき腹に唇を落としていく。↑main
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