「あんまり……言うな」

ぷい、と恥ずかしそうに顔を逸らした遥に小さく笑い、湊はその首筋に口づける。

「今日はほんと……至れり尽くせりだね」

「あ……っ」

背中を滑り下りた手が、さっきほぐした場所を指で撫でる。途端にずくんと体の奥から疼きが生まれ、湊の奉仕に夢中で忘れ去っていた快感を呼び起こしてきた。

「そろそろ、ちゃんと遥を抱いてあげなきゃね」

「………」

素直に身を委ねたい気持ちはあった。むしろ、耐え難いくらいの欲求しかない。
けれど──さっき自分で言った通り、今日は特別な日なのだ。湊のために尽くすことができるのも、おそらく今日を過ぎたら羞恥が醒めるまでしばらくない。だから自分でも今できることは今のうちにしておきたいと思うし、湊の望みはなるべく叶えてやりたい。

「……いいのか」

湊はぱちりと瞬きをして顔を上げた。

「もう、してほしいこととか…本当にないんだな」

ないと言われたら楽にはなるのだろうが、ちょっと寂しい気もする。夕飯のメニューを尋ねた時の自分の反応が"何でもいい"の時は、湊もこんな気持ちになるのかもしれない。だが、

「いっぱいあるよ、そんなの」

苦笑混じりに告げられた台詞は遥の予想をあっさり越えるものだった。

「あるのか」

「うん。俺はもう十分嬉しいけど、人間ってだめだよな。ほんと、欲が尽きなくてさ…」

腕をまわされ、背後から密着されて遥はどきりとする。自分が懸命に奉仕をして慰めたものが、既に張り詰めて腰にあたっていたのだ。

「俺の我が侭、聞いてくれる?」

頭をもたげた欲望とは裏腹に、湊は甘えるような声で尋ねてくる。とくとくと早めの脈を刻み、不思議な興奮に包まれていく感覚を覚えながら、遥はこくりと頷いた。

「言えば、いいだろ…」



なんて、気軽に言うんじゃなかった。そう後悔してももう遅い。

「ん……っく、ぅ」

「うわ、絶景」

悠々と寝そべっている湊はうっとりと恋人に見入っている。その恋人はというと、仰向けに寝た湊の腰に跨るようにして座っていた。

「て、つだ……」

「手伝わないよ。遥ならできるから、頑張って」

懇願を笑顔で流し、はぁはぁと吐息をこぼす遥をじっくりと眺める。

『じゃあ、自分で入れてみて?』

自分でもかなりの意地悪をしたと湊は思っている。ただでさえ疲れているだろう遥に、こんなことまでねだるなんて。

「は……んっ、はいんな…っ」

湊の楔を軽く手で支え、その上に腰を落とそうとするのだが、先走りで滑るせいでそこはなかなか開いてくれない。けれどそこにぬるぬると擦りつけているだけでも興奮は増し、触れられない遥自身もぽたぽたと湊の腹に蜜をこぼしてしまう。

「かわいー。擦って感じてる?」

「っや、見るなっ……ぁんっ」

舐めるように自分を見つめてくる視線に耐えられず、遥はぎゅっと目をつむる。だがすぐに性器をぴんと指で弾かれ、先端からとろりと蜜が溢れた。

「ほら、早く入れて? 遥のここも、繋がりたくてひくひくしてる」

「んぅ……っ」

支えたものの先端がぐりっと後孔に押しつけられる。その熱さにびくりと腰を僅かに浮かせ、遥は困ったように眉を寄せた。

「もっと、ぐっと腰を落とさないと。滑っちゃうだろ?」

「ん、ふぅ…ん……っ」

助言を受け、言われた通り少し勢いをつけて腰を下ろしてみる。すると、切っ先がぐいっと入り口を押し開いてきた。

「んっ、あぁ……!」

「そうそう……あ、ちゃんと体支えないと一気に入っちゃうよ」

ぺたりと湊の腹筋に両手をあて、シーツについた膝に力を込めて体重をコントロールする。そうでもしないと湊の言う通り、あっさり奥まで貫かれてしまいそうだ。

「あっ、はぁあ……っ、ん…!」

熱い先端を呑み込むと、中の粘膜がすぐに絡みついていくのがわかる。これから与えられるだろう質量と刺激に備え、びくびくと内部が脈打っていく。徐々に満たされていく感覚に何度も腰の奥が震え、遥は甘い吐息をこぼした。

「やっぱり、こういうのもたまにはいいな。遥のかわいいとこ、じっくり見られるし」

「っや……、見なくて、い……んぅっ!」

弱い場所を掠めつつ楔がより深く潜り込み、遥は軽く仰け反るようにして快感をこらえる。湊は満足そうに目の前の光景を眺め、小さく遥の腰を揺らして催促した。

「あぁ……っ」

「いつまで焦らすの? 早く、ひとつになりたいんだろ?」

俺もだけどね、と微笑む湊を照れ隠しに睨み、遥は再び腰を落としていく。

「ん、んっ……あっ」

だんだんと深いところを開かれていくと、意識しなくてもそこが勝手に湊を締めつけてしまう。やがて全てを受け入れた遥は、ぺたんと座り込んで荒く息をついだ。

「お疲れ。って言いたいところだけど、遥が動かないと気持ちよくなれないんだ」

「はぁっ!? あっ、やぁ……っ」

下からずくんと突き上げられ、火照った体がさらに熱くなる。湊は遥の腰を掴み、そっと前後に揺すった。

「はぁ、あっ、あん……っ」

「気持ちいいよな? でも…遥が自分で動いて、いいとこに当たるように頑張ってくれたら、もっと気持ちいいよ」

頭の中を麻薬で満たされていくようだ。甘美な誘惑を快楽と共に流し込まれ、疼く体は簡単に陥落してしまう。だめだと思いながらも、ずっと湊に飢えてきた体は自制できるはずがなかった。

「ん……やぁ…っ」

湊の腹に手を置いて、腰をゆっくり持ち上げる。楔が引き抜かれる寸前で止め、また腰を下げて呑み込んでいく。まさかこんなにあっさりと動いてくれるとは思わなかったのか、湊は驚いた顔をしていた。

「遥、理性飛んでる…?」

「んっ、ちが……あっ、やだ……見る、な…っ」

奥を突き刺されたまま湊の下腹部に腰を擦り付けると、くわえこんだそれがたびたび感じる箇所を叩いてくる。じっと自分を見上げてくる視線が恥ずかしくて、遥は思わず目を逸らした。

「こっち向いて? ね……遥のかわいい顔、ちゃんと見せて」

「や……っ」

馬乗りになって好き勝手に腰を揺らめかせている自分は、湊の瞳にどれだけいやらしく映っているだろう。考えただけでも頬がかぁっと熱を帯びる。

「ね? お願い」

「っ……ふ…」

けれども、優しい声で懇願されるとどうにもだめとは言い切れなくなってしまう。いつだってそうだ。湊は本当にずるい。

「あ……っ」

視線が絡むと、穏やかなのにすっかり欲情しきった瞳が自分をじっくりと見据える。どきどきと心拍数が急激に上がったその時、ずん、と下から不意に突き上げられた。

「───っ!」

高所から飛び降りた時のように、背筋からぞくぞくと何かが這い上がってくる。気づいた時には、湊の腹に白濁を吐き出していた。

「イっちゃったの?」

ぬるりとしたそれを指ですくって湊が微笑む。だが我に返った遥はじわっと涙を浮かべ、小さくしゃくりあげてしまう。

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