「こっちでイかせてほしいってことでいいのかな?」

自由になった手を軽く振り、湊はちらりと遥を見やる。とっさに遥はそっぽを向いた。

「もー…素直じゃないな」

「んぁっ」

張りつめた自身を緩く扱き、弱い箇所を的確に指で擦り立てる。再び快感の波が押し寄せてくるのを感じ、遥はきゅっと目をつむった。

「ん、はぁ……っ、あっ、も……」

意識が耳だけに集中すると、出したものをくちゅりと指へ絡める音にさえ体が震える。いいよ、と湊に優しく促され、遥は手の中に熱を吐き出した。

「は……ぁ…」

心地よい疲労感に包まれて、遥はくったりと湊に身を預ける。しかし太腿のあたりに熱いものが触れ、思わず脚を引いた。

「ああ……びっくりした?」

湊は苦笑してぽんぽんと頭を撫でてくれる。脚に触れたのはすっかり頭をもたげた湊のものだと知ると、遥は下を向いて頬を赤くしてしまう。

(当然と言えば……当然、なのか…)

自分のように体に触れられたのでなくても、性的興奮を覚えれば当たり前のように生理現象は起きる。遥にだってその経験はあるし、男として仕方ないことだというのも知っている。
なのに、いつも服の下に隠されているせいで気づけなかった。湊はこんなにも我慢をさせられてきたのだと。

(こんな状態で……つらくないわけないだろ…)

本当はすぐにでも挿入してしまいたいはずだ。けれど遥がつらくないように、こうして前戯を十分にして緊張をほぐしてくれている。自分の欲求は二の次でいいのか、単に遥の体に多く触れたいのかはわからないが、どちらにせよ遥を大事にしているからこそだろう。

「………」

「遥?」

しばらく黙っていたからか、湊が心配そうに顔を覗き込んできた。

「あの……なんかごめん。引いちゃった? 遥の顔とか声とか……触ってるだけでも凄く気持ちいいというか…ついそうなっちゃうんだけど、男に欲情されるって気持ち悪い?」

「はぁっ?」

何を今更と言わんばかりに遥が眉をひそめれば、湊はぼそぼそと喋り始める。

「俺は普通だと思ってても、遥はそうじゃないかもしれないし……びっくりされるってことは、そうなのかなって──」

「違うっ!」

湊の言葉を遮って叫べば、湊は弾かれたように身を竦ませ、おずおずと安堵の表情を浮かべた。

「そっか…」

それでも今ひとつ納得しきれていない湊を小突き、遥は続きを急かすことにする。しかし湊は首を緩く振り、遥の体を腕の中に収めた。

「せっかく抱き合えるんだから、もうちょっとこうしてよ? ね?」

(っ……何なんだ…)

つらそうな体で我慢なんてされるくらいなら、強引にでも行為を押し切ってほしい。遥だってその覚悟で臨んでいるのだから。

「………」

今触れているのは、細くて薄っぺらい自分の体ではない。そう自覚すると心臓がどきどきと鳴り響き、少なくとも自分はこうした行為に嫌悪を感じていないのだとわかる。

『たまには、小宮にも返してあげたらどうかな』

相談の際、佳奈子から言われたことをふと思い出す。彼女はなんと言っていただろう。

『そういうのってやっぱり、お互いの気持ちが大事なんだと思うし。遥ちゃんがちょっとでも小宮を大切に思ってたら、その気持ちが何より嬉しいと思うんだよね、あいつは』

(大切に……か)

改めて考えればそうかもしれない。いつも湊にばかり任せてきたけれど、愛を交わし合う行為でそれはおかしいではないか。自分から何かしたいと思ったから湊を誘うことだってできたのだ、その思いがあればもっと湊を気遣うことができる。

「遥……?」

湊の腕をほどき、遥はそっと身を屈める。直視するのは恥ずかしくて仕方なかったが、高ぶった湊のそれをゆっくりと手で包んでみた。

「はっ!? え、ちょっ…」

狼狽える湊をよそに、軽く握り込むようにして上下に擦っていく。僅かに湊の体が震えたのを感じ取り、両手で何度も扱いた。

「遥……? ほんと、どしたの…」

「うるさい……」

話しかけられて返事ができるほど呑気な状態ではない。遥の頭の中だって軽くパニックを起こしているのだ。鼓動はどくどくと騒がしく響くし、あまりの羞恥で気が狂いそうだった。
それでも、湊が少しでも楽になれるよう必死に手を動かす。手の中のものは刺激を受けてびくりと揺れ、より熱さを増していく。

(あとは……)

はぁ、と熱っぽい吐息を放つ湊を一瞥し、遥は自分の手のほうへそっと顔を近づける。しかしすぐに頭を押さえられ、上から湊の声が降ってきた。

「いいよ、そんなことしなくて」

「……迷惑なのか」

せっかく決心したというのに、遥は困惑してしまう。もしかして湊はこういう見返りが嫌なのだろうか。だが、頭上からの声は欲情に掠れていた。

「そんなわけないだろ。して欲しいけど…」

「だったら黙ってろ」

言い澱む湊を一刀両断し、決心が揺らがないうちにと思いきって唇を近づける。覗かせた舌でぺろりと先端を撫でてみると、湊は驚いたように目をみはった。

(大丈夫……か?)

思ったより嫌悪感がないことを確認し、ぺろぺろと舌を這わせてみる。一瞬、湊がきつく目をつむった。

「ほんとにさ……どうしちゃったんだよ…」

嬉しそうな、それでいて困ったような声音だ。遥はいったん舌を離した。

「いつもお前がしてるのを……やっただけだ」

多分に羞恥を含んだ台詞に、湊が小さく笑う。

「遥がご奉仕してくれる日が来るなんて思わなかったな。…ありがと。嬉しいよ」

「……最初からそう言え」

耳まで赤らめた遥は、照れを隠そうと再び唇を近づける。ちゅ、とキスを落とすようにすると、湊が髪に軽く手を添えた。

「手で支えて、下から舐めてくれる?」

優しい声で促され、遥は小さく頷くと言われた通りに舌を滑らせる。自分から迫っておきながら、具体的に何をすればいいのかはよくわからなかったので従うほかない。それに、湊がしてほしいことを実行するのが一番いいのだろう。

「ん……ん…」

先端まで行きつくと、頭に乗っていた手が褒めるように髪を撫でた。何かしたい、という自分の気持ちを湊がやっと認めてくれたような気がして、胸の奥がほわりと温かくなった。
この次はどうするのかと目で問いかければ、濡れた瞳と視線がかち合う。挿入時以外で、湊がこんなにも余裕をなくしていたことはなかったはずだ。

「少しだけ口に入れて……そう、舌も動かして」

欲の絡んだ低い声が降ってくる。両手で掴んだものの先端を、遥は軽く唇で食むようにした。すると、湊がすぐに顔を歪める。

「いたっ……」

(まさか……)

どうやら歯が当たってしまったらしい。そう気づくなり慌てる遥を大丈夫だよとなだめ、湊はそっと遥の頭を押し戻した。
気を取り直して、今度は注意しながら先端を再度口に含む。ちゅっと吸い上げてみると、髪をくしゃりと掴まれた。

「ん……む…」

いつも湊にされることを思い出しつつ、舌で先をつついたり、入りきらないところを両手で扱いたりして遥は奉仕を続ける。湊に触れているだけなのに、不思議と自分の体もじわじわ熱くなっていくのがわかった。

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